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嫁き遅れ伯爵令嬢は逃げられ公爵に愛される  作者: えとう蜜夏
第二章 公爵家

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16/22

16 公爵家の使用人達



 翌日、早々にリチャード様は王宮へと向かわれた。婚約式の手配や屋敷の修繕のことも私に概ね任せてもらえるので遣り甲斐がありそう。


 役目をもらえるとほっとするなんてワーカホリックとかいうものかしら。


 エバンスに頼んで早速屋敷の修復業者と打ち合わせをしていく。庭師も一度辞めていた方を再雇用したので荒れかけた庭のことでいろいろと相談してみた。


「基本はお任せしたいのだけど庭の一角に薬草園とお野菜を植えたいの」


 正直王子達の政変の最中には食料調達にも困ったことがあった。できれば屋敷内で調達するようにしておきたい。


「ああ、儂の仕事に口を挟まなければ……」


 彼はじっと私を観察した。その様子に領地の視察したときの村人達を思い出す。


「ええ。私は素人ですもの。あなたにお任せいたします。でも先のように食料や傷薬を自領で賄えるように備えておきたいのよ。それでうちは苦労したから……」


 本心からのお願いをして彼を見つめた。


「分かりやした。お嬢さ……。若奥様がそう申されるのなら、儂でよければ」


 彼の差し出す手を私は握り返し雇用関係の書類も説明すると、


「どんな娘っこがくるかと思えば……」


 もごもご彼が言葉を濁していた。


「ええ。お互いのためですの。きちんと書類にしておかないと」


「しっかりしていらっしゃる。頼もしいの。しかし、リチャード坊ちゃんにもやっと嫁さんが……」


 そう言って涙ぐんでいる庭師にエバンスが仕事をするように促してくれた。


 あとは私付きの侍女を決めるための面接があって今まで以上に慌ただしく日々が過ぎた。


 婚約式は公爵家で無事行うことができそうだった。


 三か月という短い準備期間だったけれどリチャード様やエバンスと手分けして招待状を発送し、料理や使用人を確保して何とか間に合わせることができた。


「ドレスのご用意は?」


 エバンスの言葉に私ははっとした。


 令嬢としてはドレスやアクセサリーが最優先だろうに考えつかない自分に笑ってしまった。


「忘れていたわ。令嬢なら一番に気にすることなのにね」


「一応若旦那様のご指示でご用意しておいたものがあります。あとウエディングドレスの方はドレスメーカーと相談するようにと仰っておりました」


「まあ、リチャード様が……、ありがたいですわ」


「装飾品は公爵家にあるものをお使いいただくようにと申しておりました」


「それは……」


 公爵家のアクセサリーとなると値段のつけられないようなものがあるんじゃないだろうか。恐ろしくて身に着けるには気が引ける。


 そう思って黙り込んだ私にエバンスはにこりと微笑んだ。


「リリエラ奥様はもう公爵夫人ですのでなんら問題はございません」


 困惑していた私にエバンスはきっぱりと言い切った。


 確かに世間的には婚約者であるけれど書類の上ではもう公爵夫人だ。


「……そうですか。ではリチャード様のお許しがあればそうさせていただきますね」


 お忙しいリチャード様とはなんとか話ができた。あっさりと承諾されて衣裳部屋どころか金庫のことまで説明をされた。


「良いのですか?」


「良いも何も、もう君は公爵家夫人なのだ。気にいったものを身に着けると良い」


 リチャード様は特段気にするような素振りもなく、それは私を信頼しているということだろう。


「はあ……。リチャード。あなたは少々、いえ、かなり無防備ですわ。私が宝石を持って逃げるとお思いにならないのかしら?」


「君は宝石を持って逃げるのか?」


 リチャード様がきょとんとした表情になられた。


 年上だけどなんだか可愛らしく思えるときがあるのよね。


「逃げません。私には行くところなんてないもの」


 そう言うとリチャード様はにやりと笑われた。


 それは少し悪戯めいたもが混じっていた。


 だから私もそう悲観的にならなかった。


 実家の伯爵家には帰りたくない。そんな気持ちもリチャード様は分かっている。そう思うと少し気持ちが軽くなった。


「じゃあ、いいじゃないか。だが君が私から逃げるのなら私はどこまでも探しに行くだろうな」


 いつもと違う感じのリチャード様に気圧されて思わず退くと本棚に背中が当たった。


 するとリチャード様は私を囲い込むように本棚に手をついた。


 なんだか居心地悪く感じて私はリチャード様を見上げた。


「あの……」


「鬼ごっこは得意なほうだ」


 口の端に笑みを浮かべるとリチャード様は顔を近づけてきた。


 リチャード様は年上だけどこういうところに弟のサイモンを思い出される。


 私は黙って目を閉じてリチャード様を待つことにした。


 窓から差し込む光が私達の一つになった影を床に色濃く残していた。

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