第3話 「買い物に行くわよ!」
ネークの大好物が判明してから、数日。
今日も蛇丸たち三人は、いつものように店で日常を過ごしていた。
「あれ? 今日使う分のお肉がないわ……」
店の冷蔵庫を覗き込みながら、和春が困ったように呟く。
「どうしたんですか?」
蛇丸が近づきながら尋ねた。
「今日使う分の豚肉、切らしちゃってたのよ」
「あー……じゃあ俺、買い出し行ってきます」
「あら、助かるわ! じゃあお願いね」
すると、店の端で別の作業をしていたネークが、ぴくりと反応した。
「その“買い出し”……私も行ってあげるわよ!」
ネークは腰に手を当て、自慢げに胸を張る。
「お前は留守番してろ。なにしでかすか分からん」
蛇丸は即答した。
「なによ、失礼ね!」
「今までの行動振り返ってから言え」
ネークの脳裏に、
皿を割ったこと。
壁を壊したこと。
勝手に料理を食べたこと。
数々の失敗が蘇る。
「……か、過去の話よ」
「全部最近なんだよなぁ」
和春がくすりと笑った。
「まぁいいじゃない。折角の機会なんだし、一緒に行ってあげて」
「えぇ……」
蛇丸は露骨に嫌そうな顔をする。
「なによその顔」
「人に迷惑かけるのだけはやめろよ?」
ネークはふんっと鼻を鳴らした。
「安心しなさい。今日はちゃんと“大人しく”してあげるわ」
「今日だけじゃなくて毎日そうしてくれ……」
――数十分後。
蛇丸とネークは、近所のスーパー“ライヨー”へ来ていた。
蛇丸が入口へ近づく。
すると、自動ドアが静かに開いた。
「ほーう……人間共は、こんな門まで作ってるのね」
ネークは感心したように、自動ドアを見上げる。
そして次の瞬間――
ドンッ!!
「痛っ!?」
思いっきり自動ドアに激突した。
「な、なによこの門……!」
額を押さえながら、ネークが叫ぶ。
「おいおい……何やってんだよ」
蛇丸は呆れたようにため息をついた。
ネークはビシッと自動ドアを指差す。
「この門が私に攻撃してきたのよ!」
蛇丸は笑いを堪えながら
「ふっ……お前、“存在認識”されてなかったんじゃないか?...ふふふ」
「バカにするなー!!」
ネークは何度も前後しながら、自動ドアを慎重に突破した。
「はぁ……はぁ……なんとか通れたわ……」
「自動ドアに苦戦するやつなんて初めて見たぞ……」
店内へ入ったネークは、きょろきょろと辺りを見回す。
野菜コーナー。
鮮魚コーナー。
惣菜コーナー。
見るもの全てが珍しいのか、まるで落ち着きがない。
「おぉ……食べ物がこんなに……」
「スーパーだからな」
「人間は毎日こんな場所を利用しているの?」
「まぁ普通はな」
ネークは真剣な顔になる。
「私の世界には、こんな巨大な食料庫なかったもの」
(一体、どんな世界なんだ...)
ネークはふらふらと歩き始める。
すると突然、ぴたりと足を止めた。
「蛇丸」
「なんだ?」
「あれは?」
ネークが指差した先には、アイス売り場。
「ん?アイスか」
「冷たいの?」
「冷たい」
「美味しい?」
「美味い」
ネークの目が輝いた。
「買うわよ!」
「いや今日は肉を――」
「当然、買うわよね?」
「圧が強い」
結局、アイスを一つだけ買うことになった。
ネークは満足そうに、“バリバリ棒カエル味”を抱えている。
「アイスで喜ぶ支配者ってどうなんだ……」
「蛇それぞれよ」
その時だった。
「……ん?」
ネークの視線が、肉コーナーで止まる。
「蛇丸……」
「なんだ?」
「あー! この肉、カエル肉じゃない……!」
「今日買うのは豚肉だからな」
「全部取っていいの?」
「ダメに決まってんだろ」
「なんでよ?」
「お金払うからだよ」
「お金?」
ネークが首を傾げる。
蛇丸は財布から千円札を取り出した。
「これで買うんだ」
ネークは、じっと紙を見つめる。
「……ただの紙切れじゃない」
「ただの紙切れじゃないぞ」
「これに支配力が?」
「まぁ、ある意味ではあるな……」
「でもこれで物が手に入るのよね?」
「そうだな」
ネークは真剣な表情になる。
「なるほど……この紙を集めれば、人間共を支配できるのね」
「そんな簡単な世界じゃないぞ」
数分後。
蛇丸が肉を選んでいる間に、ネークの姿が消えていた。
「……あいつ絶対なんかやってんな」
嫌な予感しかしない。
蛇丸が慌てて探し回ると――
「ふふふ……」
いた。
お菓子売り場である。
しかも。
「おい」
ネークのカゴには、大量のお菓子が詰め込まれていた。
ポテチ。
チョコ。
ガム。
クッキー。
明らかに買いすぎである。
「なにしてんだお前」
「見れば分かるでしょう。買い物よ」
「誰の金で?」
「蛇丸の」
「勝手に決めんな」
ネークは当然のように言った。
「支配者に貢ぐのは当然でしょう?」
「その理論やめろ」
――そして、レジ。
「合計、4860円です」
「は?」
蛇丸が固まる。
「お前どんだけ入れたんだよ!?」
「これでも厳選したわ」
「厳選で済む量じゃねえよ!!」
スーパーを出る頃には、すっかり夕方になっていた。
「お前のせいで大赤字だよ……」
蛇丸が疲れ切った顔で呟く。
「私に貢げたこと、感謝しなさい」
ネークはアイスを食べながら、満足そうに歩いている。
「……うーん、美味しいわね」
「そんなに美味いのか? カエル味」
ネークは少しだけ笑った。
「また来たいわ」
「完全にハマってるな」
「違うわ。これは侵略のための調査よ」
「はいはい」
夕暮れの商店街を歩きながら、ネークは空を見上げる。
「……ここも、案外いいわね。」
その声は、どこか楽しそうだった。
――こうして、最強の蛇による地球侵略は、
今日も少しずつ、普通の日常に染まっていくのだった。
第3話読んでいただきありがとうございます
ネークが買い物に!?一体どうなってしまうのか...
次回ついにネークが支配開始!?
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