79話 『重なる出来事』
『もし手に持っているとしたら――貴様は世界滅亡に与する輩ということじゃ』
未来を暗示しているかのようなビヤンドの言葉にトウマは心臓が口から出たかと思うほど核を突かれた。
アーサーが造りだしたとされる『手帳』はトウマの手にある。
つまり、トウマはこの世界を破滅させる事象に肩入れしている……ということだ。
実物を取り出し、本の内容と照らし合わせる。
因果律を狂わせエネルギーを溜め込む『手帳』。
そしてタイトル『FF』、フレッグ・フローレンスの名をとったとされる。
以前より蔑んだ眼差しを向けていたが、ここまで愚物であるとはトウマも思っていなかった。
しかし、この愚物は捨てようとも後をつけて来る。追いつくまで永遠に、自我を持っていることは間違いないだろう。
故に、捨てられない。人に話そうにも、中を目視されたら死ぬ。
一人で抱えていかねばならない物なのだ。
「……ッ!」
その時、『手帳』が浮遊し真っ白な閃光を放った。光は周囲を包み込み、神聖さを乗せて強く迸った。
ギュッと目を閉じてしばらく待つと、先程より落ち着いた『手帳』がいた。
それは、誰の手も借りることなくひとりで浮遊し続けている。
「おい! どこ行くんだよ!」
トウマの手のひらに戻るかと思われた『手帳』はアーチ跡をフワリと下りると、どこかに向かって進んだ。
どこかに導こうとしているそれに、トウマは眉を顰めながら後を追って行く。
庭園のアーチから降りることで、石像と再び鬼ごっこをすると思うと胃が重くなる。が、何かしらの真実にたどり着こうとしているならば近づく手はない。
もしかしたら、仲間と合流出来るかもしれない。なんてことを思いつつトウマは幾つもの石碑が地面に突き刺さる場所へと辿り着いた。
彫刻された石の根元には土が盛り上がっていたり、加工された石で、何かを閉じてるようなものがあった。
それが永遠と続き、寂寥感が心の奥底から込み上げてくるのを感じた。
「……ッ!」
入口の両脇には、狛犬のように直立する二体のグリフォン像があった。
左手にあるグリフォン像。何となくだが、先程まで自身を追いかけていたモノだとトウマは感じた。
疑問に思う時間もないまま、『手帳』は凛と閑静さを放つ地へと進み、トウマも石畳を踏んだ。
※※※
遠くながら奥に二体の石像が見える。顔や容姿こそ分からないが、人であることは間違いない。
どこかしこも石碑だらけで、飽きてきたところでジッと一つの石碑を眺めてみた。
数字と思しきものが両側にあり、間に「―」が入っている。
それは、墓石に刻まれる特徴。
その他にも同じように生きた年代が刻まれている。ようやくどんな場所か見当がついた。ここは、霊園だ。
「だが、どれもこれも真新しいな……神がいた時代からあるんじゃないのか?」
角が欠けているわけでもないし、傷なんて一つもない。手入れが良く行き届いてるのだろうか。
遺跡と名乗っている割には随分と的はずれな場所なのだが、新しく増設されたのだろうか。だとしたら、このように綺麗なのも頷ける。
「つか、あんた喋らないのか」
自我を持って動いている割には後ろを振り向くことのない『手帳』にトウマは問いを投げる。
返答はない。本が喋れるはずがないのだが、これは違うだろう。
「神話時代からあるんだろ? なら、言葉ぐらい話せるはずだ」
時折、『手帳』から中性的なトーンが聞こえてくることをトウマは知っている。というより体験しているのだ。
今更何を隠しているのかさっぱり見当もつかないトウマは自然と睨むような視線になっていた。
「ここの霊園は、二柱の間に起きた戦争で死した神々の御霊を慰める場所です」
「……! 喋るじゃんか!」
以前と同じように中性的な声音が耳に入ってきた。今の今まで何故黙っていたのか聞こうとしたが、『手帳』は――、
「ですが霊園が出来たのは二百年前のこと。まだ目新しい場所です」
「やっぱりか。で、お前は俺を――」
「しかし、中には二百年前以上前から存在しているお墓もあります。それこそ、神話の時からあるお墓など」
「なるほどな。でおま――」
「あの二つの石像の元へと行きましょう」
こちらからの質問には答えるつもりは無いのか、途中で遮られることに若干の苛立ちを覚えながらもトウマは背中を追った。
連れて行きたいのは墓、もしくはどこかの隠し通路とも思ったがやつは石像と言った。
余程にあの石像に秘密があるらしい。機械のように決められたことしか話さない。
(『手帳』は囮で、誰かいる……?)
横目に確認するが隠れられそうな場所すら無い。庭園のアーチのような高所も無いし、穴も無い。
ともなれば、視野に入ることができないほどの離地からトウマを見ている……?
そんなことを思いつつもトウマは『手帳』に続いた。
やがて、石像が視界の中心を捉えたのを機に正面に集中することにした。
そびえ立つのは男女、一組の石像。
女と思しき像は幼さを感じる少女のようで、男と思しき像は凛々しく丈の長い衣を着ている。
色の特定が出来なかったが、顔の掘られ方や姿形で特定は出来そうだ。
しかし――、
「うそ、だろ……」
あまりにも憶えのありすぎる石像たちだ。
女の方は自身の体内に少し前まで宿っていた神。
男の方はヘルメスに酷似している。鉄扇を持っているところまでそっくりだ。
「女神をフレッグ・フローレンス。男神の方をフレオ・ファンダル・アーサーと良います。どちらも、貴方が持つ物語の主役です」
「――ッ!」
黙示録の中に記載があった特徴を当てはめれば、あの二人に合致する……。
物語が本当でビヤンドが本当のことを言っている場合……二人は夫婦ということになる。
そして、ヘルメスは――、
「邪神の手先……!」
あの爽やかな笑顔の裏には、どす黒く濁った仮面があったのだ。
信じられない。とても、そんな訳がない。
過去の記憶と照らし合わせようにも不可能。彼からは一切、悪の匂いなんてしなかった。
込み上げる焦燥感に息を荒くし始め、脳がパニックを起こそうとした時――、
「やぁトウマ。昨晩以来だね」
清涼で澄み渡った声が背中から聞こえた。




