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嫁き遅れ伯爵令嬢は逃げられ公爵に愛される  作者: えとう蜜夏
第二章 公爵家

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21 王宮舞踏会へ

 婚約式から一か月ほど経った頃、王家主催の舞踏会にリチャード様と一緒に参加することになっていた。


 第一王子、今は王太子となられたヨハン王太子殿下にこの機会に婚約者としてお目通りをすることになったと話された。


 ドレスの方は揃えてもらったものから選んで準備をした。


 リチャード様から渡されたネックレスも着けていただいた。


 ――え? これって代々の公爵夫人の物ですって? え、遠慮しますわ。


 重すぎます。いろいろと……。


 今まで出たことのなかった王宮の煌びやかな会場にリチャード様と向かう。


 王宮の廊下を歩きながら隣でエスコートしてくれるリチャード様を頼もしく見上げている。


 衣装もリチャード様と合わせているし、見た目はそれなりに見えるまでに侍女たちに仕上げてもらった。


 貧乏伯爵の嫁き遅れの大娘から大出世ねと鏡に映る自分を見て内心では苦笑していた。


 夜会が始まり、リチャード様は公爵という立場から早々に王太子の元に挨拶に向かった。


 王太子殿下へ淑女の礼をしてみる。


 これでもマナーの先生から褒められるほどに改良できたと思う。


「彼女がリリエラ嬢か、リチャード、本当に大丈夫なのか?」


 王太子殿下は私を眺めるとリチャード様にそんなふうに話しかけた。


「ヨハン王太子殿下。私はリリエラ嬢に幾度も助けられました。もう私の背中を託すのはリリエラ嬢しかありえません」


 王太子殿下に対して頭を下げていた私はリチャード様の言葉に驚いていた。


 ――とても嬉しい。今までの苦労が報われた気がした。


 リチャード様にとって私がそんな存在となっている。


「ほお、そうなのか」


 ヨハン王太子殿下はまだ納得されない様子だった。


「リリエラ嬢。頭を上げよ。リチャードは、政変の際に彼の兄、ジョージが私を庇って死んだのだ。だから私が彼の代わりに、リチャードの兄代わりとして気に掛けている」


 私は許しを得て頭を上げると王太子殿下は固い表情をされていた。


「だから、リチャードがそなたと結婚したいと申し出た時、反対しようと思ったのだが、リチャードたっての願いは初めてだったのだ。だから許すしかなかった」


 そう言葉を切ると殿下は私をきつく睨んでいらした。


 許可されたけれど納得されていない様子。


「リチャードの信頼を裏切ることは許さぬぞ」


「はい。決してそのようなことはいたしません」


 私は王太子殿下を見つめ返してはっきりと申し上げた。


「ほう、なかなか胆の据わったお嬢さんだ。ふむ、二人のことが楽しみになったな。リリエラ嬢。これからもそのように励めよ」


 そうして最後は私達を祝福してくださったのだ。


 結婚式を楽しみしているとのお言葉もいただけた。


 周囲にそれが伝わったようで王太子殿下が離れるとリチャード様に挨拶したい人達が押しかけて来て囲まれてしまった。


 込み入った話も多くなったので私はリチャード様から離れて、飲み物を取り壁際で休もうとした。 


 するとあのラピーニャ伯爵夫人が突撃してきたのだ。


 どうやら、逃した最初の獲物が政争で公爵家当主になってしまったので、なんとかその妻の座に収まりたい様子だった。


 ――いろいろと陰で私の悪口なんかも言っているみたい。


 リチャード様からラピーニャ伯爵夫人には気をつけるように言われていた。


 リチャード様も以前のことで懲りたので公爵家独自の調査網を構築して調べ陰で護衛までつけてくれているの。


 私はシャンパンで喉を滑りやすくして彼女の口撃に備えた。


「こんばんは。リリエラ様。あなたのことはいろいろとお聞きしておりますわ」


「こんばんは。ラピーニャ伯爵夫人。あら、いろいろとは一体どのようなことでしょうか?」


 勝手に言いふらしているのはあなたのほうよ。


 こちらはその証拠も手に入れてます。いずれは名誉棄損で訴えられるように。そうリチャード様に助言したのも私。


「おほほほ。貧乏伯爵家なのに公爵様の婚約者になるなんてどんな汚い手管を使ったのかしらね」


 まだ婚姻の事実は公にしていないから、表向きの私の身分は伯爵令嬢だけどこのような言い方はないと思うのよね。


 だけど私はにこりと笑ってみせるとラピーニャ伯爵夫人は怪訝そうな面持ちになった。


 私が動揺するとでも思っていたのでしょう。


 そう簡単に驚いたりしないわよ。だってもういい年をしてるもの。か弱い伯爵令嬢ではないし、今は公爵夫人だし。


「そうですわね。こうした不毛なキャットファイトより、公爵家の領地を切り盛りするのは手応えがあって楽しいですわ。確実に実りが得られますもの。私にはどうやらそちらの方が性に合っているのでしょう」


「なっ!」


 私は内心あっかんべと舌を出しつつ、失礼と断って、ラピーニャ伯爵夫人を置いて去ろうとしたら、拍手をする人がいたのよ。


 その方はなんと、


「ヨハン様!?」


 ラピーニャ伯爵夫人が驚いたように王太子殿下の名を口にしたのよ。とんでもない人だわ。関わってはいけない人ね。義母以上にどうかしている。


 私は慌てて頭を下げて淑女の礼を取った。


 ――身分の低いこちらから声を掛けるのもマナー違反だし、殿下の名前を呼ぶこと自体もどうかしている。ロエさんといい。ラピーニャ伯爵夫人も一度貴族のマナーを学び直した方が良いと思うわ。


 これでよく伯爵夫人が務まっていたわね。


 私は彼女のように叫ぶことはせず頭を下げ貴族令嬢としての礼をとったままだった。


 するとヨハン王太子殿下はまるでラピーニャ伯爵夫人がいないように振る舞われたの。


「ああ、リリエラ嬢、そう堅苦しくしなくても構わない。頭を上げよ。リチャードの最愛の人だからついつい興味があって注意して眺めていただけだ。しかし、優秀な臣下に良き妻を迎えられたようで安心している」


「なっ!」


 王太子殿下の言葉にラピーニャ伯爵夫人は叫び声まで上げていた。


 ――どこまでも礼儀知らずの方ね。不敬罪にはならないのかしら? 伯爵夫人ともあろう方がそのような態度をとるなんて。


「大体、自らが天秤にかけて捨てた方がまさかの上位貴族の跡取りになったらこうも掌返しするとは見事だというしかないな。ラピーニャ伯爵夫人?」


 そうしてやっとラピーニャ伯爵夫人のほうを殿下は見遣った。とても嫌そうだけど。


「んまああ! ヨハン様はいろいろと誤解されておりますわ! これもリリエラ様の差し金でしょう。そうに違いありませんわ。私は何も悪いことなどしておりませんもの!」


 地団駄を踏んで憤慨するラピーニャ伯爵夫人の声に気がついたのかラピーニャ伯爵が慌てて駆け寄ってきた。


 もう遅いと思いますけどね。


「王太子殿下。妻が不敬なことを申して申し訳ございません!!」


 ラピーニャ伯爵夫人の腕を捉えると伯爵は王太子殿下に謝罪の言葉を述べた。


 だけどヨハン王太子殿下は不快そうだった。


「ああ。不快だ。ラピーニャ伯爵、夫人ともあろう者がこのようでは今後宮廷に迎えることは難しいと思え」


「は?」


 ヨハン王太子殿下の言葉に流石のラピーニャ伯爵と夫人も一気に顔を青ざめさせた。


「で、で、殿下、御前を失礼いたします。さあ、向こうへ行こう。ブルーレイク伯爵令嬢にも後日お詫びを申し上げる」


「永遠に許しはないだろうけどね。無期限の出仕停止は変わらない」


 ヨハン王太子殿下の冷たい言葉と眼差しにラピーニャ伯爵夫妻は怯えて震えだしていた。


 王宮へ行くことができないとなると伯爵家以上の貴族が持つ特権が使えないということだ。


 ラピーニャ伯爵家は事実上の降格か取り潰しということになる。


 ラピーニャ伯爵は私に頭を下げると泣き喚く夫人を引きずるように去っていったのだった。

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