擦り切れた依頼
キルトナ冒険者ギルドの朝は早い。
実力のあるパーティーは朝日を浴びながら
掲示板を訪れる。
昼前までは依頼の争奪戦が続き、
単独依頼を好む者や初心者への依頼受領は午後になる。
もちろん、残されて居る依頼もあるが
手に負えなく足下を見られて居るモノがほとんどだ。
ダンは文字の消えかけた依頼票の文字を追った。
掲示板に一つだけ残された紙片は古くなって茶けていた。
「ギルドハウスの修繕……ハウスフェアリーとの相性が合う冒険者求む」
依頼票を読み込むと次のような内容だった。
・100年以上前に建てられた郊外に在る古民家。
・邸宅に棲むハウスフェアリーと共同で修繕の依頼。
・ハウスフェアリーとの相性が良ければ継続した管理を願う。
・上級パーティーの居住を目的に建築したが、利用が限定的で冒険者向けの宿屋に変えられると嬉しい。
要は利用の空白が無いように、宿屋を開く事になるようだ。
邸宅の管理ができるハウスフェアリーと良い間柄を築ける人材を募集、という事だ。
中々依頼票が捌けないのは
ハウスフェアリーが相手を認めないのだろう。
美しい妖精に欲望を抱かない者など居ない。
ダンはダメ元で依頼票を剥がし窓口へ持って行く。
久しぶりの受付なのか用紙を改められる。
申し訳なさそうに受付業務を受けた。
依頼された場所に着いたのは
お茶の時間に差し掛かる。
光るレンガの道が続く乾いた荒野の中に
荒れ果てた3階建の洋館が崩れ落ちそうに立っていた。
まばらな塀と錆びついた門扉は
かつてのお屋敷だった面影を偲ばせる。
ダンは門扉をくぐり、玄関のノッカーをゆっくり叩く。
壊れることは無かったが、乱暴に扱う理由は無かった。
「こんにちは」
ダンは驚いて振り返る。
玄関の車寄せ部分に1人、メイド服の女性が立っていた。
「冒険者ギルドから来ました。ハウスフェアリーの方ですか?」
彼女は目を細めてうなづく。
「依頼を受けてこちらに来ました。僕ではどうですか?」
「私の姿が見えるの?どんな風に見える」
「黒い服と白い前掛け、大人の女性で頭はボサボサ。
頬が紫色に腫れて痛そうです」
「前の面接で断ろうとして冒険者に拳で殴られたのよ。
貴方は私を殴る?」
「出来れば怪我の手当てをしたい、かな……?」
あまりの外見にダンは自信なさげに答える。
詳しい手当ての仕方がわからないからだ。
「合格。殴られた痛みはもう消えているんだけど、
どう対応するか見させてもらったわ。
分からないなりに考えてくれたのね。
どうしたらいいかは一緒に考えて行きましょ」
くるりと回ると腫れは引き、
小柄で可愛らしい雰囲気の若いメイドの姿に変わった。
背丈はダンより小さい。
「ふーん。管理人さんの好みに外見を変えてみたの。
これなら怖くない?」
ダンは驚くが、直ぐに顔を赤らめる。
誰にも話したことのない理想の女性がいたからだ。
心を覗かれてしまったのだろうか。
「こんな感じなら、冒険者やギルドのオネーサマ方は
落ち着かない感じかもね。四つ葉の花を編んだ冠が似合うと思う。
故郷にいたのかしら」
「仕事しやすい姿、と単純に念じれば身体が映し出してくれたの。
心の中は覗いていないわ」
「まずは管理人さんのお部屋を整えて行かなくちゃ。
一緒にやってみましょう?」
そっと手を引かれ屋敷の扉へ誘われる。
どうやら、幸先は良いようだ。
庭先には夕方の空気が吹いている。
たくさんの作品の中から、本作を読んでいただけて嬉しいです。
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