第82話 神剣アストラの本当の名
「――来い!」
俺は空中で神剣を構えた。
黒い腕が迫る。
一本。
二本。
三本。
まるで触手のように、無数の腕が裂け目から伸びてくる。
「レオン!」
セレナの声が聞こえた。
「大丈夫!」
俺は一気に加速した。
「――断絶!」
斬撃が走る。
黒い腕が切断される。
だが。
「……!」
切ったはずの腕が。
すぐに再生した。
『――無意味だ』
「なら……!」
俺はさらに踏み込む。
「再生!」
第四権能を発動。
傷ついた身体が一瞬で元に戻る。
「これなら!」
再び斬る。
切る。
斬る。
何度でも。
だが。
神喰らいには傷一つ残らない。
「くそ……!」
『――理解したか?』
赤い瞳が俺を見る。
『お前の力では、我を殺せない』
「……!」
『その剣も同じだ』
俺はアストラを見る。
すると。
神剣から声が響いた。
《……レオン》
珍しく。
その声には迷いがあった。
「どうした?」
《私は――》
《アストラではない》
「……え?」
《それは、この世界で与えられた仮の名》
《私の本当の名は――》
空間が震えた。
《アストラ・ゼロ》
「アストラ・ゼロ……?」
《世界創生以前に存在した、最初の神剣》
俺は息を呑んだ。
《破壊の剣でもない》
《守護の剣でもない》
《世界を終わらせるための剣でもない》
「じゃあ……何のための剣なんだ?」
しばらく沈黙があった。
そして。
《――選択する者の剣》
「選択……?」
《世界を救うか》
《世界を壊すか》
《それを決めるのは――》
《お前自身》
その瞬間。
神喰らいの腕が迫った。
「レオン!」
俺は剣を握る。
「……だったら」
俺は笑った。
「俺は自分で選ぶ」
「この世界を守る!」
神剣が。
眩い光を放った。
――ズドォォォン!!
黒い腕が吹き飛ぶ。
『……ほう』
初めて。
神喰らいの声に驚きが混じった。
俺は剣を構え直す。
「俺はまだ弱い」
「でも――」
「諦めるつもりはない」
赤い瞳が。
静かに細くなった。
『……覚えておけ』
『次に会う時』
『お前は――』
『我の器になる』
裂け目が閉じていく。
「待て!」
俺が斬りかかる。
しかし。
最後の瞬間。
神喰らいの声だけが残った。
『――楽しみにしているぞ』
そして。
空が。
元に戻った。
王都に。
静寂が訪れた。
俺は空中で息を吐く。
「……終わった?」
アクアが俺の肩に乗る。
「たぶん」
だが。
アストラ・ゼロは。
静かに告げた。
《――いいえ》
《これは始まりです》
俺は空を見上げた。
「……だよな」




