11 婚姻
リチャード様はお父様の許しが得られると何と国王陛下から私とリチャード様の名前入りの特別結婚許可証を出して見せたのだ。
いつの間に用意していたの?
私と会って話したのはつい昨日じゃないの!
私が驚いていると、リチャード様はにやりと私をご覧になって笑ったのだった。
「ある筋を脅して手に入れたのだ。不正なものじゃないぞ。あれから超特急で用意させた」
「はあ。もうリチャード様ったら……。仕方ないですわね」
私が呆れたように言うとお父様は固まってしまっていた。
流石にお父様も王家の許可があるということでもうそれ以上の不服は申し立てなかった。
それで私はお互いに婚姻の契約書にサインまで済ませてしまった。
これでもう私は書類の上では公爵様の妻ということになっている。
「しかし、特別許可証までご用意しているとは……、先に見せていただいたならあのようなことは申しませんでしたのに」
お父様がリチャード様に不満げに話した。
「いえ、それではリリエラ嬢とお父上の意向に反することになっても王家の許可では拒否ができないでしょう。それは避けたかったのです。やはり、リリエラ嬢の気持ちが一番なので……」
リチャード様の言葉にお父様が驚いていた。だって、それなら王家の許可を無にするということだからリチャード様だって、大変なことになるのに。
「そこまで……、リリエラのことをお考えに……」
お父様は渋々ながらも納得したように思えたのだけど。
「やっぱり、リリエラには結婚式までは家にいて欲しいのだが……」
そんなことを言い出したのよ。
流石に私もお父様に言い返した。
「さっさと出て行けと言ったのはお父様達でしょう?」
リチャード様の前で私が言い返すとは思わなかったのか、お父様もしどろもどろになっていた。
「だ、だが、こんなに早くとは思って無かったのだ。お前は社交界も出ていなかったので求婚者など全くなかったし、親戚が勧めてくる話は碌なものではなかったのだ。それこそ年配の後妻とかとんでもない女好きだとか……」
親戚からの話は初めて知ったけれどお父様なりに考えてはいたのね。
「どちらにせよ。サイモンとロエさんが嫌がるので早々に出て行きますわ。執務の引継ぎ……」
そう言いかけて、慌てて口を閉じた。
リチャード様の前でブルーレイク伯爵家の執務を私が主にしていたと分かったらお父様の権威がますます失墜するわ。私はお手伝い程度ということにしておかないと。
「その、執事のハモンドから話を良く聞いてくださいね」
「リリエラ……」
涙を浮かべるお父様に微笑んで見せた。
知らないわよ。後のことは、お父様とサイモンでどうにかしてくださいな。
話が纏まったのでリチャード様をお見送りしようと席を立とうとした。
するとリチャード様は私へ手を差し出したのだ。
「リリエラ、私と一緒に公爵家に帰ろう。そのつもりで来た。それにもう君は私の妻になったのだから公爵家がもう君の家になる」
「はい?」
私はいきなりのリチャード様の申し出に思わず変な声が出てしまった。
リチャード様はじっと私をご覧になっていた。
確かに特別結婚許可証があるので書類の上では私はもうリチャード様の妻だ。
「た、確かにそうですが、身の回りの片付けと、荷物の準備があります」
「荷物など使用人に後で取りに越させれば良い。それか公爵家で好きに買い揃えればいいじゃないか。そうだ。屋敷に残っている物でも君の好きに使っても構わない」
「それは……」
「ええ! リリエラお嬢様。いえサンドストーン公爵夫人。荷物は私どもが責任をもってご用意いたします。公爵様とそのままお帰りになられる方がよろしいでしょう」
壁際で控えていたマーゴが私に近寄りそう促した。
「で、でもマーゴ……」
「公爵夫人とは幼い頃から楽しい日々を過ごさせていただきました。公爵家でもご活躍をされることを祈っております」
マーゴの柔らかい笑みが私の背中を押してくれた。
お母様が亡くなられてからマーゴが私の母代わりに育ててくれたようなものだ。
その瞬間一気にマーゴとの思い出が脳裏に浮かんできた。
私が小さい頃から世話をしてくれたマーゴ。
お父様や亡くなられたお母様より私にとっては一番の家族だった。
マーゴの姿を見ると涙腺が崩壊寸前だったけれど無理やり笑顔に変えて応えた。
だって、これでお別れではないもの。また、いつでも会いにいったらよいことだから。
それより私の選んだ道を進もう。
「そうね。じゃあ、私は旦那様と一緒に公爵家へ戻ります!」
「「リリエラ!」」
お父様は困惑した悲痛な声で、リチャード様は喜びを含んで私の名を呼んでくれた。
私はリチャード様の差し出した手を取って歩き出した。
男性からこうして正式なエスコートをされるなんて初めてかもしれない。
背の高いリチャード様を見上げる。グレイの瞳が優しく見つめてくれていた。今はそれだけでいいと感じた。
そうして私はリチャード様と公爵家へ戻ったのだった。
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