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70話 『月夜の下で』

「全く、兄やん何考えとん」


「……すまん」


 ラーヴェルに掴まれたままトウマはついに門を出た。現在は近くの野営地にて腰を下ろしている。念願の外だ。しかし、ここに来るまであまりに多くのものを失いすぎた。


「そういえばヒヨリとリューシュはどうしたんだ?」


「ちびっ子ずならまだ街や。なんでも、アモデウス家の結末を見届けたい、らしいでぇ」


「おいそれ、大丈夫なのかよ」


『浮遊城』の落下。そして、二人は追われる身にある。敵の本拠地に飛び込む、それも女子二人で。心配するトウマとは反対に彼はいつも通りの顔をしている。


「俺も一緒に行ったし大丈夫やろ。多分あの緑ちびっ子が中々吹っ切れてないんやと思う」


 リューシュはアモデウス家の奴隷みたいなものだった。それでも成長させてくれたことに恩を感じているらしく、最期を見届けたいのだろう。


「それで、なんで三人はここに?」


「実はな俺らずっとこの街におったんや」


「ですが、街を出ると言ってませんでしたか?」


 予想だにしない返答にミレーユも目を丸くしている。その通りだ。街を出るからという理由でトウマはここに残った。流石にミレーユ一人は可哀想だからだ。


「いやぁ出たかったんやで? でもな北と南、それぞれの門では通行検査みたいなんやってて無理やった」


「顔とか色々見られるやつですね」


「そうや。流石にそこに行くほど俺らは馬鹿ちゃうから引き返したんや」


「お前は真っ先に行きそうだけどな」


「いや、勘弁してくれぇな。そこまで俺は馬鹿ちゃうで?」


 身振り手振り、大袈裟に拒否するラーヴェル。これまでの行動を鑑みればトウマの考えも頷けなくないだろう。

 場が和んできた所に、二人の人物の影が指した。


「お、帰って来たんか」


 真っ先に気がついたラーヴェルが手招きして出迎える。

 

「見てきたわよ。正直言って最後まで醜かったわ」


 腰に手を当てムスッとした表情を浮かべ、赤色の瞳のように頬が赤くなっている。


「…………」


 その隣にいる深緑色の髪とメイド服を纏った少女はどこか悲しげで俯いている。

 やはり、外道と言えど彼女にとっては家族であったようで、その最期を見るのは辛かったようだ。


「……って、あんた目大丈夫なの!?」


 ラーヴェルと車座になっているトウマを見て彼女は声を大にして言った。

 それに対してラーヴェルは慌てて彼女の口を塞ぎ、トウマは「あはは」と嘲笑する。


「見えはしないけど、まぁ生きてるだけマシだよ」


 トウマは依然として左目の視界は真っ暗なままだ。黒目の部分を斬られていたが故に、治療はほぼ不可能だろう。


「リューシュちゃん、おいで」


「はい……」


 ミレーユが眉が垂れ下がったままのリューシュを膝に座らせる。そのまま頭を撫でる様は聖母のようであった。


「まぁともかくこれでも飲んでみぃ。俺特製、男前酒や!」


「……あんた本当にアホね」


「馬鹿は良くてもアホはアカンやろ!」


 

※※※



「寝ちゃいました」


「そうよね、あの子にとっての両親だったものね」


 疲労でぐっすり眠ってしまったリューシュをそのまま寝かせ残った四人で談話する。

 その中で、トウマはヒヨリに訊ねたいことがあった。


「ヒヨリ、アモデウスの屋敷まで行ったんだろ?」


「えぇ行ったわよ。何にも残って無いのにあの二人はどうしてか致命傷で済んでたけれど」


「その中に黒衣を纏った男は居なかったか?」


「黒衣? うーん……憶えてないわね。多分だけど衝撃と熱で全て粉微塵になってしまったと思うわ。どうかしたの?」


「いや、何でもない。ただ、そういう容姿をした人間が近場にいただけ」


 ジュラルの言葉が本当ならダイシバが『浮遊城』を落としたに違いない。

 城の操作が出来るかは不明だが、操縦するには人が必要なはず。ダイシバはどこまでいっても忠義に厚い。


 けじめを取るなら一人で取るはずだ。そうなればあの城と共に自らも……と推測できる。


「にしても驚いたわ。あいつらの地下からあんなデカイ黒蟻が出てくるなんて。気色悪いにも程があったわよ」


「あの黒蟻って地下牢から出てきたんですか?!」


「えぇそうよ。地下で怪しい実験をしてるって噂になってたけど、蟻の改造を行ってたなんて気持ち悪いわ。それに、あいつらまだ街を彷徨ってるわ」


 それを聞いたトウマは全身の毛が逆立つのを感じた。象ほどの軍団が街のどこかを歩き回り、人を喰らっているとはこの上ない地獄絵図だ。


「そんな蟻さんの話は置いといてや、俺らどないすんねん。都市壊滅の原因ってことがバレたら大陸中に顔が出回るで?」


「蟻よりもそっちが地獄だな……」


 とは言ったものの、トウマとしてはやらないといけない事がある。

『神』が何かと戦おうとしている。しかもその何かはトウマにも牙を剥く可能性がある。となれば、その深層心理について知る必要があるのだ。


「トウマさんどうかしましたか?」


「え? あぁ、いや何でもない」


「隠しても無駄ですよ。私は少なくとも月単位で貴方と居るので、分かりますよ」


「えぇ、怖いなそれ」


 どうするべきか。

 トウマとしては一人で行った方が良いだろう。

 あらゆる危険からこの四人を遠ざけることも出来るし、『神』の言っていた言葉にも従える。


 がしかしだ、どう説明すれば良いのだ。『神』ならば神話。「俺神に会って神話に興味を持ったんだ」なんて馬鹿げたことが通用するわけない。


 ミレーユは先程からトウマをジッと見つめている。酒も入っているせいか少し色っぽく見えるのは気のせいだろうか。

 すると――、


「そういえば聞きたいことがアタシ聞きたいことあるんだけど良いかしら?」


 酒を片手に新たな話題を切り出すヒヨリ。その視線の先にいるのはミレーユだ。


「貴方って何者なの?」


「……え?」


「前から気になってたのよねぇ……。『忘姫』に容姿が似てるけど、そんな悪い人に見えないのよ。でも加護もあるみたいだし……どうなの?」


 酔っているのか彼女は立ち上がり、ミレーユの細い肩に腕を回す。「ねぇどうなのどうなの?」と頬をツンツンしたり、ジッと見つめたりと、傍から見ればダル絡みも良いところだ。


「はぁ、全く。やめんかい、酒癖悪いのは変わってないなぁ」


 やれやれといった様子でラーヴェルが立ち上がり、ひっつき虫のようにベタベタするヒヨリを離す。持ち上げられた彼女はバタバタと暴れ、筋肉バカだの、ドアホなどと罵詈雑言を浴びせている。


「すまんなこいつずっとこんな感じやねん。明日説教しとくから許してな」


「いえ、別に……」


「ねぇ、どうなのよぉ!」


 再び立ち上がろうとしたところをラーヴェルがグッと肩を押さえ座らせた。それにムスッとしたヒヨリはラーヴェルを小突き出した。


 何してるんだか、と唯一酒を飲んでいないトウマがため息をつく。酒は二十歳から、という決まりをトウマは律儀に守っているのだ。


「実は……私にも分からないんです」


「「「……?」」」


 全員の動きが止まる。重い口を開けてミレーユが語り始めたのだ。


「私、途中まで自分が何をしていたのか『記憶』が無くて……両親や親族、友人もいたのか分からなくて。とりあえず各地を歩き回れば何か思い出せるかもって、あちこちを旅してるんです」


「おいちびっ子、謝れ。こんなこと思い出させんのは良くないんちゃうんかぁ?」


「うぅ……正論なのがうざいぃ……ごめんなさい」


「いいえ大丈夫ですよ、今はお酒のおかげで余裕ですぅ!」


 二人はワハハと高笑を続けていたがトウマとラーヴェルは不意に視線が合い、ため息をついた。

 その後、酒に酔っていた酔っ払い二人は潰れた。残った男二人は野営地から離れ、星を見ていた。

 異世界といえども星というものはあるらしく、真っ赤な月の周囲に無数に散らばっていた。


「なぁ兄やん、俺からも一つ聞いてもえぇか?」


「何だよ、好きな子はいねぇぞ」


「ちゃうわ! 旅行中の男子やないか!」


「この世界でも同じかよ……」


「ん? どしたん?」


「いや、何でもない。で、どうしたんだよ」

 

 脱線しそうになった話をトウマが珍しく戻す。そほ路線に乗ったラーヴェルは少し間を置いてから口を開く。


「兄やん、何者なんや」


「何者ってなんだよ。同じ人間だよ」


「いや違うねんな。なんか兄やんの隣に居るとなんか普通の男とは違うオーラを感じるねん。闘気とは違う、異質な何かや」


「……それはお前が戦闘好きだからだろ」


「兄やん俺が珍しく真面目な話してんねんで、答えてほしいねん」


「…………」


 ここに来て芯をつくような質問にトウマは言葉が詰まった。

 二人きりとなったタイミングを狙っていたのか……。沈黙を続ければ認めるようなものだし、誤魔化しは効かなそうな男だ。


「兄やんも訳ありなんか?」


「まぁ、ちょっとな。いつか、お前には話すよ。助けてもらった恩があるしな」


「言質取ったでぇ? 後から無理とかは無しやで」


 古い旧友のようなノリにトウマは口元が綻びた。その興に乗ったのか分からないがラーヴェルに向かって拳を突き出すトウマ。

 それに対して、イマイチピンと来ていないのかラーヴェルは首を傾げたままだ。


「同じように拳を出せば良いんだよ」


 とトウマが言うとラーヴェルは拳を出す。ゴツンと互いの拳がぶつかり、鈍い痛みがトウマに走った。どうやらラーヴェルとは相性が悪いみたいだ。


「かっこえぇな。流石兄やんやな! もう一回やろうや!」


「いや、お前の拳クソ固かったぞ。岩殴ってるみたいで俺の腕が死ぬ!」


「何でぇなノリ悪いやんかぁ、もう一回だけな?」


「いーやーだ、俺の拳が死ぬ」


「何やねんノリ悪いなぁ。そうや兄やん」


「どうした? また質問か?」


「兄やん好きな子おんの?」


「お前は中学生か!!!」


 月夜の下、二人の男子がくだらない話をしていた。

 真っ赤な月には、大きくドンヨリとした雲が覆いかぶさっていた。


 その中でトウマのポケットからどす黒い光が漏れていることに二人は全く気がついていなかった。


 

これにて二章は終わり……。プロットから反れて修正やらが大変でしたが何とか70話ピッタシで終われました。


二章のサブタイトルは正しくトウマの下の名前、「カガヤ」についてです。月に雲が隠れると輝きは失われ、不吉なことが起こるとか言われてたり、言われてなかったり……。


二章は間話が無いので、そのまま三章へと突入します。今回の反省を活かし、より面白く作って見せますのでどうかお楽しみにー


評価やブクマはお任せします。もともと読まれにくいのは理解してるので、ここまで読んでくださる方には感謝の言葉でいっぱいです。何卒これからもよろしくお願いいたします。

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