アイビー
「お嬢様、おやすみなさいませ。」
今日の業務を終えて使用人に与えられた宿舎の部屋へ下がる。
私はこの屋敷で産まれた平民だ。両親共にここの使用人で10歳の頃には奉公に上がった。そして両親と同じように、同僚であるここの使用人と恋をして、結婚した。三人の子供に恵まれて、順風満帆と言えるだろう。
「お母さん!お帰りなさい。」
部屋に入ると、子供達が迎えてくれる。
「ただいま、いい子にしてた?」
「うん!今日はお茶の淹れ方を習ったよ。」
最年長のヒズリが茶葉の種類、カップの温度管理、美しく見える所作まで、覚えたことを披露する様に話してくれる。
「そうなの、よく覚えたわね。...ヒズリはそろそろご奉公に上がれるかもね。」
「本当!?私もお母さんと一緒にお嬢様にお仕えできるの!」
ヒズリの嬉しそうな顔と弾んだ声には、少し申し訳なさが勝つ。
「それはまだよ。洗濯や配膳人お勝手の仕事をそれぞれきちんとお勉強してから。それに...」
「それに?」
ヒズリの頭を丁寧に撫でる。
「ううん、丁寧な仕事ができるようになるのよ。」
「うん、えへへ。」
息子のゼクトや、末娘のキリエの頭も撫でる。
「さ、良い子は寝る時間よ。」
おやすみの挨拶をして、子供達はそれぞれベットに入る。
私は後どれだけこの子達の側にいられるだろうか。
お嬢様がアストラバーグへ嫁ぐ時にお供することになるのだろうか。
今は、可愛い子供達の寝顔を目に焼き付ける事にした。




