表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/6

第一話「雨宿り宮の客」




雨が降る夜だけ、灯る宮がある。


人はそれを「雨宿り宮」と呼んだ。

叶わぬ恋を抱えた者だけが辿り着くという、噂の小さな宮。

そこに住む代筆師は、誰の素性も問わず、

ただ墨を磨り、想いを文字に変える。


代筆師の名は紗月。

歳の頃は三十も半ばを過ぎ、その美貌は誰の目にも触れぬまま、雨音の中に隠れて生きてきた。


「想いは、紙に乗せてしまえば軽くなる」


それが紗月の口癖だった。

自分自身の想いは、とうの昔に涸れ果てたものとして、墨壺の底に沈めたまま。


その夜も、雨は静かに屋根を叩いていた。

灯心の炎が揺れる中、紗月は文机に向かい、誰かの叶わぬ恋文を清書していた。


「御免」


低い声が、戸口から響いた。


顔を上げた紗月は、息を呑んだ。

立っていたのは、見たこともない上等な甲冑を纏った男だった。肩にかかる赤い房飾り――それは、敵国・燕の将軍位を示す証だった。


なぜ、敵国の将軍がこんな辺境の宮に。


警戒に身を硬くする紗月の前で、

男は静かに膝をつき、頭を垂れた。


「夜分に失礼する。代筆を頼みたい」


「……依頼の内容次第では、お断りすることもございます」


努めて平静を装い、紗月は答えた。

男――蒼玄と名乗ったその将軍は、懐から一通の古びた包みを取り出し、机の上にそっと置いた。


「亡き許嫁へ、最後の手紙を書いてほしい。これが、その遺品だ」


包みを開いた瞬間、紗月の指先が止まった。


紅い組紐。


幼い頃、自分が妹に贈った品だった。

見間違えるはずがない。十数年、片時も忘れたことのない色だった。


「これ……は」


声が震えた。逃げるべきだと、頭の片隅で警鐘が鳴る。けれど、足は動かなかった。


蒼玄が、初めてゆっくりと顔を上げた。

雨の灯りに照らされたその瞳が、紗月をまっすぐに捉える。


「お久しぶりです」


そして、十数年、誰にも呼ばれたことのなかった名を、男は静かに口にした。


「――紗月様」


雨音だけが、宮の中に響いていた。

紗月は、ただ立ち尽くすことしかできなかった。


なぜ、この男が自分の正体を知っている。

なぜ、妹の――死んだはずの妹の遺品を、この男が持っている。


凍りついたように動けぬ紗月の前で、蒼玄はもう一度、深く頭を垂れた。


「どうか、話を聞いていただきたい」


その声には、敵国の将軍という肩書きに似合わぬ、隠しきれない切実さが滲んでいた。


雨は、まだ止みそうになかった。



コマ割り・演出メモ ――――


【扉絵案】

雨の中、闇に浮かぶ小さな宮。灯心の灯りが一つだけ点る。タイトルを雨粒越しに見せる構図。


【コマ案】俯瞰の遠景→宮に寄っていく3コマ展開。雨音の擬音(ザァァ)を大ゴマに。


【見せ場】文机に向かう紗月の横顔。灯りに照らされた睫毛の影、墨の匂いが漂うような静謐な構図。ヒロイン初登場の決め絵。


【見せ場】ヒーロー初登場。扉が開き、雨を背負って立つ蒼玄のシルエット→次のコマで顔のアップ。甲冑の質感、赤い房飾りの色を強調。


【見せ場】組紐のクローズアップ。紗月の指先が止まる描写を大ゴマで。サスペンスのコマ。


【最大の見せ場・第1話ラスト】蒼玄の顔のドアップ、雨粒が頬を伝う演出。紗月の見開いた瞳に蒼玄が映り込む構図。次話への引きとして、ページ全体を使う大ゴマ推奨。


【ラストカット】2人の小さなシルエットを遠景で。雨だけが降り続くコマで暗転、次話へ。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ