2. 廃品置き場の鉱石と銅
「おいおい、シュンイチ! 一体どうしちまったんだ? 開拓村の件で頭がおかしくなったのか!?」
鍛冶場の裏手にある巨大な廃棄場。ガロンが汗だくになりながら、山積みにされたゴミの山を漁るシュンイチを呆れ顔で見つめていた。
シュンイチの作業着は、煤と金属粉で真っ黒に汚れていた。金づちで砕かれた農具の破片、曲がった鉄くず、用途の分からない鉱石のガラ。その中へ突っ込み、マルチツールのナイフで金属の質感を確かめていく。
「ガロンさん、笑いたければ笑ってくれ。だけど俺は本気だ。二度とあんな悲劇を見たくない」
シュンイチは立ち上がり、黒ずんだ汗を袖で拭った。
「ここに転がっている金属と、村にある酢や酸っぱい汁を全部買い取りたい。俺の手持ちの備品……このペンライトとマルチツールの替刃を担保にする」
「酢とゴミだと……? お前、そんなもので何を創る気なんだ?」
ガロンの眼差しから呆れの色が消え、真剣な困惑が宿る。シュンイチの瞳の奧にある、狂気的なまでの熱量に押されたのだ。
「『電池』と『電線』、そして『無線機』だ。馬を使わずに、一瞬で遠くへ声を届ける仕組みを作る」
「はあ!? 馬も使わずに……? お前、魔法使いにでもなるつもりか!?」
「魔法じゃない。科学だ」
シュンイチはガロンの肩を掴み、真っ直ぐに見つめた。
「ガロンさん、俺たちの世界では、目に見えない『電磁波』を使って何千キロ先の人間と会話ができる。この世界でも、物理法則が地球と同じなら絶対にできるはずなんだ。力を貸してくれ!」
ガロンはとしばらくシュンイチの顔を見つめていたが、やがて「はぁーっ」と大きな溜息をつき、頭をガシガシと掻いた。
「分かったよ、クソッ! お前のそのバカ真面目な目に免じて付き合ってやる! 鍛冶屋の親方には俺から口を効いてやるから、とっとと必要なものを揃えろ!」
シュンイチが要求した「三つの要素」。
第一に「導線」。第二に「電源」。第三に「検波器(受光素子)」。
この異世界は、幸いにも銅の精錬技術を有していた。鍛冶屋の親方に頭を下げ、細く引き伸ばさ
れた銅線を買い集める。問題は「絶縁処理」だった。裸の銅線をそのまま張れば、雨や地面に電気が逃げて漏電してしまう。
「シュンイチ、これでどうだ?」
ガロンが持って来たのは、村の木こりが採集した天然の松脂と、森に棲む下級魔物「スライム」の体液を煮詰めた緑色の粘着体だった。
シュンイチは手袋をはめ、銅線にその樹脂を丁寧に塗り込んでいった。指先にねっとりとした不快な感触が伝わり、鼻を突く特有のツンとした刺激臭が漂う。
(スライムの体液が非導電性のポリマー構造を持っているなんて……異世界の素材も捨てたもんじゃない)
次に電源の作成だ。
シュンイチは鍛冶場の廃棄場で、建物の防錆用に使われていた「亜鉛板」と、大量の「銅板」を掘り出した。
大きめの陶器の壺を四つ用意し、そこにガロンが集めてくれた極度に酸っぱい野生の柑橘類の絞り汁と、発酵した強い酢を注ぎ込む。酢のツーンとした酸っぱい臭いが狭い部屋に充満する。
壺の中に銅板と亜鉛板を対にして沈め、それぞれの端子を樹脂で覆った銅線で直列に接続していく。
「これで……化学電池(ボルタ電池)の完成だ」
亜鉛が酸に溶け出すことでイオン化し、電子が放出されて銅板へと流れ込む。化学エネルギーが電気エネルギーへと変換される、地球の高校化学の基本原則。
シュンイチは緊張で生唾を飲み込み、手製の回路の先端(銅線の端)同士をゆっくりと近づけた。
静寂の中。
バチッ。
小さな、けれど鮮烈な青い火花が散り、特有のオゾン臭がシュンイチの鼻腔をくすぐった。
「出た……! 直流電圧、およそ三・二ボルト……!」
「うわっ!? 火花が飛んだぞ! 壺の中から火が出たのか!?」ガロンが驚いて跳びのく。
「火じゃない、電気だ! ガロンさん、電気はこの世界にも流れている! 物理法則は不変なんだ!」
シュンイチは激しい喜びに思わず拳を突き上げた。地球の科学は、この異世界の土の上でも、何
一つ変わらずに機能している。
残るは最も困難なパーツ――送信機と受信機の構築だった。




