87話
俺たちは、感知した方角へ――まっすぐに、駆けていた。
走りながら、再度――サンダーサークルの範囲を絞り込み、対象を探る。
明らかな違和感。
奴らの中の、数人。
今朝、浜辺から遠目に見た海賊たちと――同じ形状の兜を身につけている。
……やっぱり。
嫌な予感が確信に変わりながら、村から続く一本道を、西へと向かう。
全速力で駆けたおかげで、すぐに――大勢の人数と、出くわした。
何人かは、馬に乗っている。幹部だろうか。
「おい、ガキども! どこから来た!」
先頭の馬に乗った、顔の長い男が――怒鳴るように、そう言った。
「この先の、アルンヴィーク村だよ」
俺は、普通の子供のような雰囲気を装って、そう答える。
ギンは一瞬、動揺したような様子を見せたが――すぐに、俺の演技に気づいて、咄嗟に調子を合わせた。
「はあーん、そうか。そうか。どうして、そんなに血相を変えて走っていたんだ?」
男は、芝居がかった声色で、続ける。
「ヴァイキングが! ヴァイキングが、襲ってきたんだ!」
男は、にやりと笑った。
「そうかそうか。ヴァイキングが、襲ってきたかー!」
喜びを、隠しきれない様子で――そう言った。
「お兄さんたち、ヴァイキングをやっつけに来てくれたんじゃないの? パパが、お金払って傭兵さんに守ってもらうって言ってた!!」
俺は、なおも演技を続ける。
「うーん? ヤッハッハッハッハ!! そうだな!! 金は、もらったな!!」
男は、そう言って――笑いすぎて馬から落ちそうになるほど、腹を抱えて身をよじった。
「はー。 最高だ。 坊主には、特別に教えてやるよ」
「お前たちのパパから、確かに金はもらった。でもな――ヴァイキングたちからは、その二倍の額をもらったんだ。しかも! 村で奪った物の、二割を成功報酬として渡すときたもんだ。もちろん、その報酬には――人間も含まれる。こんな美味しい話は、ないだろう?」
――あ、クズだ。こいつら。
男が嬉しそうに、ペラペラとネタばらしをしているのを――仲間も、全員にやけながら聞いていやがる。
「どうだ? 坊主? 楽しいだろ! ヤーッハッハッハッハ!」
――困るなあ。
とっても、困る。
このままこいつらが、ヴァイキング側として襲撃に参加したら――ちょうど、挟撃される形になる。
そうなったら、とっても困る。
――何か、いい策がないものか。
「あっ、坊主。お前の母ちゃん、美人か? もしそうなら、俺のペットにしてやってもいいぞ!! なんてな!!」
男がそう言うと、周りの奴らも――大笑いしている。
――うん。思いつかないな。
できる限りのことは、したよ。
――じいちゃん。
「……もう、いいや」
俺は、静かに――そう呟いた。
「ギンお兄ちゃん。あの、顔の長いやつだけ、捕まえられる?」
「……もういいのか?」
俺は、小さく――頷いた。
次の瞬間、ギンが地面を蹴った。
目にも留まらぬ速さで踏み込むと、面長の男が跨る馬へと跳び乗り、半ば抱きつくようにしてその体を引き剥がす。そのまま馬を蹴って宙へ舞い上がると、ふわりと――俺の背後に着地した。
「な、なんだ!? 放せ!! クソガキが!!」
突然のことに、男が喚き散らす。
――よし。
ギンの着地を確認して、俺は――天に、両手を掲げた。
目の前には、約三百人の傭兵たち。
曲がりなりにもプロだ。頭を、いともたやすく取り押さえられたというのに――動揺した様子はない。
むしろ、じりじりと――警戒態勢を強めている。
「ごめんね」
気絶させるだけじゃ、意味がない。村を襲いにくるかもしれない。
裏切りの証拠さえ、確保できれば――あとは、こうするしかないんだ。
ジーンおばあちゃんに「膨大」と評された俺の魔力――その半分を、上空へと集めていく。
この魔法自体は、実のところ単純だ。
雷という現象、そのもののイメージでいい。ただ、途方もない量の魔力さえあれば。
圧縮された魔力が、雷雲のように寄り集まり――見る間に、膨れ上がっていく。
「あ……そういえば、名前、決めてなかったっけ」
まあ、なんでもいいか。
これで。
――トールハンマー。
次の瞬間。
幾重にも折り重なった雷が、耳をつんざくような轟音と共に――俺の前方一帯へ、無慈悲に降り注いだ。




