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魔導師範と二人の魔導師  作者: アルケニア
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 ヴェルナ―とジークムントは約束の地に来ていた。多くの監視衛星や各国の諜報員に見守られて。約束の地はヴェルナ―とジークムントが魔導師範マクスウェルの元を離れた場所である。その場所は地平線まで広がる荒野であり、その荒野の中心に大きな岩がそびえている。

「久しいですね」

「ああ、なんともな。この地に戻る事になろうとはな」

「師匠に勝てますかね」

「厳しいだろうな。あの頃、二人で戦った頃はボロ負け。今の方が強くなったとはいえ」

「ええ、師匠は空間魔導師」

「分かりやすい化けものだ」

「呼び出された原因は何だと思います」

「十中八九、お前のせいだろ」

そう言うとジークムントはヴェルナ―を指さした。

「そうですね」

「分かっていたが思ったより反応が遅かったよな」

「確かにそうですね。いつもの師匠なら」


「半殺しだ」


 その声は乾燥した荒野の空気を強く震わせた。綺麗な装飾が施されたローブを纏い、その老人は戦場に立った。そこにいる誰もが理解しうる力の存在感をローブから漏らし、その力は空間を速く、強く、壮大な振動として伝わってくる。

 その老人は自分の髭を撫でながらゆっくりと二人に近づく。

「久しぶりだな、ジークムント、ヴェルナ―」

「ええ、お久しぶりです」

「半殺しとは相変わらず厳しいな」

「そうか。私がお前らに課したルールを破ったんだ当然だと思うが」

 魔法が科学になる前、マクスウェルを中心に魔法はごく限られた者のみが知る技術であった。そして魔法は弟子から次の弟子に伝えられ、他の誰にも伝えてはならないものだった。世界秩序維持のために。ところがヴェルナ―はそれを世界に広めた。限られた者しか使えないファンタジーではなく、多くの者が決められた規則さえ満たせば使えるサイエンスとして。

「そうですね。だがそれはあんたの代でのルールだ」

「確かにそうだ。私は魔法を受け継ぐ役割をお前たちに譲った人間だ。だがそれは同時にお前達が魔法を取り巻くルールも受け継ぐ事でもある」

「はあ、固いところも変わってねえな。お前も何とか言えよ、ヴェルナ―」

「ええ、私はやったことを間違っていたとは思ってません」

「そうか。ここでお前たちの謝罪でもあればお前たちに魔法の未来を預けようとも思っていたが残念だ」

「何が残念だ。最初からこの三人が揃えばこうなることは必然だったろう」


「開戦だ」


 地平線の彼方、場所は違えど各国の諜報員が3人の挙動に注意を払っていた。ある者は衛星を、ある者はスコープで、方法は違えどその瞬間、その瞬間に彼らのとる行動は同じだった。彼らは体の内側からあふれ出る強烈な恐怖を制御できない。地平線の彼方という距離、銃撃はおろか爆撃でも安全圏であるその距離で彼らは爆風のような身の内から湧きあがる感情に囚われる。そう、戦いは始まったのだ。



 ヴェルナ―、ジークムントは魔導師範マクスウェルから距離を取った。

 マクスウェルは拳を中央に掲げる。

「極座標展開(ポーラー・コーディナ・ン)」

 マクスウェルはそう言うと拳を開いた。拳の中心だった位置から網目のような模様の球体が姿を現す。それはそのまま急速に巨大化していく。

 その巨大化がジークムントの目の前に来るとジークムントは唱える。

「静寂(ラーン・デル・シュツ―ラ)」

 その巨大化していた球体はジークムントの目の前でかき消された。

「なるほど、無効化する魔法か。成長したな。だが無駄だ」

 マクスウェルは再び拳を中央に掲げる。

「上手くいけばこれで終わりだと思ったんだがな」

「しかたありません。切り替えましょう」

 ジークムントは手のひらを目の前に差し出した。夜を象徴し、浸食と狂気の宴を楽しむ尊き暗黒の手を引くために。

「吸血鬼の降臨(アドベントオ・ヴェンペイア)」

 ジークムントは吸血鬼の手を取った。夜を纏い、夜に抱かれ、夜を統べる。これらの言葉の羅列が真に深刻な意味を持つ吸血鬼は溢れんとする自信と至高の力を持ってそれに応える。

「お久しぶりですね。前は牢獄でしたが」

「ああ、今度は前のような楽な仕事じゃねえぞ。俺を乗せて飛べ」

 それを聞くと吸血鬼は空に向かって急加速した。荒野には強烈な風が襲う。

「エールダンジュ」

 ヴェルナ―の周りを8つのアンティーク調の筒が回り始める。それらは光を吐き出した。そしてヴェルナ―はその柱のような光の推進力で空に浮かぶ。ヴェルナ―はそのままの高さで地面すれすれに前方に加速する。

 二人はともにマクスウェルから全力で遠ざかった。いや、マクスウェルの術から遠ざかったのだ。

「愚かな、そんな距離に何の意味がある」

 そう言うとマクスウェルはため息をついた。

「円柱座標展開(ズ―レンダ―・コ―ディナ・ン」

 マクスウェルはそう言うと拳を広げた。拳の中心から網目のような模様の円柱が現れた。それはさっきの球体のように急速に巨大化していった。それはやがて全速力で遠ざかっていた二人を飲み込んで、なお強大化していく。

「こんなものだな」

 その円柱はそのまま姿を消していった。



 その円柱に飲み込まれたジークムントだったがマクスウェルからはすでに肉眼で確認できない高さにいた。

「どうしますか」

「どうするもこうするもないな。これでここら一体は空間魔導師の支配下だ。ゆっくりする暇は無くなった」

 突然、目の前に円柱状の真っ暗な物質が現れた。

「ち、止まるなよ」

「はい」

 その円柱は空間を飲み込んだ。

「何なんです、あれは」

「奴の空間魔法だ。空間と空間をつなげてるんだ」

「ワームホールですか」

「ああ、要は物体を自由に瞬間移動できる」

「・・そういうことですか」

「気づいたか。つまりあの円柱は如何なるものも切断する」

 次々とジークムントの周りに円柱状の真っ黒な物質が現れる。

「説明している余裕は無いな。飛ばせ」

「はい」

 ジークムントと吸血鬼は全力で急降下を開始した。



 対して、地上すれすれでマクスウェルから遠ざかったヴェルナ―の目の前にも大量の円柱が姿を見せていた。

「これはエールダンジュではまずいですね」

 ヴェルナ―の周りを回る筒から吐き出される光の柱が円柱に当たると違う円柱からそれが吐き出される。ヴェルナ―はあちこちから自分の出した光の柱に注意しながら飛ばなければならなかった。

「『天使化』している余裕は無いですし」

 そう言いながらヴェルナ―は周りにジークムントの所と同じように円柱が消えたり、現れたりしている事を確認する、

 そう、ヴェルナ―は知っている。真黒な円柱に飲み込まれることは体を切り取られる事に等しい事を、そして天使化は使用するのに繭に包まる分の時間がかかる事。

「全くでたらめですね」

 そう言ってヴェルナ―は今度はマクスウェルの方を向けて直進する。



 こちらはマクスウェル。悠々と魔法を唱え二人に対処する。

「空間接続(ディメンジョン・アンシュロス)」

「空間接続(ディメンジョン・アンシュロス)」

「今度はこっちに向かってきたか」

 マクスウェルは『円柱座標展開』によって、その影響を受けた物質の内、自分が五感で認識可能な物の位置情報を知ることができる。だからそれを最初に唱え、それをジークムントは無効化しようとした。

 つまりマクスウェルはとんでもなく離れているはずのジークムントとヴェルナ―の位置を認識したうえで攻撃出来ている。それは当然ジークムントとヴェルナ―にとって不利である。だから二人はマクスウェルに接近する。

「さあ、接近戦だぜ、マクスウェル」

最初に姿を現したのはジークムントの方だ。当然、マクスウェルはそれを知っている。

「接近戦か。そう言えば昔はそんな展開になったな、懐かしい」

「随分余裕だな。確かに前は接近戦になっても負けたが、それは過去の話だ」

「そうだな、過去だ。もう接近戦にすらなりはしない」

 そう言うと急接近するジークムントの方にマクスウェルは拳を向ける。

「?」

「空間接続(ディメンジョン・アンシュロス)」

「方向代入(リヒトン・ツ・アイロン)」

 魔法を唱えると同時にマクスウェルは手を広げた。その手から先ほどまでとは比べ物にならない巨大な円柱が現れる。それだけならジークムントはその円柱を避けれただろう。しかし、円柱は曲線を描きながら運動を始め、その複雑な動きを読み切れなかったジークムントはそれに飲み込まれた。

「次はヴェルナ―か」



 しばらくした後、そこにヴェルナ―が急接近してきた。

「小手調べです。取りあえず一発を」

「つまらんな、このままやっても簡単に終わりそうだ。二人でやってみろ」

 そう言うと再び、マクスウェルは今度は急接近するヴェルナ―に向け拳を向ける。

 「?」

「空間接続(ディメンジョン・アンシュロス)」

「方向代入(リヒトン・ツ・アイロン)」

 魔法を唱えると同時にマクスウェルは手を広げる。そして、円柱は複雑な曲線を描きながらヴェルナ―を飲み込んだ。



 マクスウェルのいる場所から数キロ離れた地点で飛行していたジークムントの所に突如ヴェルナ―が姿を現す。まるで空間を飛び越えたように。

「うお、ヴェルナ―か。速く飛ばないとやられるぞ」

 その声を聞いて当然のワープにバランスを崩しかけていたヴェルナ―は何とか空中で耐性を整え、飛び始める。

「ああ、ジークムント。私は飲み込まれて」

「多分、適当な所に飛ばされたんだろ。俺も同じ目にあった。全く化けもんだな。接近戦にすらならない」

「ええ、全くです」

「それにしても飲み込まれただけで良かった」

「そうだな。飲み込まれる途中で閉じられたらやばかったな」

 マクスウェルの使う『空間接続』は空間と空間を繋げる。それはあるものをワープする事に等しいがそれを体の一部に対して行われるとそれは体の一部を失う事に等しい。全部がワープするなら欠損はないが万が一にも一部をワープさせられると。

 二人は辺りが不気味な静寂に包まれている事に気付いた。

「静かすぎるな。ここが何処か、あいつがどこにいるか分からないから。余計に」

「確かにそうですね」

 二人がとりあえず、その方向に飛んでいると何かが空中から落ちてきた。

「?雨か」

 そう言ってジークムントが空を見ると地球が落ちてきた。

「はは、とんでもないですね」

 もちろん、それは地球ではないそんなはずは無い。しかし、それは適切な表現である。それは、その物体はそんな表現を許容できる巨大さを十分に満たしていたからだ。

 落ちてきたそれは隕石のような地球の表面、半径五百メートルの球体だった。

 しかし、当然それなりの速度で移動する二人にそれはインパクトであってもダメージにはならない。

「驚きましたね」

「ああ、だがどうやらそれだけじゃ済まないようだ」

 ジークムントは地面に落ちるはずのその巨大な球体が地面すれすれに現れた円柱に飲み込まれていくのを確認した。

「あの球体が円柱に飲み込まれた。また、球体が落下するぞ」

「また、落下する」

 ヴェルナ―は気づいた。『また、落下する』その言葉の意味とそれが何を意味するかを。

 今、球体は落下している。いや、正確に言えば落下し続けている。このまま何に当たる事もなく加速し続けれな、それは空気抵抗があるとはいえとんでもない速さに加速する。避けられないほどに、致命的な速さに。

「破壊しましょう」

「何を」

「説明している暇はありません。あの球体を破壊しなければ負けます」

「良く分からんがお前がそういうんだ、いいぜやってやる」

 また、空からそれは現れる。かつての歴史上の地球の支配者を根絶やしにした災害が姿を現す。

 二人は速度を保ちながら、その周りを旋回する。

 ヴェルナ―は回りを旋回する筒から放出される光をその災害にぶつける。だが余りにも強大な質量の前にはそんな攻撃は無力だ。

 次にジークムントの吸血鬼がそれを全力で殴る。空気の壁を破るその拳撃を持ってしてもその災害は囁いただけだ。

「仕方ないですね。ここは私がやります」

 そう言ってヴェルナ―はその災害と同速度で飛び、それの下にしがみ付くと片手をそれに添える。

「奈落の降臨(アン・アポイゼム)」

 ヴェルナ―は添えていたその手を話すとその手には巨大なまるで光を受け付けない漆黒の塊がついていた。ヴェルナ―はそれを再び、その災害に近付ける。すぐにその漆黒は巨大化し、その災害と同じ大きさになった。

「すげえな」

 ジークムントの感嘆さえ飲み込むようにその漆黒が触れたものは全て飲み込まれていく。いかなる攻撃も寄せ付けないその災害は漆黒と言う超常現象の前に姿を失った。


 だが、だが、残念な話がある。非常に残念な話が。災害は忘れた頃にやってくる。そう言う事だ。


 すぐにヴェルナ―とジークムントにとっての空は災害が覆い尽くした。

「ははは、全く呆れるぐらいに化けもんだな」

 


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