第63話 魔王軍五千、王都へ
王都の城壁の上。
俺は遠くを見つめていた。
地平線の向こうから。
黒い影がこちらへ向かっている。
「……あれが魔族軍」
リーゼが呟いた。
数千。
いや、もっといる。
魔族。
魔物。
そして巨大な魔獣。
その中央に、黒い旗が翻っていた。
「五千どころじゃないな」
エリシアが言う。
「おそらく七千ほどいます」
「七千……」
セレナが息を呑む。
隣にいるアリシアは、黙って軍勢を見ていた。
「……父上」
その声は小さかった。
俺はアリシアを見る。
「怖い?」
「……怖い」
意外だった。
魔王の娘。
強い剣士。
そんな彼女でも。
父親の軍勢を前にすれば怖いらしい。
「でも」
アリシアは剣を握る。
「逃げない」
俺は笑った。
「それでいい」
その時。
王都の鐘が鳴った。
――ゴォォォン!
国王が城壁へやってくる。
「全軍、戦闘準備!」
騎士たちが一斉に動き始める。
そして。
遠くから声が響いた。
『――アリシアを返せ』
巨大な魔力をまとった声。
アリシアの身体が震える。
俺は一歩前へ出た。
「返さない」
『……人間の少年よ』
声の主が笑う。
『我が娘を、貴様が奪ったか』
「違う」
俺は答えた。
「アリシアは自分でここにいる」
『ならば――』
黒い魔力が空を覆った。
『王都ごと消し去る』
「……やってみろ」
俺は神剣を抜いた。
空気が震える。
『――来るがいい』
魔王軍が一斉に走り始めた。
王都防衛戦。
その幕が上がった。




