19 家族の愛とは
義母は信じられないといった感じで私を睨み返していた。
私だって何度もお母様が生きていらしたらと思ったことだろう。
「私達は今生きていて、生きている者はなすべきことをやるだけです。あなたが着ている物、食べる物、全てがあなたの手で作られたものではありませんわ。こうしていられるのもリチャード様が体を張って御領地を守られているからです。そして、義父があなたを守っているからです。それは当然のことではありません」
そう、あの少女だった私が伯爵領を手放さずぎりぎりのところで踏ん張ってこれたのは到底私だけの力で成した訳ではない。
私が奮闘している姿を見て、領民や使用人、業者達が手助けしてくれたのだ。もちろん騙そうとしてきた人達もいた。でもそれ以上に助けてくれる人達もいたのだ。
私は姿勢を正して義母を見つめていた。
私に恥ずべきこともないのだから。これまで生きてきた自信が私を支えてくれている。
リチャード様だってあれだけ王宮に呼ばれていてゆっくり休む暇もないほどだけどエバンスや私の意見を聞いて公爵家をどうにかしようと頑張っているのだ。
義母の忌々しそうな歯ぎしりの音が聞こえてきそうだった。
「リリエラ……」
リチャード様の震えている低い声が後ろから聞こえる。
――ええ、大丈夫ですわ。このくらい。
義母が堪え切れずに叫び声を上げた。
「あなたのような小娘に何が分かるの!」
あら? 嫁き遅れのなのだけど小娘と言われるなんて少し嬉しいかも。そんなことを思う余裕まであった。
「ええ、分かりませんわ。あなたの一方的な都合の良いお話など。あなたは今この時も領地がどうなっているか考えることも会計士や業者との折衝もしなくて良いのですもの。お幸せなことですこと」
今思えば十代の小娘がどれだけのことを任されてきたのか。
伯爵家と公爵家では背負うものは違うかもしれないけれど領地を背負う重みは人の命なのだ。
畳みかけるように言うと最早、義母は言葉を吐けなくなって、はくはくと口を開けるだけになっていた。
「姉さん!」
「リリエラ!」
どうやら騒ぎを聞きつけたのか、お父様とサイモンが駆けつけて来た。
「姉さん。ごめん。姉さんが出て行ってから、伯爵家が上手くいかなくなって……。姉さんがどれだけ頑張っていたのか分かったよ」
「……」
お父様も気まずそうだったが、義母へと向きなおった。
「恥ずかしながら私が妻を亡くした辛さで家を顧みず、うちの娘には小さいながら伯爵家のことを任せてしまいました。娘につい背負わせてしまったのです。貴族としての十分な教育もさせることもできず……」
義母は急にやってきたお父様を不快そうに見ていたが、お父様は義母に頭を下げた。
「不甲斐ない父親ですが、それでも娘の幸せを願っております。あなたと同じように親として子どものことを……」
「……」
義母はお父様の言葉に今度は苦々しそうな表情を浮かべながら体から力を抜いて暴れるのを止めた。
落ち着いてきた義母を捕まえたまま義父が私の方を見遣った。
「リリエラさん。婚約式を台無しにしてしまったが、私達は二人を祝福しよう。そして、私達の新たな娘として頼もしく思う。君ならリチャードと二人で公爵家を支えてくれるだろう。後日、領地の経営について君にも伝えることにしよう」
義父がそう仰ると義母はもう何も言わなく項垂れていた。
――いえ、お義父様。それはご遠慮申し上げたのですけれど……。
義父は義母を休ませると言って去っていった。
義母はもう叫んではおらず、ただすすり泣く声が風に乗って聞こえた気がした。
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