表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
79/89

78話 『神のみぞ知る黙示録』

「……ぅお、マジ、かよ」


 他の蔵書と違わない様子で落ちていた一つの本にトウマは目を奪われた。

 存在しないはずの文字がそこにあったからだ。

 

 歪むような聞き慣れた石の音が耳に入って来る。後ろを見ればグリフォン像が近づいている。その速さは初回とは見違えるほど。

 

 すぐさま『二柱の黙示録』とタイトル付けられた分厚い書籍を拾い、部屋を抜け出す。後は適当に道なりに沿って走るだけだ。

 無論振り切れるとは思っていない、しかし少しの間の目くらましなら出来る。


「おぉ? 何だここ……」


 部屋を出て真っ直ぐ行った先の突き当たり。左に曲る。

 円形に大きく広がる庭園のような跡地。陽光が煌めき、青々とした草が生い茂っている。

 花こそ一輪も芽生えていないものの、枯れた噴水やアーチ跡が残っていた。


 ――ひとつのアイデアが、舞い降りる。


「ものは試しだ。さっきも成功したからなぁ!」


 執拗に追いかけ回すグリフォン像にも辟易としたところにまたしても、子供心が湧き上がった。手に入れた分厚い本を服の内側にしまい、壁と距離を取る。

 トウマは近くにあった壁を選り抜き、助走を得る。そのまま隣のアーチ跡へとよじ登る。


 何度か落ちそうになったものの、踏ん張りを利かせ登ってやった。

 直後、グリフォン像が追いつく。「こっちに来たよな?」という声が聞こえてきそうな程に周囲を見渡す。

 気配を消し、トウマは立ち去るのを待つ。やがて、諦めたのかグリフォン像は寂しそうな背中を見せながら遺跡内に消えて行った。


「ほっ……とりあえずは巻けた。あいつ、翼は生えてんのに空は飛べないんだな」


 騎士像は石ながらもしなやかな挙動をみせた。しかし、どういうわけかグリフォン像が携えている翼は一向に動く気配が無かった。


 事情があるのか、なんて事はどうだって良い。


「っしょと、でこれはなんだよ」


 服の内側に隠していた件の本を取り出す。

 茶褐色の表紙に、金色で施されたタイトル。どこを見ても埃は無いし、欠けた部分もない。真新しい装丁がなされている。


「で、極めつけは漢字ね……これもまた、異世界人が持ち込んだものか……」


 そんなことを呟きつつ、トウマは本を膝に置き重厚感溢れる中を開いた。

 タイトル『二柱の黙示録』。ページに黄ばみ無し。

 そのページを開くと、物語が綴られていた――



           ※※※


 我が名はビヤンド! 世界を股に掛ける人族最高の大冒険家である! 

 現在齢七十八にして、人生最後の大仕事を終えた。この著作『二柱の黙示録』は古来より伝えられてきた二柱の神との間に起きた出来事を記している。


 すでに参考にした文献は全て焼いた。案ずるな、我が書籍を拝めば万人誰しもその失われた文献が無くとも平気である。


 然らば刮目せよ。未来人どもよ、これをしかと目に焼き付け後世に伝えるが良い。

 多分だが、およそ千年後に一人の異世界人によって開かれるだろう。


 

           ※※※


 はるか昔、人という生物の総数が万を超えた頃、世界は二つになっていた。

 上界を天界と呼び、神々が住まう神聖にして不可侵の世界。万物流転。死してもなお、再び神として生を受ける。


 下界を生物界、または牢獄と呼ぶ。

 神々が生み出しし生物はここへと送り込まれ、流転する。

 牢獄と呼ばれる所以として、罪を犯した神を堕とし、その送り先として受け止める役割があるからだ。墜落した神は叡智の力を失い、人として流転する。

 

 上界を治めし二柱は皆の憧れで、誉れ多き神。

 長く、くびれた腰まで伸ばした金髪の一本一本には光が宿り、虹色の瞳には至高の知恵が宿る。彼女の言葉には音楽を奏でるような華やかさがある。

 その名をフレッグ・フローレンス。女神の最高神である。


 雄々しき男神を治めるのは魂を宿すほど美しい碧色の髪と、唯一彼しか持たぬ茶色の瞳。彼が発する言葉には念が乗り、逞しさが飛び交う。

 その名をフレオ・ファンダル・アーサー。男神の最高神である。


 天界を治めせし二柱の関係は固く、強い絆以上のもので繋がっていた。

 やがて、男子が産まれた。名はまだ無い。思えば、この男児こそが天界の命運を分けた子やもしれぬ。


 夜な夜な、女神であるフローレンスはとある男神の家宅へと出入りしていると噂が広まった。

 アーサーはそれを聞き及び、フローレンスに訊ねる。


「君は他の男神と床を共にしているのか」


「断じてそのようなことはありません。誤解であります」


 噂は尾びれをつけて天界中に広まった。そして、当然のようにこの噂が立つのだ。

 誕生した男子は別の男神とのまぐわり、出来たのではないか、と。


 その事実を裏付けるかのように、女神フローレンスは別の男神の家へ度々出入りし、やがて一晩帰って来なかった。


 二柱が暮らす宮殿にて、父であるアーサーは産まれた男子に憎々しい眼差しを向ける。自らの血肉を分けたと思った男児、それがまさか別の男の血が混じった不純な赤子。


 昨日までの愛は消え去り、煮え滾る怒りがアーサーを蝕んだ。

 翌日、今日も今日とてフローレンスは帰って来ぬ。ここ数日はそれが当たり前になりつつある。親の片割れが居ぬ間が好機とみたアーサーは行動する。


 生後間もない赤子がいる部屋へ押し入り、世話をする乳母達を全て殴殺。血濡れた部屋で一人となった赤子を抱き上げると、風呂敷に包む。

 コレを上界と下界を繋げる、アルガの滝へと投げ落とす。


 哀れなことだ。成人した神でさえ下界で生き抜くのは困難を極める。赤子など、到底耐えられるはずもない。

 しかし、古文書の中にはここに一文を付け加えているものもある。

 どうやら、男神フレオ・ファンダル・アーサーはアルガの滝に赤子を落とす際、奇妙な術を行使したと、記録が残っている。


 その術をかけられた赤子は上界と下界、どちらでもない世界に堕ちた、などと言われているが真相は闇の中。


 さて、赤子を滝へと落としたアーサーは何食わぬ顔で宮殿へと帰還――することはなく、突如として自らを嬲り始めた。

 上は頭、下は足の末端に至るまで満遍なく自身の二つ名『■■■■』を体現するように痛めつけた。血を少しでも啜った滝は瞬時に血液を垂らす滝へと早変わりし、高台の石は紅色に染まった。


 他人との間に出来た子とはいえ、流石に罪を感じたか。はたまた、残る怒りを自らに当てたのか。真偽は分からぬ。

 宮殿へと戻ったアーサー。彼が歩いた道を示すように血は尾を引き、白の石を真っ赤に変えていた。

 

「アーサー!?」


「グフッ……はぁ……あいつ、だ、あいつら、が……邪神が……」


 過呼吸となったアーサーは必死に、グッと拳を握って女神フローレンスへと告げた。

 上界の端、そこには魔が戸愚呂を巻いた状態で邪神と呼ばれる怪物が住み着いている。最高神二柱の実力を持ってしても封印が限界。復活されれば、天界は滅ぼされかねない。


 アーサーを安置室へと送り、治療を行った。


 女神フローレンスは末端の神々に至るまで収集をかけ、邪神をいよいよ滅することを決議した。

 戦いは熾烈を極めた。幸いなことに、邪神は復活しておらず微弱な力のままだった故、追い込むことができた。


 なれど、犠牲は大きい。天界の殆どの神は死滅し、純白の光を放ちながら粒子となって散った。

 長きに渡る因縁に決着が――そう思ったところで、床に伏していたアーサーが起き上がった。完治していないところを自らで治癒させ、天界の端、邪神が封じられている地まで飛んできた。


 男神アーサーは女神フローレンスが、邪神を滅する直前、本当に直前に『■■■■』としての能力を発動。


「なに、をしてるの……?」


 男神アーサーは、天界最高神の皮を被った怪物だったのだ。

 その正体は邪神に仕える忠実な下僕。神として潜伏し、フローレンスを天界より堕とすことであった。

 

 アーサーは初めからこの機会を伺っていたのだ。

 彼は元より、フローレンスが他の男と寝ていないことを知っていた。産まれた男児は間違いなく己が子である。しかし、知りたかったのだ。


 もし、相対している敵との子を作った最高神がどのような顔をするか。

 堕とす直前、化け物を見つめるようにフローレンスは虹の瞳に真っ黒な、どす黒いものを浮かべていた。


 邪神を倒すことで抗力を失っていたフローレンスはアーサーに敗北し、天界より堕とされた。ここで、女神フローレンスは天界に二度と立ち入ることが禁じられ、犯罪神としての烙印を押された。

 加えて、邪神の一味との間に子を作った救いようのない神なのだと。


「邪神様、予定が早まったことをお許しください」


 邪神。その姿は見えず、常にモヤがかかっていると。

 霧のように掴めず、闇よりも暗く捉えられず、心のように不安定で、触れるだけで傷つけられそうな。


 いわば、実体を持ち合わせていない。故に、後世で描かれている邪神は全て想像でしかない。また実体の無い故に、邪神は負の感情ではないかと言われている。


 人のどんなところよりも暗く、掴めない。加えて、すぐに心変わりし、時には人を傷つける。

 故に、我々は心のどこかで邪神という化け物を飼っている。

 それが、『裏切り』はどの罪よりも重く『大罪』に分類される。原初をたどり着くと、必ずこの二柱にたどり着く。

 決して、『忘姫』ではないことを承知しておくこと――。


 またアーサーは後に――、

 

           ※※※


「ん……?」


 ページを捲る手が止まる。ここまで、重要な箇所だけを拾い頭に詰めていたトウマだが、とあるページの最後の行で止まる。


 この作品はビヤンドという老人がまとめた書籍だ。本が出版された千年前。『忘姫』の出来事は二百年前、辻褄が合わない。

 どうにもこうにも矛盾しているのだが……ビヤンドという老人には先見の明があったのか?


「で、そのアーサーとやらは……」


 ヘルメス・アーサー。

 紛れもなく同じだ。神の子孫が彼なのか、はたまた称号か諡のようなものを永遠と名乗っているのか――そんなものを家名にして不名誉ではないのかとトウマは首を傾げる。


 最後、アーサーについてのことについて書かれた箇所がページの端で終わっている。

 次ページを捲り、読み終えたら再び活動しよう、とトウマは決めて指を動かす。


『またアーサーは後に人の生死を動かすことで、因果律を狂わせ発生するエネルギーを溜め込む手帳を造ったとされる

 名をFFの手帳。女神フレッグ・フローレンをとったのでは無いかと、ワシは考えている。それがあるか分からないが、もし手に持っているとしたら――貴様は世界滅亡に与する輩ということじゃ』



 

 



 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ