後悔無き選択
魔導師達の話し合いの後、彼らはヴェルナ―の家に集まっていた。ヴェルナ―は客間に魔導師達を執事に案内させると、メイド達にワインをいくつか持ってこさせた。
「ほうほう」
関が客間に目をやる。いくつもの高そうな家具を関は珍しそうに見ている。
「なんだ。珍しいのか」
「いえ、あまりこういうものはヴェルナ―さんのイメージと合わないので」
無駄に高そうな金ぴかの椅子を指さして関はそう言った。
「ええ、全くその通りです。それは私の趣味ではありません」
「それなら、どうして」
「仕方ないんですよ。魔法はまだ、社会に受け入れられて時間が経ってないので魔法をやりたい若者を増やすのはなかなかに大変でしてね」
「これは宣伝ですか」
「ええ、魔法をやれば金が手に入る。そんな理由で魔法をやったとしても、いつの間にか優れた魔法理論を作る者も出てくるかもしれない。可能性は多い方がいいので」
「ヴェルナ―、とりあえず酒を飲もうぜ」
そう言うとトマスはワインを高く上げた。
「はいはい、待ってください、トマス」
「では魔法の繁栄を願って」
「願って」「願って」「願って」「願って」「願って」「願って」
魔導師達も酒の酔いがまわって来た頃、突然ジークムントが話し始める。
「こんな良い機会はなかなかない。個人的に魔導師って人種は魔法を支配する人間ってだけじゃあないと思っている」
「ほう。じゃあ、魔導師は何なんだ」
「良い質問だ、トマス。魔導師は何らかの結論を下したものだ」
「含んだ言い方ですねえ」
にやにやと関がトマスにジークムントを見る。
「つまり、どういう事なんだ。ジークムント」
ラマヌジャンは早々に酔い潰れた妻を部屋に送り、席に戻るとそう言って話しに加わった。
「それを今から示してもらうんだよ、ラマヌジャン。じゃあ、聞こうか。『あんた達にとって幸せとは何だ』」
「面白い事をしますね、ジークムント」
ヴェルナ―はメイド達に追加のワインを用意するように指示を送りながらそう言った。
「私も興味あるわね。魔導師、自分で言うのもあれだけど頂点を極めた者たちの幸せか」
「そう言う事だ。俺は人生は結果だと思ってる。その過程でどれだけの栄誉や金を手に入れようとも幸せで無ければ意味が無い。幸せって奴が人生における全てだろ」
「はっはははは。全く、全く、その通りだと思います。いやあ、酔ってますね。しかしこうした問答たまらなく好物です」
そう言って関はにかっと笑った。
「真理だな」
ラマヌジャンはなるほどと深くうなづいた。
「おうおう、良いじゃねえかジークムント。まだまだ時間はある語ろう、語ろうぜ」
「じゃあ、話をふった以上は俺からだな。俺にとって幸せとは自分を知り、自分と共に生きる事」
そう言うと手に持ったワインを机に置いた。
「へえ、考えを変えたんですか」
「ああ、ヴェルナ―。あれから思うところがあってな」
「自分を知るとは」
ラマヌジャンはジークムントをじっと見てそう言った。
「さっきも言ったが幸せなんてものはどれだけの綺麗事を言っても自分一人の物だ。だからこそ、自分に常に語りかける何を俺はしたいのかと。まあ、魔導師だから実現できる幸せだとも言えるかもな」
「あっはははは。あんたも色々考えてんのね」
ワイン片手にいかにも酔っ払いな笑い声をソフィは上げた。
「当たり前だ」
「次は私が語りましょう。私は何より強く、楽しむ事ですね。人生は短い。楽しめば、楽しむほどに飽きは来ますがそれを補うほどの物がこの世界にはあると思うのです」
全員が互いの幸せを語り、時間が時間になりお開きとなった。魔導師達はそれぞれヴェルナ―の用意した部屋に移動を開始した。
しばらくして皆が寝静まった頃、客間の方からした音にヴェルナ―が目を覚まし客間に向かうとソフィがワインを片手に客間から庭を見ていた。
「眠れないんですか」
「ああ、ごめん。起こしちゃった」
「面白そうなものが見れそうなので起きたんですよ」
「酷い事言うわね」
「まあ、冗談はこのくらいにして何かあったんですか」
「いえね。幸せの話になったでしょ。自分が何をやりたかったのかとか昔の自分は楽しんでいたのかなって思っちゃってね」
「らしくないですね。いつものあなたなら『みんな色々考えてるのね』って聞き流すでしょうに」
「酷い言い方ね。まあ、そうだけど。考えて見ればあんまり物事考えてこなかったような気がしてね」
「そうですか?少なくとも物事を考えてない人間が魔法無しであそこまで強くなれるものだとは思えませんが」
「でも、結局その努力も魔法っていう大きな上書きで無駄になったし」
「ソフィ、後悔は無意味だ。どんな人間も、犯罪を犯すような人間も世紀の発見をするような人間も全ての行動の一瞬、一瞬を見れば選べる選択肢の中の最善を尽くして人生を生きている。人が出来るのはその一瞬、一瞬出来る行為の選択肢を増やすことだけだ。師匠の受けおりです」
人生を振り返る。まるで無意味にただ、自分が納得のいかない現実に戦いを挑むだけだっただけの過去。結局分かった事は先人たちの言う通り、無理な物は無理。できることをできるようにやるだけだった。しかし、しかしそれでも今にして思えば例え何が止めたとしてもソフィはソフィ・ジェルマンは選んでいるだろう。無意味で、無価値な自分を納得させるような最善を。
さあ、戦おう。無意味で無価値な自分の選択した世界を、まだまだ分からず隠れた選択肢とまだまだ戦えるのなら。
それら全てを飲み込んでいるからこそ、それら全てを知ろうとするからこそ、戦場は映える。
舞台は再び戦場に戻る。
ヴェルナ―とジークムント、ソフィはマクスウェル達に接近する。
「先に行くわ。私が決めてもいいんでしょ」
「良いですよ。存分にやってください」
ソフィが先にマクスウェルの元に向かって行く。
「いいのか」
「ソフィでも無理でしょう。切り札を使います。援護をお願いします」
「ああ」
「・・・一つ聞いても良いですか。正直に言えばジークムントは別に師匠と対立する必要はなかったのでは。これは私と師匠の問題ですし、失礼ながらジークムントは静観すると思っていました」
「まあ、そう思うよな。だが別に考え方が変わったわけじゃない。俺は俺のためにしか行動しないし、それは俺が幸せになるための物だ。それが答えだ」
「あなたらしいですね。納得しました。では行きましょう」
「ああ」
マクスウェルに接近する。ソフィは周りから見たら線のようになっていた。速さという力の一つの形がソフィを引き延ばしたように見せる。線は速く、速く、速く、すぐに空気の壁を置き去りにした。
「ん」
ソフィは違和感を感じた。さっきから来ている岩や雷の来襲とは別に今までの経験がソフィに何かを感じさせた。
「??寒く??なってる」
ソフィは音速の壁を容易に破るような超速で走っている。その速度により生じる熱などから身を守るために身体強化をしているため、熱に対する反応が鈍い。それゆえに気づくのが遅れた。周りの温度が明らかに部分的に低い事を、そして部分的に高い事に。
すぐにそれは目に見える現象になる。それは吸い込む、何もかも。風と言う現象の頂点。ハリケーンが姿を現す。
ソフィはすぐに軌道を変える。とてもあのままの速度でハリケーンに飛び込めば身体強化をしていても体が引きちぎられる。ハリケーンはそのまま規模をさらに拡大する。隕石に雷にハリケーン。誰が見ても世紀末のような光景だ。
「これは一旦ひきますか」
「さっきの威勢はどうした、ソフィ」
ジークムントがはやし立てるように声を掛ける。
「うるさいわね。これはないでしょ」
「勝負を決めるために手伝ってもらえますか、ソフィ」
「了解」
「では援護をお願いします」
すぐに空から雷だけでなく、家一軒ぐらいの大きさの雹が大量に落ちてくる。それを追う様に隕石が顔を出す。すぐに吸血鬼化したゾンビがそれに対応する。地上は人類が経験したことのない大きさのハリケーンで溢れている。
「はは、何とも言えねえな。世界が終わる。そう言われても嘘に聞こえないな」
「全く同感だわ。最初はあなた達二人を相手にすると聞いて冗談に聞こえたけど、こんなもの見せられたら納得するわ」
「呆れますね。同時に尊敬します。マクスウェル、あなたの弟子で良かった」
三人はマクスウェルに向かって行く。ソフィがマクスウェルに向かって行く。それを追う様にヴェルナ―とジークムントが続く。
すぐにそれに対応するようにソフィの真上に雷が襲う。今までの普通の雷ではなく、光の柱が地上に一瞬現れ、ソフィを飲み込んだ。
ソフィ・ジェルマン。速度の支配者をもって速度で勝利する光速を有する雷の柱によって、倒れる。
「ソフィいいいい」
「ヴェルナ―、全力でさっきのに対応する」
「・・・」
「おいおい、ソフィはあんな一撃じゃ死なねえ。分かってるだろ」
「ええ、恐らく師匠は部外者を排除したかったのでしょう。だからソフィを最初に」
「ああ、だが俺たちの師匠は今の一発を弟子に撃つのをためらう人間じゃない」
「分かってます。魔力の調整をします。援護頼みます」
「おう、さて始めるか」
ジークムントはゆっくりと自分が呼びだした吸血鬼にゾンビをその眼に捕え、何かをつかむように眼前に手を構えた。
「死への決別を完全なる壱に(アン・プレイブレイク・トゥ・デス)」
そう唱え終えるとジークムントの手のひらに大量のゾンビと吸血鬼が飲み込まれていく。全てが飲み込まれた後、ジークムントが手を開くとそこからマクスウェルが落としてきた隕石の数倍の面積の魔法陣が広がる。ジークムントは呼びだした。死を呪うがために、死に足掻くがために生れし人の罪を。
魔法陣から隕石の数十倍のフランケンシュタインが現れた。フランシュタインは隕石を振り払い、襲いかかるハリケーンからヴェルナ―を守る。
「これならなんとかなりそうですね」
ヴェルナ―がそう言い終えると同時に一瞬の光と共に大地に、空気に、穴でも開けたような音が鳴り響く。その一瞬、ヴェルナ―の目に焼きついた光の柱はフランケンシュタインとそれに乗ったジークムントを直撃した。
「ジ、ジークムント?」
一瞬のヴェルナ―の動揺を予定していたかのようにヴェルナ―の頭上に最大まで加速した隕石が落ちてきた。
「く」
しかし、隕石は落ちてこない。
「伝えただろ。援護は任せろと」
「ええ」
そこには悠然と隕石を受け止めるフランケンシュタインとそれに乗るジークムントの姿があった。
「こんなこともあろうかと、作ったゾンビの中に多めに鉄分を入れていたんだよ。お陰でそれなりに魔力を食ったがな」
「流石ですね」
「落下物は何とかする。後は分かるな」
「ええ。・・・・ええ、決めてきます」
もがいた人間がいる。
ある者は幸せを欲しながら、自分の周りを見落とし遠くばかり見ていた。
ある者は曲げられない自分の意志がため結局は無駄な努力をした。
ではある者はどうなのだろう。自分が見たい世界のために自分のせんせいを失った。
それらは幸せか、それらは人生の糧となりえるのか。
それらは彼らにも分かりはしない。
ただ、ただ、それがあって彼らは此処にいて、それがあるからまだ立っていられることは彼らは知っている。
ようやく、ようやくマクスウェルがその姿を現す。
「久しく見てなかったように感じるな」
「ええ、師匠。決着をつけましょう」
マクスウェルが差し向けるありとあらゆる災害をヴェルナ―は難なくかわしていく。近付いてくるヴェルナ―からマクスウェルは距離を取らない。
「空間接続」
「方向代入」
しかし、前と同じように巨大な円柱が不規則な軌道を持ってヴェルナ―に襲いかかる。
それをヴェルナ―はしっかりと眼前に捉え、そして冷静に唱える。
「真に救世主たりえし者」
一瞬、強い閃光がヴェルナ―を包み込んだ。そして遅い来る円柱をヴェルナ―は物ともせず、避ける。
そのままヴェルナ―は直進し、その速度は空気の壁を破りヴェルナ―は線になった。
「これはまずそうだね」
老婆がマクスウェルにヴェルナ―に近づけさせないようにマクスウェルと老婆を中心としたハリケーンを発生させる。
ヴェルナ―はそのまま直進しハリケーンと全力でぶつかりあった。
「うおおおおおおお」
「まだまだだ、ヴェルナ―」
マクスウェルとヴェルナ―がハリケーンの風を壁ににらみ合う。
「負けるわけにはいかないんですよ・・・・」
「ならば、全力を賭して来い」
一瞬の閃光と共に雷の柱がヴェルナ―を飲み込んだ。
「こんなもので沈むものに世界は任せられん」
ヴェルナ―は雷の柱の直撃を受けてなお、そこに立っていた。
「危なかった。あらかじめ唱えおいて良かった」
ヴェルナ―の体に「悪魔の訴え(べリアル・スー)」の吸収効果と身体強化が働いている。魔法を整えていた間にあらかじめ唱えておいていたのだ。
「最後にしましょうか。・・ふう。うおおおおお」
ヴェルナ―は二重の身体強化と速度の支配の能力の全てを目の前のハリケーンにぶつける。
そして文字通りハリケーンをこじ開け、渾身の一撃をマクスウェルにぶつける。
死への決別を完全なる壱に(アン・プレイブレイク・トゥ・デス)_唱えた者が作り出し魔法生物を全てを無効化する代わりにこれによって無効化された魔法生物の能力を全て合わせた巨大なフランケンシュタインを出現させる。
真に救世主たりえし者_仲間がしようした魔法によるあらゆる能力を向上させる効果を唱えた者も受ける。(回復なども含む)
悪魔の訴え(べリアル・スー)、武装の上位呪文、対象者に対する一定値までの威力の魔法攻撃、物理攻撃を無効にする。また、無効にした攻撃の威力に比例して、使用者の身体能力を上げる。ただし、武装同様、ダメージを蓄積し、蓄積したダメージが一定量を超えると打ち消される。




