最後の戦い
「終わったのか」
マクスウェルの魔法が消えていったのを確認しつつ、ジークムントがヴェルナ―の元に向かった。
そこには数分前まで戦っていた者同士とはとても思えない二人の姿があった。一人は倒れ、もう一人はその様子を心配する。
「師匠を病院に運びましょう。ソフィも」
「私なら大丈夫よ」
そういってボロボロになりながらもソフィがヴェルナ―の前に現れた。
「ソフィ。いえ、あなたにも病院に行ってもらいます」
「分かったわよ」
ヴェルナ―はマクスウェルを担いで、その後をジークムントとソフィが追いかける。
ヴェルナー達はしばらくの飛行の後、とある病院に着く。
「おい、いるんだろ。ババア」
「おいおい。ババアだと私はまだ20代だ」
そう言って奥の方から短髪に白衣の女が現れた。女からは何かを包み込むような温かさが感じられる。それは同時に強烈な命の胎動を感じさせる。
「テレサさん。実は見てほしい方がいまして」
「おお、ヴェルナ―か。あんたのおかげで新しい医術を作り出せた。礼を言うよ」
「いえいえ、それはテレサさんの功績ですよ」
「どうでもいいけど、早くマクスウェルさんの様子を見てもらった方がいいんじゃない。そうでしょ、テレサ」
「おう、ソフィもいるのか。やけにボロボロだな」
一通りの診断を終え、マクスウェルを病室に移動させるとテレサがヴェルナ―達を呼びだした。テレサは幾つかの椅子をマクスウェルを診断した部屋に用意するとそこにヴェルナ―達を座らせ、自分も椅子に座ると手に持っていたカルテを何度か確認してヴェルナ―達の方を向いた、
「それで師匠はどんな調子なんですか」
すぐにヴェルナ―が声を上げた。
「ああ、それなんだがな。これは助からんわ」
「それでいつ頃起き・・あ?どういう事だ」
淡々としたテレサの態度も合わさって、よりジークムントは混乱した。
「言った通りの意味だ。こいつは助からん」
「え。さっきまで戦ってたのよ。もしかしてそのせいで」
「いいや、そういうこっちゃない」
テレサはカルテをヴェルナ―達に見せて、そう言った。
「それにあなたの医学なら」
「生憎、私は不老不死を作れるわけではないからな」
「もしかして」
「ああ、こいつはもう寿命が近づいてんだよ。まあ、信じられんわな。私も信じられん」
テレサは持っていたカルテを近くの机に投げた。
「数時間前まで戦っていたんですよ」
「魔法の効果か知らんが、それで動いていたとしか思えん。普通は動くことも出来ないだろうな。なによりありえんのがこいつは最低でも何百年単位で生きているってことだ」
「確かに俺達が魔法を教えられてた頃から爺だったな」
納得したようにジークムントが声を上げる。
「それは魔力の効果だと思います。最近の研究で魔力は寿命を延ばすことが分かっているので」
「・・・・それなら、大往生ね」
「・・・・そうだな」
「後はお前らが話しかけてやれ。後何日かは生きていられるはずだ」
「はい」
「ここは何処だ」
テレサの病院の病室でしばらくの昏睡状態から回復したマクスウェルがベットの上で体を起こしながらそう言った。
「おお。大丈夫ですか、師匠」
ヴェルナ―はマクスウェルのベットの隣に椅子に座っていたがマクスウェルが起き上ったのを見て飛び上がるように喜んだ。
「ん、ヴェルナ―か。その様子からみると私の体の状態を知ったか」
「・・ええ」
「そうか」
「今、ドクターを呼んできます」
「ああ」
すぐにマクスウェルの病室にテレサが現れた。
「あなたがマクスウェルさんですか。ヴェルナ―の師と聞いています」
「ああ、そうだ。いや、そうだったと言うべきか」
「?・・。ではいくつか体についての質問と触診をよろしいですか」
「ああ、頼む」
テレサが質問と触診を終えた。
「もう、マクスウェルさんもご自分の事はご理解されているとの話ですので話しますがあともって一週間ぐらいと思ってください」
「・・・そうか」
「・・・・・・そうですか」
「では失礼します」
テレサがマクスウェルの病室を出た。
「早速だがヴェルナ―、お前に話がある」
「!!はい」
「お前は私の言った魔法のルールを破ったな」
「はい」
「そして、お前はそれについて少しも謝るつもりはないのだな」
「はい」
「・・・」
マクスウェルはしっかりとヴェルナ―の目を見つめる。
「そうか。・・・・。あはははは」
「師匠?」
「お前は大した奴だ。人が成してきた決まり、まして自分の師さえ信じたルールを破ってなお、自分は正しいと言う」
「・・・・」
「だが、だがな。それだけなら、狂人も、愚者にもそれはできる。お前が真に正しいとするなら全てに叩かれて、その全てに打ち勝って見せろ」
「はい。・・・・でも、どのようにして」
「簡単だ。ひどく簡単なことだ」
テレサの病院の前、ヴェルナ―から連絡を受けたジークムントとテレサから連絡を受け戸籍上親戚となっているキング一族からジョンがばったりと出くわしていた。
「!ジークムントさんじゃないですか。あの時以来ですね」
「?どっかで会ったか」
「まあ、あの時は無視されましたからね。あのときですよ」
ジョンはジークムントにあの時の事を話した。
「ああ、あの時か。あの時はとりあえず、帰りたかったからな。それはそうとキング家の人間とはな」
「興味を持っていただけましたか」
「まあな。キングといえば世界でも有数の金持ちだ。そんな一族の考える『幸せ』と言うのに興味があるな」
「ではマクスウェルに会ってから」
「ほお、お前もあいつに会いに来てたのか」
「ええ、私が生まれた頃から私の家にいました」
「なるほどな。道理で俺たちにも何処に住んでいるか教えぬはずだ。教えていたら、世界がひっくり返る」
「・・・まあ、取りあえず行きましょうか」
「ああ」
二人はマクスウェルの病室に向かって行った。
マクスウェルの病室の近くに来るとマクスウェルとヴェルナ―が話している声が聞こえてきた。
「お前は決して揺らがぬ自信とは何だと考える」
「?突然、何の話ですか。・・・・・あ」
「察したか。そうだ。決して揺らがぬ自信とはありとあらゆる批判という批判を前に目を背けず、受け入れて、そしてその批判を撃ち砕ける者にのみ与えられる物だ」
「納得はしましたが、どうやってそれを」
「そのためにお前と戦った者達がいるんだろう」
病室のドアが開いた。
「面白そうな事を話してんな」
そう言ってジークムントが病室に入って来た。
「ジークムント、それにキングさん」
「お久しぶりです。ヴェルナ―さん」
「舞台は整った。あまり人数が居過ぎても今度は議論に時間がかかりすぎる。お前にない視点を持つ者としては充分だろ」
「なるほど」
「どうだ。話は聞いていたんだろう。お前らはやってみる気はあるか」
「いいぜ。面白い話が聞けそうだからな」
「私も構いません。今は時間がありますし」
議論は何時間にも及び、ヴェルナ―の考え方は何度も何度も否定された。多くの人間と言う者を知るジークムントと多くの金やそれを取り巻く人間達を知るジョンによって、そのたびにヴェルナ―は長考し、自分の考えの芯となっている部分以外を一度全て壊し、一つ一つ間違いがないかを確認し幾重にも幾重にも自分の考えを固めていった。
「・・・・なのです」
「はははは。大したものだ。もうすでに完全な否定は不可能になったようだな」
「そうみたいですね」
「ありがとうございます。これで」
「いや、こっちも十分に楽しかったしな」
「ええ魔導師の思考と言うもの、堪能しました」
「では最後の仕上げだ。私と語り合おう、ヴェルナ―」
「はい」
「そろそろ、帰ります。また明日も来ます」
「俺も帰るかな。ちょっとやりたいことが出来たしな」
「そうか。ではまた明日な」
「また明日」
ジークムントとジョンは病室を出るとそのまま、迎えを呼ぶことなく二人で歩き始めた。
「全く良い体験ですね」
「そうだな。それよりもお前の素じゃないだろ。今のお前はどうせなら素のお前と話したいんだが」
「分かったよ」
「それだ。俺が興味を持ったのは」
ジークムントはにやにやと笑みをこぼす。
「ありがたい話だね、魔導師が興味を持ってくれるのは」
「そういうものか。人が人に興味を持つのにその人間の背景なんて関係ないだろ」
「まあ、そうなんだけどね。魔導師って人種はそれとは別だろう」
「・・。まあいい。さあてお前の『幸せ』を教えてもらおうか」
話は病室のヴェルナ―とマクスウェルに戻る。
「お前は変ったな。魔法を科学とする前のお前はエゴの塊のようなだったと記憶している」
「はは、あんまり思い出したくないですね」
「だがお前は変った。何がお前を変えた?」
「限界を知ったんですよ。それまで私は壁にぶつかってはいても、それを壊すのは本質的に一人で行うものだと思っていました」
「ほう、違ったのか」
「はい。世界を変えるという経験したことのない壁に出会った時、今まで壁を壊していたものの正体を知ったんです」
「正体か」
「はい。正体です。それは自分が積み上げてきたものを肯定したいと言う気持ちでした」
「・・だが、それは結局お前の一人で作り上げてきたものだろ」
「そうなんですよ。その程度の力しか私は持っていなかったって事なんです」
「その程度か。多くの人間に今のセリフを聞かせてやりたいな」
「積み重ねてきたものは決して壊れぬ自信を作ってくれる。しかし、それだけでは世界を変えるのには足りませんでした」
「面倒だな。何が必要だったといのだ」
「気力です。けっして倒れず、戦場に立っていてもそれでは勝てませんでした。負けない事は簡単ですが勝つことは難しく、それには同じ方向を向いてくれる人間が必要でした」
「なるほどな。一人では立っているのが精いっぱいでも二人なら肩を貸しあってでも剣を振ることができる」
「私は世界を変えて初めて、人は一人では生きていけない事を知った気がします」
「随分な周り道だな」
「はい。しかしもう手放したりはしません」
「それが最善だな。・・・・ふっふ、あはは」
「どうかされました?」
「ああ、全く魔法の才能こそあれ最初に会った時のお前らはそうとうな酷さだった」
「その話は・」
「心配するな。掘り下げるつもりはない。しかし改めて思い出すと私はお前にもジークムントにも良い師であったのか。どうだ」
「酷い質問ですね。もちろん、師匠は私の師です」
「だが、私は思うのだ。人は自分でしか変われない。それなのに師などと言う存在に意味があるかとな」
「これも嫌な質問ですね。私は失礼ながら本質的に教えられる関係も教える関係も無いと思っています。関係は互いに教え合ってこそ正常なのだと」
「なんだ。綺麗に否定してくれるな」
「まだ、終わりではありませんよ。人が求めているのは結局は正常な関係です。師匠は生まれて初めて親以外でできた正常な人間関係を作りあえる相手でした」
「嬉しい事を言ってくれるな」
「師匠からは魔法だけでなく、多くの事を学んだと思っています」
「・・・さてと雑談は終わりだ。今度は私の批判を受け切って見せろ、ヴェルナ―」
「喜んで」
その日、一人の男が旅立った。良く言われる話だが葬式に集まる人の数はその人間が愛されていたかを見る一つの基準たりえるだろう。その男はその基準でいえば酷い寂しい人生を歩んだ事となるだろうが、果たして神が居たとして男をそう評するのだろうか。
「師匠、あなたは私たちにとって最高の師であり友人でした」
今回は『教育』をテーマにしてみました。うまくまとめ切れたかは謎ですが、まあ大丈夫だと思います。書きたいことは書けたので




