97話
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――まずい。まずい。まずい。まずい。まずい。
冷や汗が止まらない。
魔力は、ほぼ底をついている。
「ふふふふふ! こんなに楽しいのは、何年ぶりかしら! 五十年? 百年? あの斧の中にいたから、わかんないわね! あはははははは!」
――どうする。
「まだ遊べるわよね? 大丈夫よね?」
先ほどの攻撃で、体はすでに満身創痍だった。累纏・雷神の副作用で踏み込んだ足はほとんど力が入らず、蹴りを入れた脛や地面にやつを叩きつけた手の骨も、おそらく折れている。
「いくわよおおおおお!」
悪魔が盛大に土を飛び散らせて、飛び出てきた。
「うぐっ!」
回避するために地を蹴ると、ふくらはぎに激痛が走る。
「あはははは! 待ってよおおお!」
累纏・雷神の速度にすら、容易く食らいついてくる。
「これはどう?」
悪魔は、両手で貫手を嵐のように繰り出した。
俺は、累纏・雷神によって爆発的に強化された反射神経で――そのすべてを、逸らす。
受け止めるたびに、手の骨や筋肉が――過剰な強化の負荷に耐えきれず、壊れていく。
「いいわねええええ!」
嵐は、止まらない。
手刀、裏拳、回し蹴り、踵落とし――さまざまな攻撃が、次々と襲いかかる。
「っく!」
いなす。逸らす。避ける。受ける。
体の至るところが、悲鳴をあげていた。
呼吸をする暇すら、ない。
――苦しい。
「はいはいはいはいはい!」
相手の攻撃は、休まることがない。それどころか、一層苛烈になっていく。
それは、必然だった。
ミスとは言えない程度の、わずかな判断の誤り。
荒れ狂う攻撃の最中。
襲いくる、右手の貫手。
俺は、左に逸らした。
悪魔は、その瞬間にニヤリと嗤った。
そらされた右手の力を、そのまま次の蹴りへの連携に繋げてくる。
――右側に、逸らすべきだった。
そう思った時にはもう、右脇腹に強烈な蹴りが叩き込まれていた。
俺の体は吹き飛び、ピンポン玉のように何度も地面をバウンドする。
上下の感覚さえ、わからなくなった。
累纏・雷神をかろうじて保っていなければ、確実に死んでいただろう。
しかし、もう魔力の底は尽きていた。
累纏が、完全に切れる。
横たわったまま、途切れそうな意識の中で――熊のような巨体が、目の前に降り立つのが見えた。
「あなた、すごいわ! ここまで楽しめるなんて。できれば、もう少し遊びたいのだけれど……どう?」
もはや、口を動かす元気すらない。
「そう。残念ね。……でも、あなたのことは一生忘れないわ」
――くそ。くそ。くそ。悔しい。
今世では、もっと楽しい人生を送りたかった。
父さん。母さん。ごめん。
頑張ったのに。
僕は、またダメだったよ。
もう、生まれてこないほうがいいんだよ、きっと。
来世はどうか、人間以外に生まれますように。
「ああ、あとね。いいこと教えてあげるわ」
悪魔は俺の頬を撫でながら、愛おしそうに続ける。
「天国なんてないわよ。きゃはははははは」
そうやって嗤って、俺の首筋を目がけて貫手を放った。
俺はそれを、ぼんやりと眺めながら――知ってるよ。と心の中でつぶやいた。




