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ダンの日常

ここは剣と魔法が使える街、キルトナ。

気候の寒暖が過ごしやすい南国の大型城塞都市で

東西南北の街道を繋ぎ、西へ外国に開いた交易港をもつ。


広い城塞を出ればレンガの街道が伸びる。

城塞同様にレンガの通りは魔法が施されており、

獣魔を寄せ付けない。

旅程で問題になるのは野盗たちになる。


野盗たちを退ける依頼で用心棒を雇う、というのが

貧富を問わず旅人たちのお約束でもある。


◇


「今日の依頼は……」


粗方実入りの良い依頼は奪い合いになる。

面倒を避けると冒険者ギルドの掲示板依頼は無い。


(昨日はドブさらい、一昨日は遠距離配達、たまには屋台の肉料理食べたい……)


「ダン、今日もご苦労様。お腹空いてないかな?」


微笑みながら声をかけてきたのは

ウェイトレスのリース。

歳上の彼女はギルドが開く昼の酒場で働き、

年若い冒険者たちの様子を見ている。


糊口を満たすための冒険者家業は

地味なことの積み重ねでもある。

望んだ成果が見られず苦労の末に

職を離れる者も少なからずいた。


「ダンは育ち盛りだからね。

お弁当作ってみたんだけど味見してもらえる?


昼の酒場で出すお弁当の見本。

ギルドで仕入れてる獣魔の肉も使ってみたの」



酒場の席へ促され、お弁当の包みを開ける。

お弁当といっても弁当箱は使われておらず、

大きな葉で焼いた肉と葉野菜を細長いパンで包んだものだ。


「獣魔の肉は味や相性もあったりするから調理も難儀ではあるの。

精肉もギルドから卸しててそっちの売り上げも期待してるの。

味見も立派な依頼よ?」


微笑みながら依頼書を渡す。手続き済みで準備が良い。

空腹は最良のスパイスだと言うけれど、

食い扶持の乏しいダンは恐る恐る口にする。

獣魔の肉は出回る事の少ない高級品なのだ。


口の中でパンの香ばしさと肉の旨みが甘く、

葉野菜のシャキシャキした食感は楽しい。

確かに一仕事終えてきた冒険者向きの味だ。


よく噛むほどに腹が満たされる、と説明を受けたので

早食いにならないようにゆっくり味わう。

最後に杯の水を流し込めば、空腹は満たされた。


「ダンジョン攻略で食べ物も楽しめたら良いよね。

始めたばかりで少しずつ販売しようかなって」


満足そうなダンの様子を嬉しそうにリースは言う。

料理と味、相性も良かったので

依頼書にサインしてくれた。


「他の人にも食べてもらって、

食べ合わせでも不具合が無ければいいなぁ」


満腹のダンに依頼書を渡す。依頼完了だ。

今日は図らずもギルド内で仕事ができたので満足だ。

窓辺からの日差しは昼の陽気に差し掛かる。



◇



「依頼完了しました。確認おねがいします」


冒険者ギルドの窓口で依頼書の完了処理を進めた。

広い通路を挟んで窓口の案内人も微笑みながら受け取る。


依頼の様子も見えたのだろうか、ちょっとだけ気まずい。


「美味しいものが食べられる評判は人を集めやすいですからね。

依頼完了ありがとうございます。こちら依頼料です」


「金貨1枚と銀貨2枚。たしかに」


ダンは冒険者の登録証を窓口に差し出すと

金貨は吸い込まれていった。

冒険者ギルドが運営する銀行口座へ入金できたのだ。

残りの銀貨は両替で崩され、小銭は普段使いの財布に収めた。

ちなみに屋台の串焼き代は一本半銀貨で安い買物ではない。


魔法みたい、魔法が在る世界だからね。

本人以外には引き出せない仕組みで、

旅先で強盗や窃盗に遭っても資産は傷つかない安心設計だ。

再発行は高くつくので気をつけて。


窓口を離れた彼は、早い帰路へ着くのだろうか。

出入り口ドアから足取り軽く出て行った。

たくさんの作品の中から、本作を読んでいただけて嬉しいです。

ありがとうございます。

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