~名前のない鏡の中の少女~
初めての魔法を目にした主人公。
そして鏡の中には、見知らぬ少女がいました。
小さな光は淡い色のワンピースに変わった。
裾をつかみ目をぱちくりさせていると、
女性は部屋の隅に置いてある鏡を指さし
「見てきたら?」
そう言うと、再びソファへと寝転んだ。
私はゆっくりと鏡の方へ近づき、
恐る恐る鏡の前に立った。
自分の姿を見るのは、これで二度目だった。
一度目は、
この世界に来てすぐ。
湖の水面に映った白猫。
けれど、あの時は驚きでそれどころではなかった。
水面も風で揺れていて、
ちゃんと見えていたわけじゃない。
こうして自分をちゃんと見るのは
きっと、これが初めてだ。
鏡の中には、小柄な見知らぬ少女がいた……
白猫の毛並みを思わせる白い髪。
そして目の色が左右違う。
左目は琥珀色。
もう片方は澄んだ青色だった。
あどけなさを感じる顔立ちなのに
不思議と目を引く儚さと綺麗さがある。
「これ、わたし……?」
髪や頬を触ってみるが現実味がない。
だが鏡の中の少女は同じ動きをしている。
ソファで寝転んだままの女性は
「そんなにうれしいのかしら」
そう言いながら、気の抜けた様子で見ている。
鏡に夢中な私に、女性がふと声をかける。
「あなた、名前ある?」
この世界に来る前の名前なら、
ある。
けれど、
“今ここにいる私”
には名前はない。
少し考えたあと、小さく首を振った。
「そう」
女性は少し考えるように目を伏せたあと、
「いつかできるといいわね」
そう言って柔らかく笑い、欠伸をひとつした。
「今日はなにもしなくていいわ」
「寝るなら好きなところで寝なさい」
また眠るみたいだ。
きっと、この人は寝ることが好きなんだろうな。
私はずっと静かに見守ってくれていた黒猫の方へ近づく。
「ありがとう。」
そう感謝を告げると
───なんて事ないよ
黒猫はそう言いながら首を振っている。
───ただ、彼女と同じ感じがしたから連れてきた。
「でも、見守ってくれてたでしょ」
少し気まずそうに目を逸らし
───彼女は変人だからね
───少し、心配だっただけさ。
そんな黒猫の優しさが嬉しかった。
この世界にとって“名前がないこと”
それは、どんな意味を持つのでしょうか。
いつかわかる日が来るといいですね。
次回は女性、動物達との暮らしが始まっていきます。




