#20 黒い猫と黒い影
よろしくお願いします。
ベリスケが暴れている頃、ウニャミスは迷っていた。
「ここはどこ?皆どこ?」
ウニャミスがいるのは何処かの路地のようだ。
地図がないから分からない。
人の波に飲まれ、気づけば戦いが始まっており、無我夢中で戦って、気づけばここにいた。
「誰が近いところにいるかも分かんない……」
とりあえず大通りに出る。
そこではまだ戦闘が続いていた。
「おらぁ!」
「うわぁ!?」
ウニャミスに向かって手斧が振り下ろされる。
ウニャミスはなんとか避け、相手に蹴りを入れる。
しかし、男はバランスを崩し転ぶも、すぐに起き上がる。
ウニャミスは武闘家に転職したばかりなのでレベルが低く、攻撃に体重が上手く乗らず威力が低かったのだ。
「へっ!よええなお前!死ねや!」
「うわぁ!くそぉ!【爪技《衝》】!」
「ぐぅ!?」
ウニャミスの技に男は吹き飛ぶ。しかし、倒せてはいないようだ。
すると倒れていた男に斬撃が飛んでくる。
「ぎゃあ!?」
男は消滅する。
ウニャミスは斬撃が飛んできた方に目を向ける。
そこにいたのはファナだった。
その後ろではリュリィが弓を構え、矢を放っている。
「1人で無理なら周りに声かけなさい!」
「はい!すいません!」
ファナに怒られるウニャミス。
ファナ達はそのまますぐに他の相手を狙う。
「あぁもう!護衛依頼終えて、やっと帰ってきたのになんでこんなことになるの!?ナナキ君に会いたいのに!」
「文句言ってないで戦って!敵が減らなきゃ探しに行けないわよ!」
ウニャミスも近くの敵に走り始める。
「【正拳突き】!」
敵の鳩尾に拳を叩き込む。敵が悶えているうちに蹴りを入れて転ばせる。
そこを狙って他の冒険者が止めを刺す。
それを何度か繰り返す。
敵が減ってきたことによりウニャミスは少し気が緩む。
そこに路地から敵が飛び出てくる。
「わぁ!?」
ウニャミスはなんとか避けるも尻もちをつく。
敵が再び突撃してくる。
ウニャミスはパニックになり、スキルを乱発しながら拳を突き出す。
「わ!わ!【正拳突き】!【爪技《衝》】!」
すると。
ドパン!
「ぎゃうぉ!」
「へ?」
突き出した拳から衝撃波が飛び出し、敵を吹き飛ばす。
敵は数回バウンドすると粒子となり消滅する。
「え?なに?なに今の?」
ウニャミスはまだ混乱していた。
自分のスキルにこんな威力があるものはないはずだ。
では、今のはなんだ?
ウニャミスは考えるも。
「おい。早く動け!まだ敵はいるぞ!」
他の冒険者に怒鳴られ、ウニャミスは慌てて動き出す。
結局、落ち着く頃にはウニャミスはそのことをすっかり忘れていた。
しかし、なんだかんだで生き残り、周りの冒険者と戦って敵を倒したおかげでレベルが異常な速度で上がっていくという幸運に恵まれ、一度も死に戻ることなく戦い抜く。
後にそれを聞いた仲間から「じゃあ普段からそれやれよ」と突っ込まれ、落ち込むのであった。
普通なところで失敗し、変なところで運の良い黒猫であった。
場面は変わって、ある通り。
ここは【ラック・ストリート】通称【カジノ街】。カジノや地下闘技場などギャンブル系の娯楽が集まっている。
カジノ街にも敵が流れ込み、乱戦状態だ。
その近くの路地にその男はいた。
「いきなりってやめてほしいわー。せっかく調子よかったのになー」
その男は青い髪に黒いマントを着ており、背中に弓を背負っている。
カオルである。
「困ったことに知り合いは全員バラバラ。合流しようにも敵はわんさか。こっちは運わりぃなー」
カオルは現状に嘆きながら弩を構える。
「しかし、あの人はなんで武闘家にして、しかもはぐれるんだよ。一緒にいてくれればそこに行く理由になるのに。……ベリスケは冒険者ギルド。地先輩は大神殿。他も大神殿に多くいる。近いのは大神殿。よし決まり」
カオルはウニャミスにボヤキ、他のメンバーや知り合いの動向を調べて方針を決める。
カオルは大通りギリギリまで近づき様子を観察する。
混戦は変わらず。
(敵と闘技場の連中の区別がつかねー)
とりあえず冒険者と戦っている敵を狙うことに決めた。
カオルは通りの影を観察する。
「行けるか。【シャドウ・ダイブ】」
カオルは目の前の影の中に飛び込む。
影の中を移動し、また近くの影の中に飛び込みながら移動する。
敵の背後の影に潜り込む。
「【スナイプ・シュート】」
弩から矢を放つ。影から矢が飛び出し敵の背中を撃ち抜く。
敵は何が起こったか分からずに消滅する。
戦っていた冒険者は何が起きたか分からずに混乱するも、次の敵が迫り戦闘を続ける。
カオルはまた路地に入り、影から出る。
「ふう。やっぱり影に居続けると魔力消費速いなー。ダイブ自体はコストいいのに」
カオルの種族は【シャドーマン】。魔族に属し影を操るSR種族だ。
【シャドウ・ダイブ】は文字通り影の中に飛び込む魔法で使用コストも低く、クールタイムは2秒と早い。ただし、影の中にいる間は魔力を消費し続ける。
カオルは再び通りの影を観察する。
すると50mほど先に大型カジノの店があり、店の前には大きな影が出来ている。その影は店の2階にまで及んでいるようだ。
カオルは【シャドウ・ダイブ】で店の2階まで移動する。そこは誰もいなかった。
カオルはマナ・ポーションを飲み、魔力を回復させる。
「【影分身】」
カオルのすぐ横で影が盛り上がり、カオルとそっくりな姿になる。
【影分身】は影で分身を作り、操ることが出来るスキル。魔力の消費も大きく、本体と同じ影の中にいないと発動できないと制限は多いが、純粋に手数を増やせるので強力なスキルだ。活動時間は1分。クールタイムも1分。
「頼むお願い。【700エンBET】【影分身】」
カオルが再びスキルを発動する。カオルの横にもう一体分身が現れる。
「よし。神様ありがとー」
ガッツポーズをとる。
このゲームはスキル、魔法にはクールタイムが存在する。クールタイムが過ぎないと再び使うことは出来ない。しかし、このゲームは魔力を2倍消費することでクールタイムを無視して発動できる。その場合クールタイムも倍になる。そのため、あまりこの裏技を使うものはいない。
しかし、カオルは発動し喜んでいる。これにはその前の【BET】が関係している。
カオルのサブ職業は【賭博師】。このサブはギャンブル性があるものに関してイカサマを見抜いたり、逆にイカサマを仕掛けやすくなる。つまり運勢を操る職業だ。
その【賭博師】には隠された仕様があった。
それは、戦闘において『お金を賭けることで、成功・当たれば直前に使用したスキル・魔法をコストなしで発動する。さらに大当たりすれば使用分の魔力を回復する』ユニークスキルを持つことだ。
ちなみに失敗・ハズレればスキル・魔法は発動せずに魔力とお金だけ持っていかれる。お金を高くBETすればするほど大当たりの可能性が上がる。ただし、対象のスキル・魔法にもよって大当たりに必要なBET金額は変わる。
今回は700エンを賭けて、見事当たりを引いた。
「構え」
カオルを含み3人は、弩を構えそれぞれ標的を狙う。
ちなみに影分身の操作はターゲットを決めて、技や動作を入力することで動かせる。
入力は一度に5回まで可能だ。追加入力も出来る。
「【スナイプ・シュート】」
3人は攻撃を開始した。
撃ったら結果を見ずに、矢を装填し次を狙う。
「【レーザー・シュート】」
再び撃つ。
ちなみに影分身はスキルは使えない。
一発撃ったら、矢を装填し、また構えて撃つを繰り返す。
敵は次々と倒れていく。
8割がた倒してところで影分身が消える。
カオルは後を下の冒険者に任せて一息つく。
感覚的に魔力は2/3くらいはある。
「移動するか」
カオルは【シャドウ・ダイブ】で路地裏まで飛び、大神殿に向けて移動を開始する。
出来る限り影が多い道を選ぶ。
「夜になれば俺の時間だけどなー。この時間だと街では高いところに行きにくいから嫌だわ」
大神殿近くの大通りに出ると、そこにはまだ敵がいた。しかも。
「トロールいるじゃん」
トロールがいた。足元には敵がウロチョロしている。そのせいで攻め切れていないようだ。
カオルは路地裏からショートボウを構え、矢をつがえようとする。
すると、敵の足元から剣の形をした岩が出現する。
それを見て、ある考えが浮かんだ。
カオルはステータスでスキル欄を見ながら少し考える。
とりあえず試してみようと決めた。
「体は影で出来ているってね。【シャドウ・ソード】」
影に手を掲げると、影が蠢き剣が出てくる。
その影剣を矢として弓につがえる。
影剣の形を調整する。カオルは手ごたえを感じた。
「いける。【影流星《剣》】」
カオルは影剣を放つ。放たれた影剣は黒い流星となり、トロールの脇腹を貫く。
トロールは消滅する。
周りはカオルに注目する。
カオルはその間に新しい矢をつがえて放つ。
トロールが消えたため、他の冒険者も突撃する。
勝敗は決したようだ。
カオルは移動を再開する。
カオルは移動中に先ほどのスキルを思い出す。
あれは間違いなく、あの時に生まれたオリジナルスキルだ。
(なるほどねー。ああやって組み合わせていけば良いわけか。これはしばらく大変だわ)
カオルはその後大神殿に到着し、防衛に参加する。
もちろんスキルは隠して。
影の悪魔の功績は、他の英雄の影に紛れて隠れていった。
それが狙ったものかどうかは本人のみが知る。
ありがとうございました。




