第五章 仮面の家族と、最後の闇
「次に俺が引き取られたのは、近所でも『評判の良い、理想的な家族』の家だった」
父親とは離婚していたけれど、人当たりの良い優しい母親と、友達が多くて学校でも人気者の次男。その家には、大学生の引きこもりの長男もいた。
初めてその家に向かう道中、次男は俺の肩を叩いて『家に着いたら、俺の部屋で一緒にゲームをしようぜ!』って、眩しいくらいの笑顔で話しかけてくれた。俺は、今度こそ本物の温かい家族に出会えたんだって、涙が出るほど救われた気持ちだった。
だけど、楽しそうに笑いながら、その家の玄関を一歩またいだ瞬間、すべての空気が凍りついた。
さっきまで仏様みたいに優しく笑っていた母親が、俺が家に入ってドアが閉まった途端、ゴミを見るような冷酷な目で俺を睨みつけて言ったんだ。
『本当に、厄介なものを預かってしまったわ』って。
次男も、さっきまでの笑顔を完全に消して、俺の存在なんて最初からなかったかのように、何も言わずに自分の部屋へと戻っていった。
「そこからの生活も、言葉にできないものだった。俺の食事は、家の裏にある光の当たらない庭の倉庫で、犬用の皿に入れられた残飯だった。毎日、冷え切った米を犬みたいに頭を下げて食べた」
母親からは、俺の身体にある刀傷やタバコの痕を見るたびに『気持ち悪い、不吉だ、我が家の汚点だ』って日常的に殴られた。
学校でも家でも、俺は次男のパシリにされた。学校に行けば、その次男が主導して、俺をクラス中でいじめるターゲットにしたんだ。誰も俺を庇わなかった。家に帰っても、学校に行っても、俺の居場所なんて、世界中のどこにも用意されていなかった。
「だけど……その地獄のような家で、唯一、俺に優しくしてくれる人がいた。引きこもりだった、大学生の長男だ」
長男は、母親が自分のために作った豪華な料理を、母親の目を盗んでこっそり倉庫の俺のところに持ってきて、食べさせてくれた。俺の狭い部屋に来て、一緒にゲームをしてくれた。
男たちにパシられ、母親に殴られて毎日ボロボロだった俺にとって、その長男の手の温もりだけが、唯一の生きる希望だった。俺は、長男のことが本当の兄のように、心から好きになったんだ。
「でも、ある日から、長男のスキンシップがだんだんおかしくなり始めた。部屋で二人きりの時、身体を執拗に触られるようになって……ある夜、長男の部屋に呼び出された」
恐怖を感じて拒絶しようとする俺の髪を掴んで、長男は信じられないくらい冷たい、歪んだ目で言ったんだ。
『俺は今まで、お前に優しくしてやったろ? ご飯も食べさせてあげたじゃん。誰も味方がいないお前の、唯一の味方になってあげただろ? だったら……いいだろ?』って。
「それからは、毎日、夜になると長男の部屋で、抵抗も許されずに犯され続けた」
もしここで大声を上げて拒絶すれば、この唯一の救い(だと思っていたもの)すら失って、またあの冷たい倉庫で、犬の皿の残飯を食べるだけの生活に戻る。それが怖くて、居場所を失うのが恐ろしくて、俺はただ首を絞められた人形のように、毎晩身体を差し出し続けた。
学校で、お尻を痛そうにしながら、まともに椅子に座ることすらできなくなっていた俺の異変に気づいてくれたのは、学校のカウンセラーの先生だった。その先生が俺の身体の傷と、家庭内で起きていることをすべて見抜いて、警察を動かして、ようやく俺をその家から永久に救い出してくれたんだ




