17 婚約式
そして、とうとう婚約式の日を迎えた。
あっという間の三か月。だけどこれから三か月後に結婚式を控えている。
婚約式は親族中心にしていただいたけれど結婚式はそういう訳にはいかない。王家の方々を呼ばなければいけないもの。
私はため息さえもう出そうになかった。
もう籍は入れているのだけどこれも貴族社会のけじめとして行わなければならないのよね。
伯爵家からは父と弟が出席してくれることになっていた。
お父様とはあれから何度か夜会で会うこともあったが、サイモンとはあれから会ってなかったので久しぶりだった。
サイモンは私が公爵家に嫁ぐと聞いて驚いていたそうだが、小煩い私が居なくなって喜んでいることだろう。
ただ、お父様の方は……、実は一月ほど前から伯爵領の立て直しが上手くいかなくなったと相談の手紙が届いていた。
相談に乗りたかったけれど私も婚約式の準備でそれどころではなかったのだ。
公爵家に着いた二人を出迎えた。
お父様は挨拶もそこそこに私に懇願してきた。
「リリエラ、やっぱり、その、結婚式までうちに戻ったらどうだい?」
――それは伯爵家の執務もしろということでしょう。そういう訳にはいかないわよ。いつまでも私がしゃしゃり出る訳にはいかないわ。
「いいえ、もう私は……、お父様もご存じでしょう? それに公爵家の執務もお手伝いしているの。とても遣り甲斐があるの。結婚式だって私の好きにさせてもらえるのよ」
そう、リチャード様は騎士をされていて公爵家の執務のことはあまりご存じなかったとおっしゃられ、私の方が貴族の領地経営に関しては慣れていた。
いずれはリチャード様の方ができるようになるとは思うけど今のように王宮へ呼び出されたら難しいわよね。
「……」
気まずそうに黙り込むお父様に伯爵家の方で何か大きな出来事でもあったのかと思えるほど。
「姉さんもこんな公爵家に嫁に行くなんて大丈夫なのか?」
サイモンは青褪めた様子で話しかけてきた。少し、痩せたかしら? お父様もそうね。やつれたという感じだけど。
「あら、玉の輿じゃない。喜んでいいくらいよ」
私はそんな二人の様子を気にせずに明るく話した。
――どうしたのかしら? あなたたちの望むようにしたまでなのに。もっと喜んでもいいじゃないの。
だけど二人は気まずそうに黙り込んでいただけだった。
一体どうしたのかしらね。
「……」
お父様と特にサイモンは納得してなさそうだけど他の招待客が来たので使用人に頼んで二人を会場へと案内した。
もう殆どの招待客は集まっている。私達も会場へと向かおうとした。
その時リチャード様のお父様が到着したようだった。
初めてお会いしたお義父様は正直お年よりか大分老けて見えた。
ロマンスグレーのおじ様で素敵な方。やっぱりリチャード様に良く似ていらっしゃるわ。
お義父様は上の二人の息子を政争で亡くして、失意のあまり三男のリチャード様に家督をお譲り隠居なさったとリチャード様や家令のエバンスから聞いていた。
同じくして体を壊した夫人を伴い領地で療養しているとのこと。
お義父様の口元と眉間に刻まれた深い皺が深い悲しみを物語っていた。
「やあ、リリエラさんだね。今日は素晴らしい日になるだろう。君にはリチャードを、公爵家をよろしく頼む」
「はい。精一杯務めさせていただきます」
王子達の政争に加え、二人の息子の死亡という不幸が続き短期間の内に公爵領も荒れ果てていたそうだ。
いろいろと王家に近かった為に巻き込まれた挙句、公爵領の穀倉地帯で騒乱が起こり、畑が荒らされたため税収がぐっと落ち込んでいたのだ。
エバンスから説明を聞いた時のリチャード様は頭を抱えていたそうだ。
私は一度領地を視察したいと申し出たのだが、リチャード様が頑として許さなかった。領地はご両親が静養しているのでと言われたのだ。
義理の父を見上げると浮かない表情をされていた。
「……妻が少し病気を患ってね。領地で静養していた。今日も念のため連れて来たのだが調子が思わしくなく顔を合わせずに別邸で休ませようと考えている。君達には迷惑をかけるが、今は許して欲しい。領地の方は私も一緒になんとか立て直しをしよう」
「……父上」
「父として不甲斐ないところだが、リチャード。リリエラさんと仲良くな」
「はい。リリエラは私の大事な人です」
すると入口の方が騒がしくなったのでそちらを見遣るとそこには髪を振り乱した女性がエバンスに止められて暴れていた。
こちらを見つけると、女性は金切り声を上げた。
「どうしてあなただけが生き残ったの?!」
そうしてエバンスを振り切って叫びながらリチャード様に駆け寄ったのだった。彼女は服装も乱れ髪も振り乱してとても正気ではなさそうだった。
「母上。どうして、ここに……」
取り縋られたリチャード様は茫然としていた。
「ああ! ……お前なんて! 出来損ないのお前の方が死ねば良かったのに!」
そう叫んでリチャード様の胸元を叩いた。
リチャード様は抵抗もせずただ呆然としていた。
「シンシア!」
義父が彼女を取り押さえようとしていたが、リチャード様は顔色を無くしてただ立ち尽くしていた。
彼女は尚も叫んだ。
「シャルルが公爵家を継ぐはずだったのよ。あの子だけが私の自慢の息子だったのに! お前など……。お前が公爵家を継ぐだなんて! 許さないっ……」
小柄な義母が大柄な元騎士のリチャード様をガクガクと揺すぶっていた。
リチャード様は義母を振り払うことも止めることもせずにされるがままだった。
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