84話
開戦!
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沖合、二百メートル付近。
ヴァイキングの船団は村へと、進み続けていた。
「頭目。このままいけば、あと三十分ほどで村の西側の、あの浜辺に到着できるかと思いやす」
村の東側は、岩礁地帯になっている。船をつけるには、都合が悪い。
だから、狙うのは西側――のはずなのだが。
「この距離にしちゃ、意外と時間がかかるんだな」
ボブロンが、そう零す。
「へえ。浅瀬に近づくにつれて、潮の流れが強くなってきてるみてぇで。西側に回るのに、少し手間がかかっておりやす」
「わかった。全員に急ぐよう伝えろ。連中が、いびきをかいてる間に――襲いたいからな」
「わかりやした!」
――その時だった。
木材が、粉砕されたような衝撃音。
「なんだ! 今の音は!?」
ボブロンが、声を荒げる。
「ビョルナングの船のようです! 何が起きたかは……足場でも、踏み抜いたんですかね?」
「足場を踏み抜いたくらいで、あんな音が鳴るか! 今のは――何かが、爆ぜたような音だったぞ」
その直後。
もう一発。
――バコン!
今度は、帆を貫いた。
その後も、次々と――何かが、船団を襲う。
バコン! ドゴン! バコン! バキ! バコン!
音が鳴るたび、船に穴が空き、マストが折れる。
「うがああああ!!」
「いでええ!!!」
――何かが、飛来している。
しかも、それは人間にも容赦なく襲いかかり、いともたやすく体を貫いていく。
「お頭!! 各船、何かに襲われています!! うわ!!」
手下の足元にも、何かが撃ち込まれる。足場が砕け、船底まで貫通していった。
そこら中の船から、悲鳴が響き渡る。船団は、瞬く間に――大混乱に陥っていた。
何だ。一体、何が起こっている。
ボブロンは、顔を歪め、怒りを剥き出しにする。
――襲撃? 一体、どこから?
凄まじい速度で飛来する、何か。
混乱の最中、それはボブロンの額めがけて――一直線に、飛んできた。
だが、獣めいた直感が――寸前で、それを察知する。
巨大な斧を、振るう。
弾かれたそれは、勢いを失い――足元に、ごとりと転がった。
拾い上げる。
「……何だこれ。ただの、石……だと?」
ボブロンの額に、青筋が浮かび上がる。
握った拳の中で、石は――あっさりと、砕け散った。
「頭目!! 見てください! これ、全部――あの浜辺から、投げられてます!」
――今、何と言った。
投げられている?
「おい! こんな時に、ふざけてる場合じゃねえだろ! 浜辺から、まだ二百メートルはあるんだぞ!」
「とにかく、見てください!!」
ボブロンは、目を細めながら――手下が指し示す海岸へと、視線を向けた。
そこには、大量に積み上げられた石。
そして、それを次から次へと投げつける女たち。加えて、布のようなものを使い、投擲している子供たち。
自分の目を、疑った。
目の前の光景を、受け入れるまでに――しばしの時間を要した。
「頭目!!」
「くそ!! 見えたよ! ありえねえだろ!! どうなってんだ、この村は!! 全員、とにかく陸に上がるぞ!」
「西側への到着は――すでに、困難です! 船もかなり損傷していますし、何より、あの投擲が止みません!」
「そんなことは、わかってる!」
「東側は岩礁地帯ですが……泳げば、辿り着けないことはありません!」
それは、実質――船を捨てる、ということだった。
――くそ。これだけの船を揃えるのに、一体どれだけの金と時間をかけたと思っている。
だが、背に腹は代えられない。
「だああ! くそ!! できる限り陸に近いところまで船で行き、そこから先は――各自、泳いで岸までたどり着け! 村の東側だ! 雑木林の前で、落ち合うぞ!」
ボブロンは、張り裂けんばかりの大声で、全船へとその号令を飛ばした。
まだ初冬とはいえ、海の水温は低い。
突き刺すような冷たさが、瞬く間に体の自由を奪っていく。
いくらヴァイキングといえど、長時間の海中移動は――できれば、避けたい。
いくつかの船は、すでに沈み始めていた。
負傷者も、かなりの数にのぼる。
一秒ごとに、その数が――増えていく。
手数が、多すぎる。
また一つ、自分を襲った石を――斧で、叩き割る。
「ちくしょう!! くそ! くそ! くそ!! こんなところで、なんて様だ!!」
ボブロンは煮えたぎる溶岩のように怒り狂った。
「あの女子供どもめ……! 生かしたまま、皮を剥いでやる……!!」
そうして、ヴァイキングたちは雨のように降り注ぐ凶弾に晒されながら――村の東側を、目指し始めた。




