第一章 空白の隣席
教室はまだ、朝特有の落ち着かない喧騒に満ちていた。新しい学期。あちこちから机を急いで引きずる無機質な金属音が響き、不満を漏らす者や、目当ての相手と隣になれたことに声を弾ませて笑い合う者の声が入り乱れて、空気の中に溶けていく。誰もが自分の新しい「居場所」を確かめるように、せわしなく動き回っていた。
そんな陽気な熱気の中で、ただ一箇所だけ、まるで世界から切り離されたように静まり返っている席があった。そこには、見えない壁が一枚、冷徹にそびえ立っているかのような錯覚さえ覚えるほどの、圧倒的な孤立が存在していた。「よろしく……」
あきらは、その空白に自ら一歩を踏み出し、彼女の隣の席にカバンを置いて、静かに椅子を引いた。声をかけたが、返ってくる気配はない。
さやかは、虚ろな目をして、ただ自分の席に人形のように座っていた。俺の声に対して、彼女が視線を上げるまでに、明確な一瞬の間があった。その細い鼻筋に貼られた、不自然に真っ白なギプス。それが、天井で無機質に明滅する蛍光灯の光を鈍く反射して、痛々しく浮き立っている。隣に新しい人間が座ったという、ごく当たり前の気配を認識するまでに、彼女の脳はもう数秒の時間を必要としているようだった。「……ん」それだけを、地を這うような低い声で返し、さやかはすぐに視線を窓の外へと戻してしまった。
そたれは、俺という人間に興味がないというよりは、人とどうやって言葉を交わしていたのか、その方法を完全に忘れてしまったかのような、ぎこちなく重苦しい沈黙だった。彼女の机の上には、次の授業が始まるというのに教科書すら出されていない。ただ、いつのものかも分からないノートの端が、くしゃくしゃに丸められたまま、机の隅で寂しげに転がっているだけだった。(なんで私だけ。なんで、私だけがこんな目に)彼女の細い背中が、そう強く拒絶し、泣き叫んでいるように見えた。クラスの誰もが、その異様な雰囲気に気づきながらも、関わり合いになるのを恐れて遠巻きに見ている。だが、俺はその頑なな横顔から、どうしても目を離すことができなかった。なぜなら、その絶望に濁り、すべてを諦めきった虚ろな瞳の奥に張り付いている光――それは、かつて俺が毎日鏡の中で、憎しみを込めて見つめ続けていた、自分自身の目そのものだったからだ。




