キング一族
話しはマクスウェルが約束の場所に現れる数時間前に遡る。
そこはある屋敷の来客用の部屋である。ヴェルナ―の館と比べてもそれは大きく、色々な装飾品があちらこちらにその存在感を誇っている。その客間の椅子に座って、一人の男が待たされていた。その男はマクスウェルだった。
しばらくしてそこにもう一人の男が現れる。強烈な違和感を放出しながら男はマクスウェルを見つめると声を掛ける。
「しばらくぶりですね。マクスウェル」
「そうだな」
男は執事にお茶とお菓子を取ってこさせると客間の椅子に座る。
「どうしたんです。あなたがここに来るなんて珍しいですね」
「お前もうすうす感づいてるだろうから、はっきり言う。今日からあれをやるのを辞める」
「!どういう事です」
「私の魔法を使って、お前に色々な有益な位置情報を売る。私は今までそれをやって生きてきた。先代の魔導師達がしてきたようにな。だが、ヴェルナ―が魔法を民に教えてしまった」
「確かにそうですが」
「このまま続けても、いつかはばれる。ならばばれる前に辞めて金を貯め込んだ方がいい」
そう言って、マクスウェルは席を立った。
「それではこれからは」
そう言った男は肩を落とした。
「自分で何とかしろ」
マクスウェルは客間を出た。そのまま廊下を歩くとそこにはジョ―ムズ・キングの姿があった。
マクスウェルは止まるとニタニタと笑うジョ―ムズの顔をまじまじと見つめる。
「相変わらず父親に似ていないな、お前は」
「そうかな。親戚連中は似てるっていうんだけど」
「どうすればあそこで落胆している男とお前が似ているんだ」
「仕方ないよ。周りの連中は見る目が無いから」
「傲慢だな」
「そうかな。どうでもいいよ」
「・・・お前の要求を聞いてやる」
「ん、意外だね。あんたは他人に言われて考えを曲げる人間じゃないと思ったんだけど」
「そうだな。だが見極めねばならなくなった、新たなる時代を」
「そうかい。・・ヴェルナ―さんに宜しく言っといて」
「それは無理な話だ。そんな余裕は無い」
「残念。じゃあ、僕は父さんと話してくるよ」
そう言ってジョ―ムズは客間に向かって行った。
「狂った男だ。初代キングに似ているな。魔法などない人間の方が恐ろしく感じるのは久しぶりだ」
客間に向かって行ったジョ―ムズは客間で肩を落としていた。父親の前の席に座る。
「ねえ、父さん。ボクはねえ、昔から周りの人間から浮いていた。最初はなぜか分からなかった。一時期は自分がなんか特別な存在なんじゃないかと思った事もあるんだ。・・・全く恥ずかしいよね」
「何の話だ」
「まあまあ、聞いてよ。僕は気づいたんだ。僕が周りから浮いていたのは周りの人間がしようとしない事を僕がやるからだ」
「そうだったな、お前は問題児だった。生徒会長をやって休日に他校との勉強会を計画したり、クラス対抗で数学や英語の問題の出しあいをしたり」
「そうだね。誰もが何かを思い考える。ほとんどの人間はそこまではするがそこからをしない。僕はするけどね」
「それに私は何度肝を冷やした事か。自分のやった事に浸ってるのかもしれんがお前のやったことを多くの人間は笑っていたぞ。『キング家ともあろうものが常識が無いのかとな』」
「人間はさあ、怖いんだ。変化って奴がね。ただ普通にしていればすぎる日常を人は求める。そのくせ、退屈って奴が嫌いだ。全く我儘だ」
「・・お前は何が言いたいんだ」
「せっかちだね、父さんは。いいよ、教えよう。世界には刺激が必要なんだ。定期的にね、それは戦争と言う形でもいいんだけど今の世界に戦争は僕ら商人にはうまみが無い。兵器を売るのも金にはなるけど、もっと大きな物が今の世界なら動かせる」
「・・分からんな。兵器以上に売れるものだと」
「全く持ってせっかちだね。僕は動かせると言っただけだよ。それは世界そのもの」
「?何を言っている。気でも狂ったか」
「はは、僕は正気だよ。魔法の登場によって多くの前提が崩れた。最大の軍力を持つことは最大の魔導師を抱える事に変わり、力が保障してきた物の多くが変わった。この変化は大きな商戦の始まりだと多くの商人が思っただろう。だが真に重要なのは今までは国が世界を変えてきたがこれからは人が世界を変えれる時代が来た事だよ」
「??」
「魔導師は個人で世界を変えれる力を持つ、かつては国が変えたものを個人が変える時代が来る」
「?何を言っている。魔導師がいくら強いと言っても、彼らは人間だ。世界をどうにかできる力があっても世界から孤立したんでは」
「そうだね、意味が無い。人は一人でも生きられるが幸せにはならない。彼らのような賢人がそれを知らないわけがない。でも彼らは動く己の欲を満たすために、戦いとはそれは限らないが、それはもう世界にとってはイベントになりえる。なんせ、世界を変えれる力を持つからね」
「そうか」
「分かったみたいだね。世界にはこれから今だかつてない混乱を孕んだ大きな、大きな大商戦が始まるんだ。今までの常識は壊れ、手探りの、まるでかつて新たな航路を見つけようとした時代や大陸に眠る多くの資源を手に入れるために多くの人間が死力を尽くしていたような時代が始まる。作り上げられた、勝者を勝者にするための鉄則が今までにない周期で更新される時代が来るんだ」
「馬鹿な。そんな時代が来れば金のある者は金を溜めるだけだ」
「それは難しい。金は常に流れゆく物で溜め続けることはできない。それが今までのような時代ならそれでも自分たちで循環できたが、もうそれも難しい。循環させるシステムさえ、すぐに機能しなくなる。なぜなら、そうしたシステムはね。力によって保障されたものだったからだ」
「はは、何を言っている。そんなのはお前の妄想だろ」
「そうだね、妄想だ。でも、僕は思うんだ。金を力という人がいる。それは違うんだ。強い人間には何もしなくても金は寄ってくるものなんだよ」
「だからこそ、僕の手にはいつだって金があるし、僕は金持ちなんだよ」
男は、ジェームズの父は畏怖した。目の前の人間に魔導師でも、魔術師でも、魔法使いでもなく、自分の息子に心底恐怖した。そして、男は時代が変わったことを理解した。今の、いや全盛期の自分でも呼吸すら出来そうのない時代が始まった、男はそれを理解した。
「ははははは。・・・・私は引退する。お前に我がグループの指揮権の全てを渡そう。私はもう古い、いや私が通用する時代は終わった。次はお前の時代だ」
「ありがとう、父さん」
そう言って父親に頭を下げて、ジェームズは客間を出た。
しばらく廊下を歩くとソフィが廊下の壁にもたれて待っていた。
「終わったの」
「いや、始まったんだ」
「そ」
「マクスウェルに会ったのかい」
「ええ、見ただけで分かったわ。彼がヴェルナ―達を呼びだしたんだってね」
「隠していたのは謝るよ。なんせ、我が家のタブーだったから」
「気にしてないわ。それよりもヴェルナ―達が心配になったわ」
「そんなに強いのかい、マクスウェルは」
「分からない、ただ今まで会った事のないタイプの人間なのは確か」
「心配なら見に行ってもいいよ。君なら距離なんて関係ないから」
「確かにここから、『約束の場所』は近いけどいいの」
「いいさ、それにここで僕が死ぬなら世界にとって僕がそういう存在だったってだけさ」
「そう、相変わらず狂ってるわね」
「君ら、魔導師には言われたくないな」
ソフィは外に出ていった。




