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92話

「ウガガガガガガ」


 断続的に、バチバチという電気音が響く。


 ボブロンは、感電しながら――十メートルほど、弾き飛んだ。


 地面を転がりながら――体内に滞留する電気によって、体がビクンビクンと痙攣していた。


 雷神の掌(トールハンド)は――対個人・接近戦専用に開発した、超至近距離特化の高威力魔法だ。


 射程は、ほぼゼロ距離。


 ちょうど、前世の真夏――ドアノブに触れた瞬間、静電気がバチッと弾けるイメージの延長線上にある。


 手のひらから、直接属性変換を行えるため――魔力のロスは、ほぼ発生しない。


 さらに、相手の体内へ直接魔力を送り込み――体の内側で、電気を発生させる。


 高圧の電流が――一定時間、体内を暴れ回る。


 しばらくすると――ボブロンの動きが、完全に止まった。


 父さんと二人で、様子を見守る。


 立ち上がる気配はない。


 風に乗って、焦げた匂いが漂っている。


 恐る恐る近寄り――父さんが、脈を確認した。


「間違いない。もう目を覚ますことはない」


 全身から、力が抜けていく。

 右手が、まだ小刻みに震えていた。


 ――なんとかなった。


 正直、ギリギリだった。


 俺は、まだ――累纏と雷神の掌(トールハンド)の併用が、できない。


 だから、父さんに――どうしても、隙を作ってもらう必要があったのだ。


 だが――父さんは、やり遂げてくれた。


「父さん、大丈夫!?」


「ああ、大丈夫だ」


 そう言って、俺の頭に――そっと、手を置いた。


「ほっとしている暇はないぞ。残党を片付けないと」


 父さんの声で、我に返る。

 ヴァイキングの兵たちは――頭目が倒されても、戦意を失わず、戦い続けていた。


「どうして、頭が倒れたのに……」


「それが、ヴァイキングというやつなんだ。あいつらは、戦いの中で死ぬことこそ――理想の生き方だと、思っているんだよ」


 ――狂ってる。


 ギンも、すでに到着していて――戦闘に、参加している。


 その甲斐もあって――残りは、三十人ほどになっていた。


 俺と父さんは、急いで――残党の掃討に、向かおうとした。


 その時。


 残党たち起点として――次々と、火柱が上がった。


「待たせたね」


「ジーンおばあちゃん!」


 上空から――ジーンおばあちゃんが、舞い降りてきた。

 着地の風で、土埃が舞い上がる。


「皆、すまなかったね。雑木林の炎を消火するのに、思ったより時間がかかってしまって。もう少しで、村まで消し炭にしてしまうところだったよ」


 ジーンおばあちゃんは、そう言うと――ニコッと笑って、続けた。


「これで、終わり――だね」


 戦闘音が支配していた戦場に――静寂が、訪れた。


 皆が、互いに――目を見合わせる。


「終わった……のか?」


「勝った? 本当に?」


 誰も、警戒を解こうとしない。

 皆、つい今の今まで――命のやり取りを、していたのだ。


 極度の緊張から、そう簡単には――戻ってこられないのだろう。


 俺は、ふと閃いて――ある魔法を、展開する。


 サンダーケーブルが"通信"だとすれば――この魔法は、いわば"拡声器"だ。


 声を、電気に乗せて――無差別に、拡散する。


 ――サンダーボイス。


「皆さん! 今しがた、ヴァイキングの撃退に成功しました! もう、危険はありません!」


 村の反対側にいる投擲部隊の女性たちや、エランギルンのメンバーたち。避難している人たちにまで、確実に届くように――声を張り上げた。


「繰り返します! ヴァイキングの撃退に成功しました! もう、危険はありません! 僕たちの、勝利です!」


 その瞬間――耳をつんざくほどの歓声が、盛大に沸き起こった。


「よっしゃあああああ」


「うおおおおおおおお」


「みたかよ! 俺の槍捌き!」


「俺だって! 負けてなかっただろ!」


 武器を放り出し、至る所で――抱き合い、飛び跳ね、握手を交わしている。

 誰かの泣き声も、混じっていた。


 村の反対側からも――歓声が、聞こえてくる。


 ――よかった。本当に、終わったんだ。


「エル」


「父さん!」


 俺たちは、抱き合った。


「よく、頑張ったな。この光景は――お前の努力の、賜物だ。親として、生涯誇りに思うよ」


 そう言って、父さんは――俺の脇の下に手を入れ、高い高いをしてくれた。


「ちょっと! 父さん、恥ずかしいよ!」


「はっはっは! 今日くらい、いいだろう! お前、好きだったじゃないか!」


 この高さから見渡すと――みんなの歓喜が、よく見えた。

 夕陽に染まった村と、抱き合う人々。


 この作戦が始まってから、約四年。


 一日も、サボらずに頑張ってきて――本当に、良かった。


 そう、心の底から思った。


 しばらくすると――父さんが、俺を降ろした。




 降りた瞬間――顔に、何か液体が顔にかかった。


 手で拭う。


 真っ赤な血だった。


 あれ? 最後の攻撃の時、掠ってたのかな?


 そう思って、父さんに――どこから血が出ているのか、聞こうとした、その時。


 その光景に、目を疑った。


 赤黒く染まった、太い腕。


 腕からは――ボタボタと、血の塊が滴り落ちている。


 それは、父さんの腹部から――突き出ている。




 ――え?


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