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第51話 営業再開

 私がオルレアの街に戻って、一月ほどが経った。

 その間に、ピエトロ商会の悪事が次から次へ(あば)かれていき、国全体規模での大事(おおごと)に発展している。


 まず、ピエトロ商会のオルレア支店長だったドミニク。

 彼は、蛇の魔物の偽装騒動や竜人サマ事件に関与していたことを白状した。


 もともと、ピエトロ商会には()()()()とやらが存在していたらしい。金儲けになりそうなネタを探しては、秘密裏に手を回し、事件を引き起こす。または、事件が起こるように誘導する。

 そうして、商会は利益を得ていたのである。


 蛇の魔物の偽装騒動と竜人サマ事件もピエトロ商会の工作の一環だった。

 さらには、西区の住人の間で妙な咳の病が流行(はや)ったこと――広場に置かれた竜の像が原因だった――あの件もピエトロ商会が仕組んだことで、自社の薬を売るためのマッチポンプだったのである。


 ドミニクによれば、このような工作はオルレア支店だけではなく、王国各地の店舗で行われていることだと言う。

 この情報はすぐに王立騎士団にも共有され、全国のピエトロ商会に捜査のメスが入ろうとしていた。


 ピエトロ商会の裏の仕事――これを請け負っていたのは、オルレアの街では(くだん)の竜の仮面の魔導士だった。

 ただ、その正体についてはドミニク自身もよく分かっておらず、現在もその魔導士がどこで何をしているのか、行方が掴めていない。



 さて、ピエトロ商会の件は、ドミニクの話に留まらない。

 実は、オルレアでのプラジール病の流行原因が、ピエトロ商会である可能性が浮上したのだ。

 オルレア騎士団の調査により、最初の感染者とみられる子供の浮浪者は、街の住民ではないことが判明した。

 そして、その子供の供述では、彼はプラジール病の散発的発生地域からピエトロ商会の関係者とみられる男によって、この街に運び込まれたとのこと。


 これが本当であれば、大事件である。

 なにせ、ピエトロ商会は故意にプラジール病を流行させようとしたことになるのだから。

 多くの人間の命を危険に(さら)したことは、とても許せるものではない。


 現在、クローヴィス侯爵が国王に直訴し、オルレア騎士団は王立騎士団と協力して本件を捜査していた。

 この一連の事件には、当然ピエトロ商会の最高顧問であったジョシュアも一枚噛んでいると考えられ、現在彼は王立騎士団に拘束されている。


 元々、私の裁判の結果が国全体に広まって、イメージダウンが(はなは)だしかったピエトロ商会。それに追い打ちをかけるように、ここにきて(さら)なる悪事が露呈(ろてい)し、人々の信頼を完全に失うはめになってしまった。

 老舗の大店だったピエトロ商会は、どの店舗でも今は閑古鳥が鳴いているという。商会が完全に倒産してしまうのも、時間の問題と(もく)されていた。


 なお、ピエトロ商会のバックについていたサヴォイア公爵家だが、(くだん)の家門は早々に商会に見切りをつけたようだ。

 ピエトロ商会の悪行は全て商会の単独行動であり、公爵家は何の関係もない――と断言している。

 できるだけダメージを負うことを避けた公爵家だが、そもそもピエトロ商会という大きな資金源を失ったことは手痛い損失だろう。そして、これは貴族の情勢にも大きく関わってくるという話だった。



 そういうわけで、世間ではピエトロ商会の一件が大事(おおごと)になっていた。レオンもオルレア騎士団の長として、とても忙しそうである。


 さてはて。

 それで私はと言うと……私も私で、少々大変なことになっているのだった。



「……」

「……」

「……」

 

 私、母、ニナの三人は店の窓からそっと外を覗き、絶句する。

 開店前だと言うのに、店の外にはすでに長蛇の列ができているのだ。

 サカキ魔法薬店の営業を再開してから、ずっとこんな調子であった。



 私が王都にいる間、サカキ魔法薬店はニナと母の二人だけで店を回すことになった。当然、働き手が足りない。

 だから店舗の方は休業しつつ、騎士団をはじめとした定期購入の顧客への納品など、できる範囲で細々と活動していた。

 そして、つい先日。私が街に帰ってきて、サカキ魔法薬店の営業が本格的に再開したのだが……その結果があの長蛇の列である。


 商売繫盛は嬉しいが、明らかに店のキャパシティーを越えた盛況ぶりであった。

 うちは小さな店だ。一度に入れる客の人数は限られている。結果、店に入りきれない客は外で待つのだが、突如現れた大勢の客は近隣の店や住民の迷惑になっていた。店に入れず、帰ってしまう常連客を見るのも悲しい。


 目の前の問題に、私は頭を抱えていた。

 これは商品の生産量を上げるだけでは解決しない問題だった。従業員を増やすのではなく、店そのものの規模を大きくしなければならないだろう。

 


「どうしてここまで(うち)が人気なの?」


 聞く人によれば自慢ともとれるような悩みに、私がため息を吐いていると、


「そりゃ、当然。人気にもなるわよ」


 あっけらかんと幼馴染のアニーが言った。


 今日は店の休業日で、アニーがわざわざ遊びにやって来てくれたのだ。

 アニーは大きなお腹をさすりながら、私が()れたハーブティーを口にする。アニーのお腹の子はすくすくと育っているようだった。


「当然って?」

「だって、ジャンヌ。あなたはオルレアの街を救った救世主ってことになっているもの」

「そんな大げさな……」


 私が呆れて言うと、「大げさなものですか」とアニーは口を尖らせた。


「プラジール病の薬を作って皆を救ったのはジャンヌなんだから」

「私だけの力じゃないけどね」

「でも、一番の功労者はあなたよ。しかも、自分が裁判にかけられて罰せられると分かっているのにも関わらず、人々のために立ち上がったなんて……まさに悲劇のヒロインじゃない」

「そんな立派な心根でやったわけじゃないんだけれど…」


 ピエトロ商会と真っ向から戦おうと思ったのは、私とジョシュアの因縁もあったからだ。

 私怨が多分に入っているので、そんな自己犠牲心あふれるヒーローのように言われてしまうと、決まりが悪かった。


「重要なのは、ジャンヌがどう思おうと、街の人たちはあなたをそう思っているってことよ。だからこそ、店の人気は中々収まらないじゃないかしら?」

「それは嬉しいけれど困るよ…」


 私はハァと、もう一度ため息を吐いた。




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