93話
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「え? え? ちょっと待って、ちょっと待って、ちょっと待って!」
理解が、追いつかない。
父さんの、腹を貫く腕。
「ぐごっふ!」
血を、吐く父さん。
目の前で起きているはずなのに、まだ現実だと信じられない。
引き抜かれる、腕。
父さんが崩れ落ちる。
「嘘でしょ! なんで!? どうして!」
倒れる父さんを、抱き込むようにして支えた。
腹部から――どくどくと、大量の血が吹き出していた。
傷口を、必死に押さえる。だが、血はとめどなく湧き出てくる。
「父さん。嘘でしょ。しっかり!」
――落ち着け! そうだ、ラン!
通信魔法で、ランに連絡した。
「え? わかったわ! すぐに行く!」
ランが、こちらへ走ってくるのが見えた。
頭の整理が、つかない。誰が――こんなことを。
元凶を、見上げた。
「うふふふふふふふふ」
そこに立っていたのは――たった今、確かに息の根を止めたはずの、ヴァイキングの頭目だった。ぞわりと鳥肌が立つほどの、歪んだ笑みを浮かべて。
「なん……で」
「うふふ。あなた最高だったわよ」
――は?
「親子で協力し、戦闘に勝利した――絶頂の瞬間からの、突然のさ・よ・な・ら。最高のショーだったわよ。もう一度、見たいわぁ」
――こいつは、何を言っている? ショー?
まるで、ヴァイキングの頭目の中に別の何かが――女が、入り込んでいるようだった。
「ぐっ……ごふっ。エル……に、逃げろ。かはっ……悪魔、だ」
父さんが、血を吐きながら搾り出すように言った。
「御名答――。ふふ。さすがパパね。ふふふ」
――悪魔。
じいちゃんが、前に言っていた――あれのことか。
「……何が狙いだ?」
俺は、倒れる父さんを抱えながら――必死に、思考を巡らせる。
――いつは、まずい。まずすぎる。
自分では、歯が立たない。一瞬で、殺される。
とにかく、父さんを早くランに引き渡して――治療しなければ。手遅れに、なってしまう。
「狙い? ふふふふ! 悪魔の狙いだなんて――おかしな子」
熊のような巨漢――なのに、その動き方は、完全に女のものだった。
外見と中身のちぐはぐさが、不気味さに拍車をかける。
「まあでも、経緯くらいは説明してあげましょうか。ふふふ。こう見えて、私は優しいのよ。あ・れ・よ。あ・れ」
指の先には――この男が、持っていた武器。
異様な雰囲気を纏っていた、巨大な斧があった。
「私、あれに入ってたの。それで、この男と契約をしたおかげで今、この体が手に入ったってわけ。ちなみに、この体――もう死んでるわよ。安心して」
――安心? 意味が、わからない。
「エル!」
ランとギンが、駆けつけた。
ギンも、異変を察知して――駆けつけてくれたようだ。
「ランお姉ちゃん! ギンお兄ちゃん! 父さんを!」
ギンが素早く父を背負い、ランとともにその場を離れる。
俺は累纏を全開にして、二人への追撃に備えた。
「ふふふ。いいわよ、好きにして。邪魔しないからー」
――だって、どうせ、みんな殺すんだもの。
そう言って――そいつは、ニタリと嗤った。




