第46話 真実の証言台(その参)
「裁判長!証人は嘘を言っています!」
アドリヤン検事が怒鳴った。
一方で、証人のアンナは悲鳴のような声を上げる。
「どうして!?私、私……嘘なんて言ってません!」
「真実の証言台が赤く光っているのが何よりの証拠です!」
「何かの間違いです!私は決して、嘘を言っていません!私を救ってくれたのはジャンヌさんです!信じてください!!」
「裁判長!証人が本当のことを言わない以上、証人尋問は即刻終了するべきです!」
「お願い、信じて!」
裁判長とその左右に座る裁判官たちは、何やら相談していた。
そして――
「検察側の意見を認めます」
そう、言い渡したのだった。
*
先ほど、証言台に立ってくれたアンナの言葉は真実だ。
けれども、真実の証言台は赤く光り、彼女の言葉を『嘘』と断じた。
私はもちろん心穏やかではなかった。動揺もしている。
しかし、「やはり」と思った。
ジョシュアの言葉で証言台が青く光っていたのを先に目撃していたため、ある程度想定できていたのだ。
ジョシュアの証言は嘘まみれだったのに、真実の証言台は青く光った。
一方、私側の証人たち。彼らはどちらも本当のことを口にしている。
しかし、レオンの言葉には青く光り、アンナには赤く光った。
そこから私は推測する。
おそらく、あの真実の証言台は真っ赤な偽物だ。
そして、その偽物がどのような光を発するか、ジョシュア側がコントロールできるのだろう。
レオンの証言で赤く反応しなかったのは、彼は証言のほかに物証を持っていたからか。また、その証言も私の人となり等を説明するものであり、私の無罪を決定するような証拠になり得なかったからだろうか。
よし、ここまでの状況は把握できた。
問題は、あの証言台が偽物だとどうやって証明するかだ。
それを皆に知らしめないと、私の有罪は確定するだろう。
もう動揺している暇なんてない。
今は、考えなければならない。
私のことを信じて、支えてくれた人たちにのためにも。
私は勝つ――!
*
「それでは被告人質問を行いますので、被告人は証言台の前に立ってください」
裁判長に言われ、いよいよ私が真実の証言台に立つ。
アドリヤン検事は余裕の表情でこう聞いてきた。
「あなたは裁判の冒頭で、自分はピエトロ商会から魔法薬の製造方法を盗んではいない。むしろ、ジョシュア氏に研究成果を奪われた被害者である。そう、おっしゃいましたね?」
「はい」
「その意見は、今も変わりませんか?」
ここで、「変わらない」と答えれば真実の証言台は赤い光を放つだろう。
それは分かっていた。だから、私はこう話してみる。
「それよりも先に、はっきりさせたいことが私にはあります。あなた方は、私にプラジール病の特効薬を作る才覚はない、そうおっしゃいましたよね?」
「え、ええ……」
「しかし、これでも私はオリジナルの魔法薬を幾つか作っております。そのように評価されるのは不服です」
アドリヤン検事やジョシュアは「いったい、何を話し出すんだ?」と怪訝そうな顔をしていた。
そこで、私はレオンの方を見る。私は彼の琥珀色の瞳をじっと見つめた。
「たとえば、私は護身用の魔法薬を作製しました。物珍しさもあって、私の店ではなかなか人気の商品です。ああ、もし小娘の戯言とお疑いなら、店の帳簿を提出できますよ。ぜひ、売れ行きをその目で確かめてください」
私の話に、証言台は青い光を放つ。
「実はこの魔法薬を作る上で、苦労もありまして。わざわざ魔物の出る森の中まで原材料を取りに行ったんですよ。冒険者ギルドに頼んだはずが、なぜかレオン様が同行してくれることになりましたが」
証言台は青い光を放つ。
「採りに行ったのはガセリ草です。まったく、薬を作るのも楽じゃありません」
証言台は青い光を放つ。
「私が作ったオリジナルの魔法薬は他にもあって――」
「もういい!」
私の言葉を遮って、アドリヤン検事が怒鳴った。
「ここは下らない自慢話をする場所じゃない!もっと状況をわきまえ――」
「それは変だ!」
今度はアドリヤン検事の言葉が遮られた。その声の主は他ならない――レオンである。
「ジャンヌが護身用の魔法薬のために採りに行ったのはアカリ草だ!ガセリ草じゃない」
私はレオンの言葉に内心にんまりした。
「ええ、そうです。アカリ草です。しかし、おかしいですね?」
「何がおかしいと言うんだ!?これ以上、無駄話をするなら本当に――」
青筋を浮かべるアドリヤン検事に私は告げる。
「私、わざと嘘を言ったのですが、どうして真実の証言台は青く光ったのでしょうか?」
ざわり――法廷中がどよめいた。
「確かに青く光っていたぞ」
「どういうことだ?」
「嘘と真を判別できる魔道具じゃなかったのか?」
傍聴人席からヒソヒソと声が聞こえ始める。
「私は田舎者で、この真実の証言台の素晴らしさがよく分かっていません。ここはひとつ、私の話す内容の正しいかどうか、証言台に判じてもらって、その力を確かめてもよろしいでしょうか?」
「裁判長!被告人はむやみに審理を混乱させようとしています!!」
アドリヤン検事が抗議の声を上げる。
そして、その表情からは、先ほどまでの余裕が消え失せていた。それはジョシュアも同じである。
彼らに同調するように、向かって左の裁判官もこう訴えた。
「裁判長。真実の証言台の信憑性は我々が良く知るところです。証言台を試すなど、裁判システムの冒涜になりまねません。そんなお遊びは止めるべきです」
彼らの話を聞いて、裁判長は考え込むように目を閉じる。
これは賭けだった。
ここで裁判長が私の提案を却下し、検察側の言い分通りにすれば、もはや私に打つ手はない。
そして――




