災害と奈落
荒野には大きな粉じんが上がっていた。大量の巨大な岩が落下する途中で風を起こしてできたものだ。
「流石にヤバかったですね」
「ああ、全くだ」
ヴェルナ―は自分が呼びだした奈落の魔王の一団によって、自分に当たりそうな岩を飲み込ませていた。しかし、それは助かっただけだ。ヴェルナ―に落ちなかった、まだまだ大量と言っていい岩たちは落下を続ける。空気抵抗が示す限界の速度まで加速しながら。
「休んでる暇はありませんね。私が真上の岩をどうにかします。時間を稼いでください」
「ああ、分かってるよ」
奈落の魔王達は物質を飲み込んだ後、その場所を巣にして産卵、増殖する。それが可能になるまで時間がかかる。もちろん、巣が落下する岩のような安定でない場所では産卵はできない。産卵できなかった魔王はそのまま死亡する。
「全く、『昇天』を忘れといて良かったな」
ジークムントは手を目の前で絡めた。
「死者の行進」
ジークムントは絡めた手を勢いよくほどいた。それと同時に辺り一面を覆い隠す魔法陣が現れる。そこからは大量のゾンビの大群が現れる。
「さあて、奴らの血を吸え」
「かしこまりました」
ジークムントを乗せた吸血鬼はゾンビの軍団の何人かの血を吸って行く。
「何をやってるんです・・」
ヴェルナ―が言い終わる前に血を吸ったゾンビが猛スピードで大岩に向かって行く。大岩に向かって行くゾンビの数は少しずつしかし、確実に増えていく。
「吸血鬼に血を吸われた魔法生物は吸血鬼の力を得る。これで持ちこたえられるだろ」
「!・・・ええ」
ヴェルナ―は空を舞いながら、自分の上を魔王の一団に周りの岩を吸血鬼と化したゾンビが対処、残りの魔王の一団がとんでも無い速度でその数を増やしていく。マクスウェルもそれに対応していくが数の増加がそれを遥かに上回る。
空は奈落の魔王に色を奪われた。
「魔王は育ちました。しかし、肝心な師匠の位置が分かりませんね」
「そうだな」
「このまま魔王の数を増やせば、なんとかなるかもしれません」
「それしかないな」
ジークムントはあたりを見回すが地平線の彼方まで荒野がそこにあるだけだ。
魔王は周りの地面を喰らい、そこにできた空間で産卵、数を増やす。まさしく爆風が辺りを襲うようなそんな脅威的な速さでそれは増えていく。
たいして、こちらはマクスウェル側。空から見える光景の2、3割はすでに魔王によって食われてしまっていた。そしてマクスウェルが『円柱座標展開』によって知りえる範囲の500分の一も魔王の配下となっていた。しかもそれが更に広範囲に爆発的に拡大していく。
マクスウェルが普通の人間であったのなら、その状況はまさしく魔王との対峙であろうがそれが『マクスウェル』ならば魔王との矜持にしかなりえない。
「なかなか、成長したものだな。楽しませてくれる」
マクスウェルはそう言いながら自分の髭を撫でた。
「空間接続、空間接続、空間接続、空間接続、空間接続、空間接続、空間接続、空間接続・・・」
その連続の魔法発動の後、マクスウェルはジークムント、ヴェルナ―のいる方を眺める。
「さあ、やってみろ」
ヴェルナ―達はそのまま魔王の爆発を背景に進撃を続けていた。だが直感的にヴェルナ―はなんらかの違和感を感じていた。マクスウェルからの攻撃が来ないことも強く違和感を意識させたがそれが何に対する違和感なのかは分からずにいた。
そんなヴェルナ―の様子を見てジークムントも思う事があったのか周りに警戒していた。
それは突然の事だった。空を覆っていた莫大な数の魔王の一団がやられたのを始まりに魔王の一団があちらこちらでやられ始めた。
「馬鹿な」
「どうした」
「いえ、魔王達がやられているのです。恐らくは師匠」
「まあ、あれだけ的が大きければな」
「そうですが魔王が増える速さを大きく上回っています」
「はあ、一体どうしたってんだ。あれだけの繁殖力だぜ」
「分かりません。分かりませんが、それはすぐにこっちにも来る」
何かが起こる、ヴェルナ―の直感がそう告げていた。
「ジークムント、加速しますよ」
「ああ」
それがヴェルナ―を襲った。ジークムントを、魔王達を襲った。岩である空を覆うのではないかと言う大きさの岩だ。だが今までもそうした岩は襲ってきていた。違うのは速さだ。今まではヴェルナ―やジークムントの真上に岩が現れたがそれは加速した物ではなく、落下する前のものだった。だからこそ、岩の落ちる方向に移動することでそれを避けていたが今度は、その岩を認識するころにはヴェルナ―達は岩と共にクレーターを作っていた。
荒野に大きな粉じんが上がる。それは一度ではない。何度も何度も岩の落下は継続される。まるで地球に釘でも打ち込んでいるような地面から伝わる音、それは単純に兵器が、かつての人類が作れた音を凌駕していた。
マクスウェルはその音を耳にして、魔法を唱えるのを辞めた。
「お前らはその程度か、そうではないだろう。早く見せてみろ。お前らが変えた世界を」




