第61話 魔王の娘を救う
「助けてほしいんじゃないか?」
俺がそう言った瞬間。
アリシアの瞳が大きく揺れた。
「……何を言っている」
「違う?」
「違う」
即答だった。
だけど。
声が少し震えている。
俺はアリシアをじっと見る。
鑑定を使う。
――――――――――
【アリシア・グレイヴ】
種族:魔族
年齢:11歳
称号:魔王の娘
魔力:420,000
剣術:S
状態:精神干渉・呪縛
――――――――――
「やっぱり」
「……!」
「お前、操られてるだろ」
アリシアの顔が固まった。
「……黙れ」
「その黒い魔力」
俺は彼女の胸元を見る。
そこには黒い紋様が浮かんでいる。
「誰かに命令されてる」
「……違う」
「なら、どうしてそんなに苦しそうなんだ?」
「……!」
アリシアは唇を噛む。
そして。
「私は……魔王の娘だ」
「知ってる」
「魔族は人間の敵だ」
「それも知ってる」
「なら……」
アリシアの手が震える。
「なぜ私を殺さない?」
「理由がないから」
「……何?」
俺は剣を下ろした。
「お前が俺を殺したいなら別だけど」
「……」
「でも、誰かに操られてるなら話は別だ」
俺は一歩近づく。
「俺は、お前を助ける」
「……そんなこと」
「できるよ」
「できるわけが――」
「ある」
俺はアリシアの胸元へ手を伸ばした。
黒い紋様が反応する。
――バチッ!
「っ!」
強烈な呪いが俺の手を弾いた。
リーゼが叫ぶ。
「レオン!」
「大丈夫!」
俺は手を見る。
少しだけ赤くなっている。
「……かなり強いな」
エリシアが心配そうに近づく。
「神剣で切ることは?」
「たぶんできる」
俺はアストラを抜く。
アリシアが目を見開く。
「待て!」
「大丈夫」
「その剣では――」
「お前は斬らない」
俺は剣先を黒い紋様へ向ける。
「斬るのは――」
「この呪いだけだ」
神剣が淡く輝く。
「――断絶」
一閃。
黒い紋様だけが。
綺麗に切れた。
「……え?」
アリシアが呆然とする。
黒い魔力が霧のように消えていく。
そして。
アリシアの身体から。
ドサッ。
力が抜けた。
俺はすぐに支える。
「おい!」
「……」
アリシアは目を閉じている。
リーゼが駆け寄る。
「大丈夫?」
「呼吸はある」
エリシアが彼女の額に手を当てる。
「かなり疲弊しています」
「なら、休ませよう」
俺はアリシアを抱き上げた。
その時。
彼女が小さく呟いた。
「……どうして」
「ん?」
「どうして……助けるの……」
俺は少し考えて。
答えた。
「困ってる奴を見捨てる理由がないから」
アリシアは。
意識を失う直前。
ほんの少しだけ笑った。
「……変な人……」
そして。
眠りについた。
俺は彼女を抱えたまま。
仲間たちを見る。
「……また仲間が増えるのかな」
リーゼが呆れたように笑う。
「たぶんね」
エリシアも微笑む。
「レオンですから」
「俺のせいなの?」
二人が同時に頷いた。
「「はい」」
「……」
そして。
アクアが俺の頭の上で叫ぶ。
「なかま!」
俺は苦笑した。
「まだ決まってないって」
だが。
この時。
俺は知らなかった。
魔王の娘を助けたことで。
世界の勢力図が。
大きく変わり始めることを。
そして。
魔王自身が。
俺たちの前に姿を現すことを――。




