第101話 新しい学園生活と、赤い瞳の少女
王立魔法学院。
その正門を、俺たちはゆっくりと歩いていた。
「……一年ぶりか」
俺――レオン・アークライトは、巨大な学院を見上げる。
以前ここに来たときとは、少し雰囲気が違っていた。
建物は同じ。
中庭も同じ。
だけど……。
「なんだか、妙な感じがするわね」
リーゼが周囲を見渡した。
「うん」
エリシアも静かに頷く。
「精霊たちが、この学院を怖がっているわ」
「やっぱりか」
俺は小さく息を吐いた。
第100話。
いや、あの日から一年。
世界中で魔力の流れが不安定になった。
五つの封印が破壊された影響だ。
それでも人々は日常を取り戻しつつあった。
そして俺たちは、再びこの学院へ戻ってきた。
理由は単純。
俺たちも十二歳になり、正式に学院へ通うことになったからだ。
「レオン!」
突然、背後から声がした。
振り返る。
「久しぶり!」
そこには、金髪の少女が立っていた。
セレナだ。
以前より少し大人びた雰囲気になっている。
「セレナ」
「また同じ学院に通えるなんて嬉しいわ」
そう言って、セレナは笑った。
その笑顔を見ていると、なんとなく安心する。
「俺もだよ」
「……っ」
セレナの頬が少し赤くなった。
すると――。
「はいはい」
リーゼが間に入ってきた。
「朝から距離が近いわよ、二人とも」
「え?」
「何でもない!」
リーゼも頬を赤くする。
エリシアはそんな二人を見ながら、クスッと笑った。
「相変わらずですね」
「エリシアまで……」
俺が苦笑していると、
「おーい!」
今度は遠くから大きな声。
ルナだった。
「レオンー!」
猫耳を揺らしながら走ってくる。
その後ろにはミレイユとアリシア。
そして黒い翼を隠すための外套を着たノアもいる。
「全員揃ったな」
俺が言うと、ノアが頷いた。
「……仲間が多い」
「嫌か?」
「いや」
ノアは少しだけ笑った。
「……嬉しい」
その言葉に、俺も笑う。
この一年で、ノアはかなり変わった。
以前は誰かと一緒にいることすら知らなかった。
今では、自分から仲間の輪に入るようになっている。
「ところで、アクアは?」
俺が尋ねると――。
「ここだよー!」
俺の肩に乗っていた青いスライムが跳ねた。
「朝から元気だな」
「学院楽しみ!」
「……スライムが学院に通うのか?」
ルナが首を傾げる。
「問題ないだろ」
「問題しかないと思うわよ」
リーゼが呆れた。
そのときだった。
学院の鐘が鳴った。
――ゴーン。
「入学式が始まるわ!」
セレナが言う。
俺たちは学院の中へ歩いていった。
◇◇◇
講堂。
新入生たちが一斉に集められている。
俺たちは最前列付近の席に座った。
壇上には学院長。
そして――。
俺は眉をひそめた。
「……?」
学院長の後ろ。
一人の少女が立っている。
長い金髪。
整った顔。
年齢は俺たちと同じくらい。
しかし――。
「……あの子」
エリシアが小さく呟いた。
「どうした?」
「精霊が、あの子を避けています」
俺は少女を鑑定してみた。
――――。
【鑑定不能】
「……またか」
アクアと同じ。
いや。
少し違う。
鑑定しようとした瞬間、俺の頭の中に声が響いた。
『……見つけた』
「!」
俺は反射的に立ち上がった。
「レオン?」
セレナが驚く。
しかし俺は少女から目を離せない。
少女もこちらを見た。
目が合う。
その瞬間――。
彼女の瞳が、一瞬だけ赤く光った。
「……っ!」
俺の背中に冷たいものが走る。
アストラ・ゼロが微かに震えた。
《警告》
《対象を確認》
《危険度――測定不能》
「アストラが……?」
今まで、こんな反応をしたことはない。
少女は俺を見つめたまま、微笑んだ。
「……やっと会えた」
小さな声。
俺には、はっきり聞こえた。
「え?」
少女は何事もなかったように視線を逸らす。
その瞬間。
――ドクン。
学院の地下から、巨大な魔力が噴き上がった。
「なっ……!」
床が揺れる。
生徒たちが悲鳴を上げる。
「何だ!?」
「地震!?」
俺は床に手を当てた。
そして感じ取る。
地下深く。
そこには――。
五つの封印とは別の何かが存在している。
「……封印?」
違う。
これは封印じゃない。
まるで――。
何かを閉じ込めている檻。
アクアが突然震え始めた。
「レオン……」
「どうした?」
「……怖い」
アクアが初めて怯えている。
そして――。
学院地下から、声が響いた。
『――器を見つけた』
俺は立ち上がる。
その声は。
千年前から知っているような――。
懐かしくて。
憎くて。
恐ろしい声だった。
少女がこちらを振り返る。
赤い瞳。
そして、彼女は微笑んだ。
「レオン・アークライト」
「あなたが――」
「千年前に私を殺した人」
――その瞬間。
学院全体に、黒い魔法陣が浮かび上がった。
俺は神剣アストラ・ゼロに手を伸ばす。
「……お前は、誰だ?」
少女は答えた。
「私は――」
その瞬間、彼女の背中から黒い翼が広がった。
「あなたの六人目の仲間だった者よ」




