20 父と弟
義父母が立ち去るとお父様が心配そうに私に近寄って来た。
「リリエラ。もし、辛かったならいつでも戻ってきていいのだぞ。いいや、是非そうしたほうが……」
「いいえ。これからはリチャード様と一緒に乗り越えていければと思っておりますわ」
リチャード様を見上げると頷いてくれていた。
「ブルーレイク伯爵。あなたが大事に思ってきたお嬢さんをこれからは私が大事に守らせていただきたい。心配事が多いかもしれないが、それでもリリエラと一緒に、彼女が言うように乗り越えていきたいと思う」
リチャード様のその言葉に私はふいに泣きそうになった。
何だかとても大事にされていると感じたからだ。
あの時のシスター・メアリーからのお話とリチャード様の申し出を受けて良かったとそう思う。
いつの日かリチャード様にも私を望んで良かったと思っていただけるかしら。
リチャード様の言葉にお父様は不承不承の様子だったが、それでもそれ以上は言わなかった。
「姉さん。姉さんはそれでいいの?」
サイモンが震える声で尋ねてきた。
だから私は彼らに思いっきり微笑んで見せた。
「ええ。リチャード様のお側で一緒に年を取りたいわ」
「リリエラ」
ぎゅっとリチャード様が私の手を握ってきた。それが答えだというように。
もう、恥ずかしいです。身内の前でイチャイチャはできません。
「姉さんは幸せそうだね」
「ええ、もちろんそうよ。幸せだわ。それに幸せは自分で掴みに行くものよ。サイモン。姉さんから教える最後の言葉よ」
そう返すとサイモンが今にも泣きそうに顔を歪めた。
――何だか、サイモンまで変わったわね。いいえ、昔に戻ったよう。
「あなたも家庭を持つのだからしっかりなさい。ロエさんを大事に……」
「あんな女!」
急にサイモンが忌々しそうに叫んできた。
……あんな女って、あなたが選んだのでしょう?
「あんな女って、喧嘩でもしたの? あなた達も婚約式をそろそろ……」
何だか泣きそうなサイモンに言いかけるとお父様が気まずそうに言ってきた。
「リリエラ。実はロエ、ビッチデ男爵令嬢は……、その、うちが貧乏なのを知って裕福な子爵家の息子さんに鞍替えしたのだよ」
「は?!」
……何だかとんでもないことを聞いたわ。
サイモンの代わりにお父様が言ったのはまさかのサイモンの婚約未遂話。お粗末な顛末だった。
義父母はあの様子だし、弟は弄ばれたとか一体どういうことなのよ。
私の婚約式は始まりから大波乱になってしまったわ。
「本当なら僕の方が先に婚約できるはずだったのに……」
サイモンは俯いて肩を震わせていた。だけど泣きそうな顔を私に向けた。
「姉さん。姉さんからロエに話してよ」
「はあ? どうして私がそんなことしなければならないのよ。サイモン。ロエさんが子爵令息を選んだのでしょう? それに私はもう伯爵家を出ていった人間なのよ。今更何を言えるというのよ。あれだけ二人で私のことを嘲笑っていたくせに。ロエさんのことはあなたが解決しなさいな。今日はそもそも私の婚約式なの。今日は私が主役なの」
そう言って胸を張って見せた。
私の勢いにサイモンもタジタジとなっていた。
きっと私がサイモンに甘かったから何でもしてくれると思っていたようね。
私も育て方を間違えてしまったのかもしれないわ。リチャード様のお義母様に偉そうに言えない。
「ね、姉さんは公爵様の助けがあっただろ……、だから、そのロエに……」
「リチャード様はお忙しいの。王宮に呼ばれているしね。それにお家を継いでまだ慣れていらっしゃらないの。今日だって私が殆ど手配をしたわよ。ロエさんのことはあなたがどうにかしなさいと言ったでしょう? とはいえもう、ロエさんは子爵家の方を選んだのなら仕方ないじゃない。全く軽い真実の愛だこと。でも、そうね。あなたも愛するロエさんの選択とやらを尊重すべきよ。そもそも伯爵家をもっと盛り立てなさいな。もしかしたら戻ってくるかもね」
すると黙ってやり取りをご覧になっていたリチャード様が、
「リリエラ嬢の言うとおりだ。リリエラの献身を当たり前のように思ってきたのなら大間違いだ。私もまだ政争の後始末に駆り出されていてリリエラに苦労を掛けているところがあるが、リリエラ一人に背負わせるつもりはない。私が当主なのだ。私が責任を負う。君も次期伯爵家の当主として務めを果たしたまえ」
「あら、リチャード様は公爵家の執務を立派に努めていらっしゃいますわ」
リチャード様は領地からの報告だって必ずご自分で確かめていることを家令のエバンスから聞いている。
「くっ!」
サイモンはいたたまれずに走り去ってしまった。
そういうところがまだ貴族の伯爵家の次期当主としてまだまだなのよ。
しかし、ロエさんはうちの伯爵家が貧乏だと知って裕福な跡取り息子に鞍替えしていたのね。
ひょっとしたら同時進行かもね。そういうお話もよく聞きますもの。
はあ、最近の若い子は凄いわ。パワフルよね。私は領地の運営だけで手が一杯だったわ。
お父様はサイモンの後を追って行ってしまった。
リチャード様に挨拶をしないなんて本当に礼儀知らずよ。
だから伯爵家も傾いたんじゃないかしら。
それからの婚約式は身内が殆どということで、恙なく終わったのだった。
サイモンはお父様に連れられて早々に帰っていた。
もしあれ以上何かあったら私も耐えられなかったかも。
これで私は正式にリチャード様の婚約者。実際は妻だけどね。
その後も結婚式に向けて慌ただしく過ぎる日々の中、伯爵家の方には私宛のお茶会や夜会の申し込みが舞い込んでいると伯爵家の執事のハモンドを通して連絡があった。
だけど全て欠席の連絡をするように伝えたわ。
だって公表は控えているけれどもう私は伯爵家の令嬢ではなく、公爵夫人なのだから。
代わりに公爵家の方に届いた招待状の方を家令のエバンスと相談して捌いている状態だったのだもの。
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ここからは一日一回更新となります。15日金曜日、二十二話で完結します。
完結後この部分は消します。




