第43話 取り調べと弁護士
王立騎士団に連行された私は、王都で連日取り調べを受けていた。
意外なことに、騎士団の取り調べは思ったほど、厳しいものではなかった。
恫喝されたり、ともすれば暴力を受けたり……なんてことも覚悟していたが、そんなことはない。拘束されている間、私は留置所にいたのだが、そこでの対応も比較的親切である。
私はもちろん、今回の容疑について全て否認した。それどころか、プラジール病の特効薬は元々私の研究成果であり、それをピエトロ商会のジョシュアに奪われたとはっきり断言した。
私の取り調べを担当していた騎士は、深々とため息を吐いた。
「……君が罪を犯していた場合、素直にそれを認めないと、余計に罰が重くなるんだぞ」
それは、脅しというよりも老婆心からの言葉だったのだろう。担当者の目には深い同情の色が見て取れた。
彼はおそらく、私に勝ち目がないことを知っているのだ。まぁ、庶民の小娘がサヴォイア公爵家をバックにつけたピエトロ商会と争おうっていうのだから、無理はない。
「もちろん、存じています。そして、だからこそ私は自分の無実を訴えます」
私がそう言うと、担当者はもう一度ため息を吐いた。
騎士団の後は、検察官による取り調べがあった。
王立騎士団と違って、私の事件を担当する検事はとても嫌な奴だった。
彼の名前はアドリヤンと言って、始終横柄な態度であり、私が特効薬の製造方法を盗んだ前提に話を進めてきた。
「私はピエトロ商会から何も盗んでいません。そもそもプラジール病の特効薬は私が考案したものです」
「なんと浅はかな。そんな嘘を吐いても無駄だと言うのに」
「嘘ではありません」
「君には重度の虚言癖があるようだね」
こんなふうにアドリヤン検事とは、どこまでいっても平行線だった。
さて、私は魔法薬の製造方法を盗み、ピエトロ商会の利益を奪ったとして逮捕され、これから刑事事件の裁判にかけられることになる。その時、被疑者は弁護士をつけるのが通常だ。
そして、私にも国選弁護人がついたのだが――彼も私が有罪だと決めつけていた。
「だるいコト言わず、とっとと罪を認めた方があなたのためですよぉ」
おまけにやる気もない。
こんな役に立たない弁護士が選ばれたのも、もしかしたらサヴォイア公爵家が裏で手を回したからか……なんて私は疑心暗鬼になった。
元から負け戦だと覚悟はしていたが、予想以上に厳しい戦いになるかもしれない。
拘留中に、私はそれを思い知った。
*
この日、弁護士との面会があった。
あのやる気のない国選弁護人相手では、どうせ建設的な話には発展しないだろう。そう思いつつ、私は面会の場に向かった。
――と、そこにいたのは、見覚えのない眼鏡の男性だった。
「初めまして。僕はロベールと申します」
「はぁ」
私は状況が分からず、あいまいな返事をした。
「あなたのお母様からご依頼を受けた弁護士です」
「えっ、母からですか?」
私は目を丸くした。
母に弁護士のつてがあると思わなかったからだ。さらに言えば、私の弁護を受けてくれる弁護士がいるのも予想外だった。
そういった考えが顔に出ていたのか、ロベールは穏やかな笑みを浮かべながら、事情を説明してくれた。
「実は私はクローヴィス侯爵家と懇意にしている弁護士なのです。今回のご依頼も、侯爵様を介してご連絡賜りました」
「ちょ、ちょっと待ってください」
私は額に手をやって、考えた。
つまり、クローヴィス侯爵家が私に私選弁護人をあてがってくれた――そういうことだろうか。しかし……。
「領主様にはお話ししたはずです。たとえ、どんな状況になっても私は自分の無実を訴えます」
「ええ。事情は伺っております」
「そして、私は有罪になる可能性が高い」
「ええ」
「負け戦ですよ?クローヴィス侯爵家は知らぬ存ぜぬで通した方が、領民にとっても良いはず。私の個人的な戦いに、皆を巻き込むわけには――」
すると、ロベールは言った。
「侯爵様から伝言を承っています」
「伝言……?」
「『賢くあるよりも、人として正しくありたい』と」
「……っ」
気づけば、私の目から……涙が後から後から流れ落ちていた。
*
弁護士を、国選弁護人からロベールに変更し、私は真っ向から検察側と戦う姿勢を整えていった。
おそらく検察側は、サヴォイア公爵家の手が回っているだろう。あちらに有利なように証拠が捏造されているかもしれない。
こちらもできる限りの用意が必要だった。それで、ロベールは頻繁に面会に訪れ、私の訴えの根拠となる証拠を手配してくれている。
ロベールの話では、オルレアの街の人々も協力してくれているらしい。
そんなある日、大いに慌てた様子で彼がやって来た。
「第一審の日程が決定したのですが……」
「何か問題でも?」
「第一審を審理するのが、王立裁判所なんですよ!」
「えっ!?」
この国において、裁判は三審制である。
第一審、第二審、第三審で三つの裁判所を設けられ、原則3回まで審理を受けることができるのだ。通常は下級裁判所から始まり、王立裁判所、最高裁判所というように移って行くはずなのだが……。
「王立裁判所で第一審ということは、控訴ができないということですか?」
「はい……」
「つまり、原則3回の審理を私は2度しか受けられない?」
「そういうことになります。そして、最高裁判所へ上告しても、それが認めらるとは限りません。下手をすれば、審理は一度限りになるかも」
「いったい、どうして!?」
「すみません、分かりません……。過去にも二審制の前例はあったようですが……どうして今回がそのケースに当てはまってしまったのか」
ロベールは顔をしかめる。
「おそらく、裏でサヴォイア公爵家が手を回したのは確実でしょう。何としてでも、彼らは貴女を有罪にしたいようだ」
「……」
まさか敵がここまでしてくるとは――。
予想を越えた出来事に、私は頭が真っ白になった。




