12 公爵家へ
公爵家へ
リチャード様と一緒に公爵家に戻ると改めて館を眺めていた。
私は今日からこのサンドストーン公爵家で生活することになってしまった。
今日一日でなんということが起きたのだろう。
今や私は嫁き遅れの伯爵令嬢ではなく正式な公爵夫人。貴族の中でも最高クラスの夫人。
有り得なさすぎる。だけどこれが現実のようね。
自分でも状況の変化についていけないけれどあのまま伯爵家では居心地が悪かったのでこの選択で良かったのだと思う。
やや荒れている庭園と館を眺めながらリチャード様が説明してくださった。
「私が爵位を継いだものの、まだいろいろとあって、ここも全然手入れができていない。公爵家も兄達が政争に巻き込まれて、そのために使用人までいろいろあって、余計に荒んでしまった」
「そうなのですね。私でよろしければお手伝いいたします。荒れた領地には慣れておりますから……、あ、いえ母が居なかったので奥向きは私が任されていました」
うっかり伯爵家の執務のことまで漏らしてしまいそうだった。
リチャード様は優しく微笑んで頷いてくださった。
「リリエラ。君も知っているとは思うが、この国は王子達の政争のせいで今も王宮や街中でも情勢が不安定だ。公爵家の執務の面もそうだが安全には気をつけて欲しい。まあ、それで君ともこうして騙し討ちのように結婚できたのだがな」
そう仰ると目を細めていらした。
「……」
リチャード様のお兄様達のことまでは存じあげなかった。
亡くなったことだけしかお聞きしていない。リチャード様にお聞きするのは気が引けるわね。
誰かそれとなく教えてくれそうな人はいるかしら?
「それと君の部屋は公爵家の女主人の部屋を用意してあると言いたかったのだが、急なのでまだそのままだ。だから君の好きなように変えて良いので家令のエバンスと相談してくれ」
「分かりました。リチャード様のお心遣いに感謝します」
「リチャードだ」
「は?」
「夫婦なのだからリチャードと呼んでくれ」
「り、リチャード」
私がそう呼ぶとリチャード様は嬉しそうに笑って、私を客用の部屋に案内した。
「それから、婚約や結婚の披露宴はまた後日に行う予定だ。それもエバンスに聞いておいて欲しい」
「はい。リチャード」
私の返事に満足そうなリチャード様は何と王宮へと向かおうとした。
もう夕方も遅いのに。
「こんな時間から王宮へいかれるなんて、そんなにお忙しいのに私のところへいらしたのですか?」
「ああ、だが私がそうしたかったのだ。今日、行って良かったと思っている。悪いが夕食は一緒にできないので先に休んでいい」
「分かりました」
私が礼をするとリチャード様は苦笑をされていた。
「私が迎えに行かないと君はお人好しだからきっと家から出てこられないと思ったのだ。実際そうだっただろう?」
「……」
確かにお父様が涙ぐむのは計算外だった。
あんな姿を一人で見せられたらずるずると家に居たかもしれない。
リチャード様は私の様子に満足そうに微笑んだ。
「それに……。私も公爵家を継いだもののこうして王宮に呼ばれているので公爵家の執務が捗らないのだ。是非君の力を借りたい」
「わ、私の力ですか?」
「君は若いのに伯爵家を見事に立て直したと聞いている。領民も君を敬愛しているとも。そんな君の力を公爵家でも活かして欲しいのだ」
「!」
リチャード様はご存じだったのだ。
私は思いがけずリチャード様を見つめ返していた。
私が伯爵家の執務を代行してきたことをご存じということはひょっとしたら人をやって調べたのかもしれない。
心の奥から何か震えるような喜びが湧き上がる。
家族からは何とも思われていなかったのに。こうして分かってくださる方がいたのだ。
リチャード様は更に動けなくなっていた私に口づけをされると馬車へ乗ったのだ。
もちろん唇に。
茫然とした私にリチャード様はにやりとした笑みを浮かべられていた。
不意打ちだったので、私は玄関で呆けたように立ち尽くしてしまった。
それは公爵家の使用人達もそうだったみたいでエバンスの咳払いで皆我に返った。
「あ、あの、その、部屋へ戻ります……」
「湯あみをなされますか? それともお食事をお召しになりますか?」
「あ、お湯を先にいただいて、その後に食事をお願いします」
公爵家の使用人達は優秀で至れり尽くせりだった。
今日はいろいろとあり過ぎて疲れきった私はきれいになってお腹も一杯になるとあっという間に寝てしまったのだった。




