81話
最後の授業。
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ある日の午後。
いつもなら、じいちゃんとの訓練の時間だ。
だが、今日は様子が違った。
じいちゃんが、作戦に参加する子供たち――その全員を、呼び寄せたのだ。
「うむ。これで、全員じゃな」
エランギルン軍のメンバーの多くは、じいちゃんのことを知らない。
「わしはな。エルのじいちゃんだ。そして――ここより、はるか南。厳しい山脈を越えた先にある、ガルドニア王国の国王でもある」
少年たちの間に、ざわめきが広がった。
「おっと、すまんすまん。ちょっとばかし威厳を出しておいた方が、話が入りやすかろうと思っての」
……珍しい。
じいちゃんが、自分から肩書きを明かすなんて。
一体、何を話すつもりなんだろう。
「ちょっと自国をほったらかすわけにもいかんでな。そろそろ、帰らにゃならんのじゃ」
――そういえば、そんな話も、していたな。
雪が溶けてから、もうしばらく経つ。ぎりぎりまで、粘ってくれていたのだろう。
「だから――帰る前に、お前たちに伝えておきたいことがあってのう」
じいちゃんの目つきが、変わった。
いつもの、間延びした調子が――消えている。
「わしは、長い間、幾多の戦場で戦ってきた。これが、どういうことを意味するか――わかるか?」
少年たちが、首を傾げながら、互いに顔を見合わせる。
「……数えきれんほどの命を、奪ってきた、ということじゃ」
俺は、自分の胸が――大きく波打つのを自覚した。
「直接、間接、問わなければ――罪のない者たちも、たくさんいたはずじゃ」
少年たちは、真剣な表情で、その言葉に聞き入っている。
「もちろん、後悔はない。……いや」
じいちゃんは、記憶を辿るように、苦い表情を浮かべた。
「後悔していることも、山ほどある」
「だが――その時その時で、最善を尽くしたという自負だけは、ある」
「お前たちの多くは、今度の作戦に参加し、多くの敵の命を奪うことになるじゃろう」
少年たちが、ごくりと、喉を鳴らした。
「こんな時代じゃ。命の価値は、軽く見られがちじゃ。じゃが――命は、尊い。相手にも、お前たちのような子供の時代があり、赤子の時代があった。命を奪うということは――その過去さえも、奪ってしまうということなんじゃ」
じいちゃんの声が、静かに、けれども重く――響く。
「全員――命を奪う理由を、持っておきなさい」
「土壇場で、ためらわなくて済むように。こちらが殺すのを躊躇えば――その一瞬の隙で、こちらが殺される。そんな光景を、わしは腐るほど見てきた」
「だから――なぜ殺すのか。それだけは、心の奥底に、必ず持っておきなさい」
「さもないと――殺すことに、何も感じなくなる化け物になるか。あるいは、自分を見失い、二度と戻ってこれなくなるかの、どちらかじゃ」
じいちゃんは、真剣な表情で、その言葉を噛み締める少年たちを――一人ひとり、見渡した。
そして、最後に――俺を、じっと見つめた。
俺は、わかっていた。
この作戦が実行されれば、俺自身も、多くの敵の命を奪うことになる。
だけど――怖くて。考えないようにしていた。
それを、じいちゃんは――見抜いていたらしい。
俺は、荒くなっていた呼吸を、ゆっくりと整える。
息を、大きく、ゆっくりと吸い込んだ。
「じいちゃん。俺は――やるよ。村のみんなを、父ちゃんと母ちゃんを、守りたいんだ」
――それが。
俺の、殺す理由だ。
エランギルンのメンバーたち、ギン、ランも、力強い瞳で――じいちゃんを、まっすぐに見つめ返していた。
「うむ! お前たちは、もう――一人前の戦士じゃ! じいちゃんは、お前たちを誇りに思うぞ!」
そうして、じいちゃんは――「冬になるまでには、必ず戻る」と告げてから、静かに、自国へと帰っていった。
戦う覚悟。
私たちが住んでいる世界とは違う価値観。
それでも命は等しく尊い。
ジークはこの世界では稀有な感覚の持ち主かもしれません。




