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第24話 求人募集の結果

 開店早々、バンと店の扉が開く。

 何事かと思って、慌てて店の方に行ってみれば、そこにはレオンがいた。


「ジャンヌ!いい魔導士が見つかったぞ」


 そう言って彼が連れてきた人物を見て、私はギョッとする。

 そこには今にも倒れそうな青白い顔の女性が立っていた。



 とりあえず、店の奥の部屋にレオンと女性を通した。

 女性は私より幾らか年上で、二十代後半に見える。

 顔がやつれていて、まるでこの世の不幸を全身に背負っているような負のオーラをかもし出していた。


「彼女はニナだ」


 一方、女性を紹介するレオンは、彼女とは真逆。今日も元気溌剌としている。

 何とも対照的な二人に戸惑いつつ、私は挨拶もそこそこに二人に確認した。


「店主のジャンヌです。あの、ニナさんはうちの求人募集に応募してきたということで、よろしいでしょうか?」

「……は、はい」

「魔導士なんですよね?魔法薬の調合のご経験は?」

「い、一応…あ、あります……」

「それはどこで?どこか別の店にお勤めでしたか?」

「え、えっと……あの…」


 びくびくと怯え、言葉を詰まらせるニナ。

 私が怖いのだろうか?そんなに厳しい面接はしていないと思うのだけれど……。

 私は困って、レオンの方を見た。


「彼女はこの街のピエトロ商会で働いていたんだぞ」

「えっ!大店(おおだな)じゃないですか!それがまた、どうして…うちみたいな小さな店に?」


 私が驚いてそう聞くと、ぶわっとニナの目に涙が浮かんだ。


「わ、私……」

「えっ」


 一呼吸おき、ニナが叫ぶ。


「お店をクビにされたんですぅぅぅぅぅっ!!」



 涙ながらに、ニナが語ったのはかなり重い話だった。


 彼女はピエトロ商会で調剤専門の魔導士として雇われたが、仕事ができないことを理由に解雇されたらしい。

 貯蓄もろくになかった彼女は絶望し、これからどうしたら良いか分からず途方に暮れていたようだ。


「苦しくて、苦しくて。もういっそ、死んでしまおうかと思って、橋の上から飛び降りようとしたんです。そこを騎士団長様に止められて……」


 つまり自殺しようとしていたニナを、レオンが救ったわけである。


「騎士団長様に事情を聞いてもらって、このお店のことを教えてもらったんです。私にもまだ働ける場所があるかもしれない――そう思ったんですが……いざ、面接になったら怖くなってしまって」

「すみません。私の聞き方がキツかったでしょうか?」

「あ、違います。そうじゃなくて。私、自信がなくて」

「自信?」

「前の店ではさんざん役立たずだ、仕事が遅い、仕事ができない……と言われていたもので。ここでもし雇っていただけても、店主さんを失望させてしまうのではないかと……怖くなったんです」


 う~ん。私は内心唸った。

 そりゃ、こちらも商売だから仕事ができない人を雇うと困ったことになる。また、ニナの精神状態は決して良いとは言えない。

 今、店は非常に忙しい。多忙を極めている。

 そんな中、彼女のメンタルケアまでする余裕は正直なかった。


 しかし一方で、私はニナからは誠実そうな印象を受けた。

 自分は仕事ができずクビにされた――なんて、面接の場で正直に話さなくても良いことだ。

 それに求人するにあたって、ある程度の技術不足は想定済みだ。

 すぐに即戦力になるような好都合な相手が、ひょいひょい(うち)に応募してくれるとは思っていなかった。

 最低限の知識と技量さえあれば、後はこちらで教育する心づもりをしていたのである。


 私はまず、ニナの力量を図ることにした。

 雇うか雇わないか決めるのは、その後でもいい。


「それじゃあ、専門的な知識についてお聞きしても(よろ)しいですか?」

「は、はい」

「関節炎に効く魔法薬のレシピ。何でもいいので、一つ口頭で説明してもらえますか?」

「え、えっと…」


 ニナは緊張した面持ちで話し始めた。


「一番有名なのは、パルキサ根を使ったものです。まず、根を乾燥させた後に粉末状にして……」


 おや?私は意外に思った。

 仕事ができないと自称したニナだが、知識はちゃんとあるようだ。魔法薬学の教科書に載ってあるレシピを一つも違わず、空で言えている。

 もしかすると、お勉強はできるけれども、実務が全くできないタイプなのだろうか?


「では、この二つの薬草。それぞれの名前と使い道を説明してもらえますか?」


 私は一見、そっくりに見える薬草をニナに見せ、そう尋ねた。

 すると今度もニナはすらすら答える。


「右が生彩草で外傷用の回復薬に使われます。左はガセリ草、お腹の調子を整えてくれます」

「……正解です」


 素人目には判別の難しい薬草なのだが、ニナは難なくこの二つを見分けることができた。立派な観察眼を持っている。


 それじゃあ、仕事ができないって……どういうことだろう。

 私は首をひねった。

 ロクに魔法が使えないのか?それとも、超絶不器用で、鍋を爆発させてしまう系の人だろうか?


「ニナさん。次は実際に薬の調合をしてもらえますか?」


 そう言って、私は別棟にある調合部屋にニナを案内する。

 余談だが、レオンはまた当然のような顔をして、ついて来ていた。


「ここに書いてあるレシピ通りに調合してください。材料はそこの棚、道具はこちらです」


 私はニナに解毒薬のレシピを手渡す。彼女はかなり緊張した面持ちで、それを受け取った。


「慣れない場所ですから、時間がかかっても大丈夫です」

「えっ、時間がかかっても良いんですか?」

「ええ。どうか落ち着いて。焦らずやってみてください」

「……分かりました」


 すぅ。深呼吸を一つすると、ニナは解毒薬を作り始めた。

 その様子を私とレオンは見守る。


 私は内心驚いた。

 彼女の手つき――それがとても丁寧なのだ。

 基本的なことだが、きちんと材料を量り、薬への魔力注入もしっかりできている。

 手順の一つ一つを遵守し、粗雑なところがない。確かに手早くはないが、十分許容範囲内だ。

 個人的にはむしろ、早く雑な仕事よりも、時間はかかるが丁寧な仕事をする人材が良い。薬は一歩間違えると毒になり得るから、慎重なタイプが好ましかった。


 やがてニナが解毒剤を作り終えると、私は彼女の手を取った。


「ぜひ、明日からうちで働いてください!」



 ニナが帰った後、私はレオンに深々と頭を下げた。


「あんな有能な人材を紹介してくださって、ありがとうございました」


 すると、レオンは照れたように頬をかく。


「ニナの話を聞くと、問題は彼女じゃなくてピエトロ商会にあったんじゃないか……そう思ったんだぞ。人柄も良さそうだったし」

「そうですね。しかし、あんなに優秀な人をクビにするなんて、ピエトロ商会は何を考えているのでしょうか?」

「さぁね」


 レオンは首をひねりつつ、ぽつりと呟いた。


「そうでなくとも、最近のピエトロ商会は良い噂を聞かないからな」

「……というと?」

「品質がどんどん低下していると噂だ。実際問題、騎士団に納品された薬もそうだった」


 確かに、それで騎士団は魔法薬の仕入れ先をピエトロ商会から私の店に変えたのだ。


「それに、ジャンヌ。『夢見の薬』って覚えているかい?」

「ああ。あの『自分の好きな夢が見られる』という魔法薬ですか?」


 確か、ピエトロ商会の商品で王都では人気との話だった。

 しかし、その安全性が疑問視され、クローヴィス侯爵領内では販売許可が未だ下りていない。


「アレが今、王都で大問題になっているんだぞ」

「えっ」

「ジャンヌの予想通り、『夢見の薬』に依存する人間が増えてしまったらしい。夢から覚めること自体を拒否する使用者も現れて、ちょっとした社会問題になったんだ」

「……」

「事の重大性に気づいた国が、慌てて販売停止措置をとったらしいが……。そんな危険な薬物を販売するなんて――とピエトロ商会に非難轟々(ひなんごうごう)らしいぞ」


 そんなことになっていたとは……と私は驚く。

 同時に、そんな危険な薬がこの領内に入ってこなくて良かったと心底思った。


「あの薬を怪しんだレオン様のお手柄ですね。領民たちは危ない薬に手を出さずに済みました」

「ジャンヌの助言のおかげだぞ」

「いえ。私はあなたの背中を少し押したに過ぎません。レオン様の慧眼(けいがん)あってこそですよ」

「ジャンヌ……」


 レオンが感激したようにこちらを見てくる。

 本心からの言葉だったが、レオンを少し褒めすぎたのようだ。


 それにしても……と私は考える。

 ニナのことといい、『夢見の薬』のことといい――ピエトロ商会には少し注意した方がいいだろう、と。



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