18 公爵家の事情
義母を振り払うこともせずただされるままのリチャード様。
私は公爵家に来てから跡継ぎとなった経緯を尋ねたかったけれど口の重いリチャード様から詳しくは聞けず、家令のエバンスからそれとなく聞きだした。
サンドストーン公爵家は跡継ぎであった長男のジョージ様が政争の際、第一王子を庇って命を落としたことから悲劇が始まったということだった。
そして、義母が溺愛していた次男のシャルル様は政争に負けた第二王子の陣営にいたため追放処分を受けたのだ。
長男が亡くなったので本来後を継ぐはずだった次男のシャルル様は追放処分を受けて公爵家を継ぐことはできなくなった。
そんな中シャルル様は知人の家を頼って行く途中に落馬して、事故死を迎えてしまったのだ。
ただその状況は不審なことが多かった。もちろんそれは公にされていない。
あくまで表向きは落馬による事故死として発表された。もうこれ以上、醜聞を公爵家としても認められなかったのだ。
そして、三男のリチャード様は跡継ぎになれないので早々に騎士となって家を出ていた。
義父母は相次ぐ不幸のため公爵家の後継者として騎士となって活躍していた三男のリチャード様を呼び戻すことになったのだ。
リチャード様は騎士団を退団し、公爵家を継ぐことになったのだが、夫人は次男をこよなく愛していたらしくリチャード様が跡継ぎになるのを認めることができない上に立て続けの不幸で心を病んでしまったという。
義母は次男のシャルル様をとても溺愛していたそうだ。
シャルル様は明るく社交的で社交界や公爵家の使用人からとても愛されていたらしい。
だけどリチャード様が後を継いだので使用人もその時に随分辞めてしまったようだった。
だから館があのような状態になってしまっていたのだ。
それでもいくら大変なことがあったとしても、自分の腹を痛めて産んだ子にあのようなことを言うなんて酷い。
……私のお母様は私をどう思っていたのだろう。
サイモンと私をそれぞれ愛してくださったのではないかと信じたい。
「やめないか。シンシア!」
そういって義父はリチャード様から義母を引き剥がしていた。
幸い他の招待客は既に会場へ行っていた。
ここは公爵家の入り口でまだ騒ぎに気づかれてはいない。
茫然としていたリチャード様を私は背中から抱き締めていた。
「リチャード。あなたを大切に思って頼りとしている者達はたくさんおります! 私だって、あなたに助けられました。あなたはかけがえのない大切な方なのです!」
義母に負けずそう叫ぶとリチャード様の体がビクンと跳ねた。
リチャード様は振り返ると私を強く抱き締めていた。
「リリエラ。私は……」
震える声でリチャード様がそう呟いた。私の肩に彼の顔が置かれている。
「リチャード。もう、お互い得られない愛より、違うものを求めても良いと思うの。私はあなたに助けていただいたから、こうしてとても幸せですもの」
ぎゅっと私は彼を抱き締め返した。
彼が頷いた気がした。それが答えだと思う。
そこにもう義母はいらない。義母の方が彼を拒否しているのだから。
私の母はもういない。多分愛してくださっていたのだと思いたい。
今はただ懐かしく思えるだけ。でもそれでいいんじゃないかしら。だって心の中なんて誰にも分からないもの。
「私の母はもう亡くなっておりますが、今はもう懐かしく思い出すだけとなっております」
「……」
リチャード様も義理の両親も私の言葉に黙っていた。
「だから、そうもういないものと思えばいいのです」
「なっ!」
その言葉に義母がヒステリックに叫んで義父の腕から逃れようともがきだした。
「それは私の子なのよ! 私の言うとおりにさせて当然なのよ!」
「ですが、もう良い大人です。リチャードもご自分の人生を歩んでいるのです。ましてやあなたの物などではありませんわ」
私はリチャード様の腕の中から、義母に対峙していた。
義母は乱れた服装だけどきちんと手入れされていた。
義父が面倒を見ているからだろう。
こうして見ると義母はリチャード様と同じ黒髪の持ち主で二人が親子だと思えないくらい体格は違い過ぎるけど艶やかな黒髪や顔立ちは良く似ていた。
「今までお育てになったのでしょうが、それまでのこと。これからはリチャード様もご家族をお持ちになって今度は守り支えていく立場なのです」
そうして義父の方を見た。
義母を抱きとめるようにしている義父はそう悪い方ではないだろう。
こうして義母の面倒をみているのだから。
この義母の様子なら放り出されても仕方がないほどだ。
公爵夫人としての責任をこなしてなかったのだから。
義父がまだまだ現役で公爵位を務めてもおかしくないのに退いたのは義母のせいなのだろう。
リチャード様が私を求めてくれたように彼を支えられる存在になれるように頑張ってみたい。
そこに愛というものも生まれたら嬉しいのだけど……。
「あああ! 私のシャルルはそんなことはもうできやしないのに!」
「ええ、亡くなられたのは大変残念なことだとお悔やみ申し上げますわ。でもどんなに嘆いても生き返りはしませんの」
私の言葉に義母は目を見開いていた。信じられないといったふうだった。
誰も義母に言い返すことは無かったのかもしれない。
義母の気持ちは私には到底推し量れないけれど。
私も何度もお母様が生きていらしたらと思ったことか……。
夜中ですが、お読みいただき、☆評価、いいね、ブックマークをありがとうございます。




