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第45話 真実の証言台(その弐)

 ロベール弁護士はこちら側の証拠として、私の王立魔法学校時代のノートを提出した。そこには、プラジール病の特効薬開発までの試行錯誤の経緯が詳細に書かれてあった。

 その他にも間接的ではあるが、私が特効薬の考案者であることを示唆する物証を幾つか提示し、その後に弁護側の証人尋問が行われた。


 まず、証人としてレオンが出廷した。

 彼は真実の証言台に立つと力強く断言する。


「俺はジャンヌの友人として断言します。彼女は誰かの研究成果を盗むような人間ではありません!」


 彼の言葉に対して、真実の証言台は青い光を示した。


「そして、ジャンヌは優秀な魔導士です。彼女には、特効薬開発に見合った実力があります」


 そんなレオンに、アドリヤン検事は意地悪く言った。


「ほぉ。あなたは相当、被告人を評価しているらしい」

「もちろんです。ジャンヌは魔導士としてオルレア騎士団に協力し、いくつか難事件を解決に導いた実績もあります」

「それは……それは……」


 クククと喉の奥でアドリヤン検事が笑う。


「あなた、レオン・クローヴィスが被告人にたいそう執心していることは、こちらも聞き及んでいます。まさか、クローヴィス侯爵家の御子息が、こんな平民の女に……ねぇ?」


 揶揄するようなアドリヤン検事の言葉。

 レオンは一見、直情型の人間だから、そのまま挑発に乗ってしまう可能性があると考えられた。

 しかし――。


「俺が貴族だとか、彼女が平民だとか。今、この場で何の関係があるんでしょうか?」


 いたって冷静にレオンが切り返す。


「なっ……」

「今の言葉、聞きようによっては本件と関係のないことで、ジャンヌを侮辱しているようにも伺えますが?」

「わ、私は……」

「貴族であろうと、平民であろうと、身分に関わらず素晴らしい才能を持っている者はたくさんいます」


 アドリヤン検事としてはレオンを(あお)って激昂させ、彼の証言が恋心からくる妄言だと裁判官たちに印象付けたかったのだろう。

 しかし、レオンの冷静沈着な切り返しに、むしろアドリヤン検事の方が悪印象をもたれる結果となった。裁判長に「無用な発言は控えるように」と注意を受けるくらいだ。


 レオンは証言を続けた。


「ジャンヌの人柄や才能を知っている人間は俺だけではありません!これまでも、今回のプラジール病の流行でも、彼女はオルレアの街の人々に尽くしてきました。彼女の無実を訴える嘆願書が山のように領主の下に届いています。もちろん、その証拠はいつでも提示できます」


 ちらりとレオンは、当事者席にいるロベールに視線を向けた。

 すると、彼は大きなカバンから、分厚い紙の束を取り出す。


「レオン様がおっしゃった嘆願書はここに。しかも、これはごく一部です」


 私は震える手で、その束から一通の手紙を手に取った。

 それは見知らぬ誰かからの感謝の手紙だった。

 プラジール病で大切な息子を失くすところだった。あなたの薬のおかげ息子の命が救われた。本当にありがとうございます――と、そこには書かれてあった。


「そもそも、ジャンヌがプラジール病の特効薬を作ることになった原因は、ピエトロ商会が我が領に法外な薬代を要求してきたからです」


 レオンがその金額を告げると、法廷内がどよめいた。

 疫病の流行で混乱している窮地につけこんだ、ピエトロ商会のあくどい商売方法に皆驚いたのだ。


「もちろん、これも証拠がありますよ。クローヴィス侯爵宛てに届いたピエトロ商会の押印のある手紙がね!」


 傍聴人たちが非難の目をジョシュアらに向ける。彼はたじろぎ、「そ……それは原材料の高騰のせいで……」と蚊の鳴くような声で呟いた。


「ジャンヌは自分が特効薬を作れば、ピエトロ商会から訴えられることも予期していました。それでも彼女は、オルレアの街の窮地を見捨てることができず、薬を作ってくれたんです!なお、彼女が領主に請求した金額はピエトロ商会から提示されたものの、数十分の一でしたよ」


 レオンは深呼吸をすると、さらに声を張り上げた。


「ジャンヌがピエトロ商会から魔法薬の製造方法を盗むなんて考えられません!彼女は誠実で、自分の仕事に誇りを持った魔導士です!!」



 私のために嘆願書を書いてくれたオルレアの街の人たち。

 そして、今目の前で、私のために熱弁を振るってくれているレオン。


 私は目頭が熱くなった。

 今、泣いている場合なんかじゃないのに。

 そう分かってはいるのに、いつの間にか涙が頬を伝う。


 私はジョシュアにまんまと騙され、夢に破れて故郷オルレアに帰った。

 街はずれで小さな魔法薬店を経営し、今の暮らしに不満などないように振る舞いながら日々を過ごしてきた。実際、魔法薬店の仕事にはいつも真剣に向き合ってきたし、充実していたようにも思う。

 ただ、ジョシュアから戦わず逃げてしまったことが()()()となって、心の奥底では過去の夢への思いがくすぶり続けていた。


 しかし、私は今()()()()ような気がした。

 私がオルレアの街で過ごしてきた日々は、決して無駄なものではない。そこで築き上げたものが確かにあったのだ――そう思えた。



 さらに証人尋問は続き、新たな証人が出廷した。現れたのは、若い娘だ。

 その姿を見て、私は「おや?」と思う。彼女に何だか、見覚えがあったからだ。


「私はプラジール地方の者で、アンナと言います。数年前、私の村は見たこともない病に見舞われました」


 女性の話をそこまで聞いて、私はやっと彼女のことを思い出した。

 数年前、プラジール病の特効薬の効き目を試すために、私は自らかの病気の流行地であるプラジール地方へ(おもむ)いた。彼女はそこで出会ったプラジール病の患者である。


 プラジール地方は王都から遠く離れた、辺境にある。それなのに、いったいどうして彼女(アンナ)が?

 私は驚いて、隣にいるロベールを見た。


「レオン様です。彼はわざわざ現地まで行って、当時の患者を見つけてくれたのです」


 ロベールがこっそりと教えてくれる。


「プラジール地方は遠い場所なので、あの証人がこの裁判に間に合うかどうか、ギリギリになるまで分かりませんでした。事前にご連絡できず、すみません」


 まさか、レオンが私のためにそこまでしてくれていたなんて……。

 私は信じられない思いで、レオンを見た。

 すると、私の視線に気付いたレオンは、ただ優しい笑顔でこちらに応える。



 アンナは証言台に立ちながら声を上げた。その表情はひどく緊張しているように見える。


「数年前、私も新興の病にかかりました。そして、生死の境をさまよっていたところを、ある方に助けていただいたんです」

「それはこの法廷にいる方ですか?」


 ロベールの問いかけに、アンナはしっかり頷いた。


「はい。私を救ってくれたのは、その人です」


 アンナが私を指さす。

 その瞬間、真実の証言台が()()光った。




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