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#19 赤い月と狂う熊

明日にしようと思いましたが、ふとPVを確認すると9000を超えていてちょっと怖くなったので(笑)今日はもう一話投稿します。

たくさんの方に読んでいただき、本当にうれしいです。ありがとうございます。


今日からは戦闘シーンが続きます。

グロシーンもあるので、ご注意お願いします。


今後もよろしくお願いします。


「かわいい2人だったわね。ああいう子達が私達には必要よね」

「無理ですよ。すぐに逃げ出しますって」


 ルナイラの希望をケーンが否定する。

 ルナイラが頬を膨らませる。


「なんとかしなさいよ参謀。副長命令よ」

「めんどくさいですね」


 ケーンはルナイラを足蹴にする。

 その2人の周りは血の海だった。


「体は消えても流した血はやっぱり消えないのね。せっかくの街の景観が最悪だわ」

「心にもないことを」


 ケーンの言葉にルナイラは苦笑する。

 ルナイラは周りを見て、敵がいないことを確認する。


「こっちは終わりみたいねぇ。あっちは?」

「もうすぐ終わりそうですね。行きましょうか」


 ルナイラとケーンは反対側で戦っていた自分達の長のところに向かう。

 敵はあと5人もいないようだ。


「おら。さっさと倒せ。腕上がんねーぞ」

「了解っす!リーダー!」


 フルレッドの言葉に周りの連中は油断なく敵を倒していく。

 3分もせずに敵は全滅する。


「おし。少し休憩したら東門に行くぞ」


 へーい。と返事が返ってくる。

 ルナイラとケーンはそこに合流する。


「他の連中は?」


 フルレッドが水を飲みながらケーンに聞く。


「ログインしてるのは全員ここにいますよ」


 ケーンは答える。

 フルレッドはその答えに舌打ちする。


「ちっ。ちょっと厳しいか」

「そうね。東門まで行くと半分は死に戻るわよ」


 赤月旅団は結成して2日だ。連携もメンバーの練度もバラバラだ。

 というか連携訓練をする前に襲撃を受けた。

 ケーンはため息を吐く。


「東門に行くのは私たちだけにしましょうか。彼らは…中央役所の防衛に回しますか」


 ケーンが決めて2人も同意する。

 その時。


ドン!!


 フルレッド達の近くに何かが落ちてきた。

 フルレッド達はすぐさま構える。

 現れたのは。


「トロール?」


 灰色の巨体に木でできた棍棒を持つ人型魔獣。

 それがなぜか空から降ってきた。


「Lv12!」


 ケーンが叫ぶ。


「なーんか嫌な流れねぇ。初撃はもらうわよ!」


 ルナイラは嫌な予感を感じるも、目の前の敵を倒さないとゆっくり考えることも出来ない。

 ニヤリと笑いながら突撃する。

 トロールはルナイラに目を向ける。


「遅い!【アクセル・ステップ】!【スラスト・エッジ】!…もらった!【スウィング・スラッシュ】!」


 ルナイラが急加速し、トロールの右斜め後ろに現れる。すかさずスキルで右脚の付け根に槍を突き刺す。槍が十分に刺さったことを確認したと同時にスキルで槍を薙ぎ払い、トロールの右脚を切断する。


「ギャアアァァァァ!?」


 トロールが叫びながら前に倒れる。


「続きます!『岩よ貫け』【アース・ランス】!」


 地面から岩の槍が現れ、トロールの体や四肢を貫く。

 トロールは地面に縫い付けられ暴れていると、視界に影が入る。

 影に目を向けると目の前にあったのは、視界一杯に広がる鉄の塊だった。


「【クラッシュ・バスター】」


 フルレッドの金砕棒がトロールの頭に叩きつけられる。

 金砕棒は特に抵抗なくトロールの頭を潰し、地面を凹ませて血が撒き散らされる。

 トロールが消滅したのを確認し、フルレッドは一息つく。


「ふぅ。さて、どうすっかね。いくら何でもこれは想定外だ」


 ルナイラとケーンが近づいてくる。


「これは全員で役所に行きましょう。トロールまでとなると戦力が集まる所で一度立て直した方がいいです」

「しかたないわね。行く途中、目に入った奴は潰していきましょ」


 ルナイラが不機嫌そうに同意し提案する。

 フルレッドが答える。


「かまわねぇが、一番は移動と住人の救出が優先だ」


 ルナイラもフルレッドの言葉に同意し、メンバーに声を掛け移動を開始する。

 案の定、役所にもトロールがおり、赤月旅団は途中救出した住人を引き連れながらも役所の防衛に参加する。

 赤月旅団参戦後は、被害が激減し味方の士気も上がった。

 彼らの名前は瞬く間に知れ渡り、クランへの入団希望者が激増する。





 赤月旅団が戦った大通りとは別の通りでも、戦いは続いている。

 その中には熊がいた。


「あぁ、もう。ウニャミスさんどこ行ったんだよ。なんではぐれるかなぁ」


 ベリスケである。

 ウニャミスと一緒にいたはずなのに、戦っているうちにウニャミスを見失ったのだ。


「なんであの人パーティー申請無視しとるんか。申請不可ってことは近くにおらんか。はぁ」


 ベリスケはため息を吐く。その間も敵の山賊が攻めてくる。

 ベリスケは盾で攻撃を防ぐ。その隙に後ろにいる冒険者達が反撃する。

 一緒に戦っている冒険者に慰められる。


「ドンマイだな」


 ベリスケは苦笑しながら頷く。


(地正さんとカオルさんも合流は無理。一応はぐれたことは伝えたけど。ウニャミスさんはコールに出ないから戦ってるんだろうか。……死に戻ってないよな?)


 少し不安になる。

 その間も戦いは続き、無事に殲滅する。


「ここはもう大丈夫か。ギルドに向かうぞ。住人を連れていく」


 ベリスケは冒険者の言葉に頷く。

 移動しようとした時。


「きゃあぁぁぁぁ!!」


 その場にいた全員が反応する。


「まだいたか!お前らは先に連れて行け!俺たちが行く!」


 先ほど話しかけてきた冒険者が指示を出す。

 誰も反対せずに指示に従い行動する。

 ベリスケは声がした方に走り始める。

 通りを1つ曲がった先にいたのは、さっきと同じく山賊風の男達だ。それとローブを着た魔術師風の男がいた。

 男達が目にする先は酒場のようだが、建物の入り口が壊され大穴が開いていた。

 酒場から親子と見られる女性と子供が引っ張り出されている。

 隣を走っていたベリスケに話しかけてきた冒険者が叫ぶ。


「ケーレ!レレア!」


 知り合いのようだ。どうやらNPCの冒険者だったようだ。

 ベリスケは親子を掴んでいる男との距離を測る。


(ギリギリ届く!)


「【タウンティング・ハウル】!『がああぁぁぁぁぁ』!!」


 ベリスケが吠える。

 男達の数人はその声に体が硬直し、親子を掴んでいた手を離した。

 ベリスケは後ろの冒険者に話しかける。


「俺が突っ込んだ後にあの親子を頼みます。あと、誰も来ないように注意してください。巻き込みたくないので」


 ベリスケの言葉に冒険者は驚く。どういう意味か聞こうとした時、その答えが現れる。


ビキビキっ!


 ベリスケの体が膨れ上がり、茶色の体毛が黒く染まっていく。

 両目が赤く輝き、明らかに正気を失っているようだ。


「おまっ!?全員さがれぇぇ!!バーサーカーだぁ!!」


 冒険者の言葉に、後ろに続いていた全員が転びながら止まろうとする。


グアガアァァァァァ!!!


 ベリスケが吼える。

 ならず者達が逃げようとするが……もう遅い。


「ガアァァ!」

「ひぇあ!?来るなぎゃっ!」


 ベリスケは一番近くにいた男の前に高速で突進する。

 男は何も出来ずに、突如目の前に来た黒い塊に刈り殺される。

 男がいた所に、今は左手を血に染める大熊がいた。


「ひぃ!?に、逃げろ!」


 男達は背中を向け逃げ始める。魔術師の男は腰を抜かして座り込んでいる。

 ベリスケは再び突進し右手に持っているバトルアックスを無造作に振るう。


「ぎゃあ!?」

「ひっぎゅっ!」

「いやだべぇ!?」


 一振りで3人が消える。1人は上半身と下半身が別れて。1人は座り込んでいたため頭が吹き飛び。最後の1人は右脇腹が抉られ、その勢いで建物の壁に叩きつけられて。

 大熊は血を浴びる。それでも止まらず斧と爪を振るう。

 獲物はまだいるのだから。

 冒険者達はその光景に何も言葉を発せない。

 助けられた母親は冒険者に抱き着き、震える。

 子供はその横でじぃっとベリスケを見ている。母親の服を掴んでいる手は震えている。

 助けてくれたとはいえ、見せられる光景はあまりにも怖かった。



 熊は、実は臆病な動物と言われている。大きな音を聞くと逃げ出すほどに。


 ベリスケもそうだ。臆病だしあまり競争心はない。だから見た目で怖がってくれれば、戦いが減ると考えた。

 狼のビーストマンや妖精族になって活躍したいという思いはあった。自分だって男なのだから。でも、結局選べなかった。

 だから、これぐらいはと、サブに【バーサーカー】を選んだ。

 もっとも普段の戦闘では使わないようにしてる。

 強い人達が周りにいるからだ。狂う必要はない。

 しかし、今はどうだったろう。狂わないと救えない。そう思った。


 だったら狂おう。助けた人に怖がられるくらい。味方に化け物扱いされるくらい。


 死なれるより。死なれて泣かれるよりはずっといい。


 泣く姿を見るのは、嫌いだ。


「ガアァァっ!」

「やめっ!もうしねぇ!この街にもこねぇ!だからっ!」


 大熊は、ベリスケは、最後の一匹・・に斧を振り上げる。


「やっやめてく『ドォヂャン!!』」


 斧が地面を血に染める。

 周りに獲物はもういない。

 ベリスケは大きく息を吐く。

 体が縮み、眼と体毛が元の色に戻っていく。

 ベリスケはその場に座り込む。体が非常に重く感じる。

 後ろを見る気にはなれなかった。

 やっぱり……怖かったかな。



「終わったか」


 ベリスケと話していた冒険者は呟く。

 未だに他は誰も口を開かないし、動かない。


(当然だろうけどな。初めて見るんだろう。…相変わらずバーサーカーはやべぇな)


 彼は昔に一度だけバーサーカーの犯罪者と戦ったことがある。30人以上で挑んで終わった時には生き残ったのは彼を含めてたったの7人だった。


(まぁ、あの犯罪者と熊公を一緒にするのはあんまりだけどな)


 彼は固まっている連中に怒鳴る。


「いつまで固まってやがる!とっとと他に隠れているやつがいねぇか探せ!その後は全員でギルドに行くぞ!熊公はもう反動(リバウンド)でまともに戦えねぇからな!俺たちがしっかりしねぇとあいつの奮闘が無駄になるだろが!」


 怒鳴られて慌ただしく動き出す冒険者達。

 しかし、誰もベリスケには近づかない。

 彼は頭をボリボリと掻き、ベリスケへと向かう。

 周りは息を飲んだように、緊張した空気が流れるが彼はお構いなしだった。


「おう。無事か?無事だな。熊公」


 ベリスケは話しかけてきた男に目を向ける。

 苦笑しながら答える。


「はい。ただ…体がほとんど言うこと聞きませんね。もう少しで立てるとは思います」

「そうか。他のことは連中に任せとけ。敵はもういねぇしな。熊公は休んどけ」


 彼はそう言ってタオルを投げつけてくる。

 ベリスケは礼を言うと顔を拭いて血をぬぐい、再び前を向く。

 彼はその横顔を眺めていた。


「グラトルだ」

「……え?」


 ベリスケは彼に顔を向ける。

 彼はベリスケの隣に座る。


「俺の名前だよ。グラトルだ」

「…ベリスケです」

「おう。よろしくな。熊公」


 グラトルは名前を聞くも熊公と呼んだ。

 ベリスケは苦笑いするも、あまり嫌な気分にはならなかった。


「…バーサーカーなんて碌な目に合わねーぞ」

「やっぱりですか」


 グラトルの言葉にベリスケはあっさりと返す。

 グラトルはその反応に顔を顰める。


「やっぱりわかってんじゃねーか。気づいてんだろ?他の狂った奴らがどんな奴らで、どうなったのか」

「なんとなくは」

「じゃあ、やめとけよ」

「俺、プレイヤーなんですよ」

「あぁ、なんか頑丈で強くなりやすいってやつか?」


 ベリスケは正直に正体を明かす。

 グラトルはそれを聞いて、なおさら分からなくなった。


「それこそ他の職につけよ。大成すんだろ」

「俺臆病なんで。これでいいんですよ」

「……化け物扱いされるぞ」

「分かってます」

「……殺されるかもしんねぇぞ」

「言ったでしょ?グラトルさん。俺、()()()()んですよ」


 ベリスケの答えにグラトルは目を見開いてベリスケを見る。

 ベリスケは前を向いたまま、悟ったように笑っている。

 グラトルはつらそうに顔を顰め、前を向く。


「絶対に…つらいぞ?」

「普段は使いませんよ。仲間やグラトルさんみたいに強い人がいますからね。こんな時くらいしか使いませんよ」

(それでもよ…)


 グラトルはそう言いたかった。

 しかし、言葉が出なかった。

 間違っているとは思う。でも、その覚悟は間違ってない。そう思ってしまったから。


「はぁ~。バカなんだな。熊公」

「ですね~。冒険者に向いてるでしょ?」

「んなわけあるか」


 グラトルは密かに決めた。自分の眼が届くうちは守ってやろうと。


(まだ引退は出来ねぇってか)


 グラトルは苦笑いして立ち上がる。

 周りは大体仕事を終えたようだ。


「おし。熊公。そろそろ立て…あ?」


 途中で言うのをやめたグラトルに不思議そうに目を向けるベリスケ。

 すると不意に左後ろから引っ張られるのを感じた。


「?」


 ベリスケは後ろを振り返る。


「君は…」


 そこにいたのは女の子だ。先ほどグラトルが助けた酒場の娘のレレア。

 なぜここにいるんだろう。ベリスケはそう考えていると。

 レレアはベリスケを見つめながら。


「熊さんどこか怪我したの?痛いの?」


 聞いてきて少し泣きそうな顔をするレレア。

 ベリスケは慌てて答える。


「だ、大丈夫だよ。疲れただけやけん」


 レレアはその答えにニパッと笑う。


「よかった。…熊さん、助けてくれてありがとう!」


 レレアはお礼を言ってくる。

 ベリスケはポケっとする。

 怖がられると思っていたが、心配され、笑顔でお礼を言われるとは思っていなかったからだ。

 グラトルはそれを見て笑う。


「はっはっはっ!よかったじゃねーか熊公。ちゃんと見てくれてたじゃねーか」

「……はい」


 ベリスケは立ち上がる。

 レレアはベリスケの右手を握り、引っ張る。

 ベリスケは苦笑いする。

 一行に合流すると、全員が頭を下げて謝罪する。怖がって済まなかったと。

 ベリスケは再びポケっとし、グラトルは爆笑する。

 

 一行は移動を開始する。

 緊急事態中のはずだが、その一行からは明るい声がした。

 同じくギルドに向かう途中だった冒険者が見たのは、熊に肩車されて喜んでいる女の子の姿だった。

 その後も街では、熊に肩車されている女の子を見かけるようになったとか。


 熊はわずかな人の中で英雄となった。


ありがとうございました。

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