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私だけ…。  作者: あきら


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第二章 青い陽だまりの二人

第二章 青い陽だまりの二人

それから数週間が経過し、季節は梅雨のじめじめとした湿気を脱ぎ捨て、容赦のない夏の日差しへと移り変わろうとしていた。

カンカンと照りつける太陽は学校の校庭やアスファルトを白く焼き、校舎全体を逃げ場のない熱気で包み込んでいる。今日の体育の授業は、待ちに待ったプールだった。クラスの連中は歓声を上げながら水着に着替え、きらきらと光る水面に飛び込んでは、水しぶきを上げて夏を謳歌している。

だが、その弾けるような青い空間から最も遠いプールサイドの片隅、古い日陰のベンチに、俺たちは二人きりで座っていた。

周囲の生徒たちが全員、涼しげな水着姿で笑い合っているというのに、俺とさやかさんだけは、頑なに長袖の制服を着込んだままでいた。じっとりと嫌な汗が肌ににじむような狂った暑さの中でも、上着のボタンを一番上までしっかりと留め、肌という肌を一切露出させようとはしない。

クラスの連中からは「こんな暑い日に見学なんて、あいつら頭おかしいんじゃないの」と奇異の目で見られ、遠くからヒソヒソと噂されていたが、俺たちにとっては、この制服を脱ぐことの方がよっぽど恐ろしいことだった。服を脱いでしまえば、社会から、そして周囲から隠し通さなければならない「地獄の痕跡」が、残酷な太陽の下に晒されてしまうからだ。

さやかさんはいつものように膝を抱え、痛々しい鼻のギプスを隠すように少しうつむいていた。

彼女の指先は、制服のポケットの中で、何かをきつく握りしめている。それが、かつて事故で亡くなったという彼女の弟の写真であることを、俺は知っていた。父親が別の女を作って家を出ていき、弟が死んでから、彼女の母親の虐待は狂ったようにエスカレートした。彼女にとってその写真は、自分がかつて誰かに愛されていたという記憶を繋ぎ止めるための、最後の命綱なのだ。

「……あきらくん、なんでいつも見学なの?」

長い静寂を破ったのは、さやかさんの小さな呟きだった。水面を反射する光を眺める、どこか遠い声。

「いつも長袖を着て、暑くないの? 変だよ、私達」

「暑いよ。でも、脱げないんだ」

俺は自分の制服の袖をそっと握りしめ、前を見つめたまま答えた。

さやかさんは自嘲気味にふっと鼻で笑う。

「ふーん。私はね、脱げないの。お母さんにやられた傷が、いっぱいあるから。見られたら、みんなに気味悪がられるし、お母さんが怒るから。……あきらくんには、関係ないことだけど」

突き放すような、冷たい言葉。だけど、その声はかすかに震えていた。彼女は今この瞬間も、あの家で毎日のように母親に怯え、壊されかけている。

俺は深く息を吸い込んだ。

今日、ここですべてを話そうと決めていた。彼女を囲むその見えない壁を、俺のすべてを剥ぎ取ってでも壊さなければ、彼女は遠くない未来に、本当に心も身体も死んでしまう。

「関係、あるよ。さやかさん」

俺の声のトーンが変わったことに気づいたのか、彼女が驚いたようにこちらを見た。

俺は視線を正面に向けたまま、制服のシャツのボタンを、上から一つずつ、静かに外していった。

「な、何してるの……?」

困惑し、警戒するさやかさんの目の前で、俺は制服を肌から引き剥がすように脱ぎ、彼女に背中を向けた。

「これを見てほしい」

さやかさんが息を呑み、言葉を失う音がはっきりと聞こえた。

俺の背中には、首の付け根から腰のあたりまで、斜めに大きく引き裂かれたような醜く凄惨な一本の刀傷――袈裟斬りの痕が、赤黒いケロイドとなって盛り上がっていた。それだけではない。その周囲の皮膚には、無数の丸い火傷の痕と、何かに激しく殴られたような歪な打撲の痕跡が、背中全体を覆い尽くすように広がっていた。

「綺麗で優しい家族なんて、俺にはいなかったんだ。……聞いてくれるか。俺が、どうしてこんな身体になったのかを」

俺は静かに服を羽織り直し、正面を向いて、自分の過去をぽつりぽつりと話し始めた。

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