第64話 アリシア、初めて剣を向ける
「来るぞ!」
騎士団長の声が響く。
魔族軍が城壁へ迫る。
矢が放たれる。
魔法が飛び交う。
――ドォン!
――バシュッ!
王都全体が戦場になった。
「レオン!」
セレナが叫ぶ。
「俺は前へ出る!」
「分かった!」
セレナは王女として騎士たちへ指示を出している。
その姿を見て。
俺は少し驚いた。
以前のセレナなら。
ただ守られるだけだった。
でも今は違う。
「みんな!」
セレナが叫ぶ。
「この王都を守りましょう!」
騎士たちの士気が上がる。
その隣では。
リーゼが魔法陣を展開していた。
「――《フレイム・レイン》!」
空から炎の雨が降る。
エリシアも精霊を呼ぶ。
「――《精霊障壁》!」
そして。
アリシア。
彼女は敵を見つめている。
「……」
「どうした?」
俺が聞く。
「私は……」
アリシアが震える。
「魔族を斬ったことがない」
「え?」
「訓練では何度も戦った」
「でも……」
彼女は剣を握る。
「本当に殺したことはない」
俺は少し黙った。
そして。
「無理に殺さなくていい」
「……」
「戦えないなら、俺の後ろにいて」
「嫌」
即答だった。
アリシアが前へ出る。
「私は自分の意思でここにいる」
「だから」
彼女は剣を構えた。
「自分の意思で戦う」
その瞬間。
敵の魔族兵が襲ってくる。
アリシアは。
一歩踏み込んだ。
――ザンッ!
剣の柄で敵を吹き飛ばす。
「……殺さないの?」
リーゼが聞く。
「必要ない」
アリシアは答えた。
「私は父上と違う」
その言葉に。
俺は笑った。
「それでいい」




