79話
数ヶ月が、経った。
作戦準備は――おおむね、順調だ。
まずは、浜辺の投石部隊。
様子を見に行くと、皆それぞれ、思い思いのフォームで石を投げ込んでいた。
ふくよかな中年の女性――シグネさんが、握り拳ほどの石を、思いっきり投げつける。
石は、あっという間に小さくなっていき――遠くの岩に着弾するや、その一部を、粉々に打ち砕いた。
……すごすぎる。
「あ、エルちゃん! どうだい、なかなか上手くなったろ?」
「はい。ダイナミックな投擲フォームが、美しくて――つい、目が離せませんでした」
「またまたー! 美しいなんて!」
シグネさんは、頬を赤らめながら、大げさに照れて喜んでいる。
……"フォームが"の部分は、聞こえていなかったのだろうか。
まあ、いい。喜んでもらえたなら、それに越したことはない。
見渡せば、皆それぞれ、自分なりのスタイルを見つけて、投擲の質を上げているようだった。
――さて。
少し離れた場所に目をやると、集まって石投げに励んでいるのは――エランギルン軍のメンバーたちだ。
「おはようございます! エルさん!」
「年下なんだから、さん付けはよしてよ……。それより、調子はどう?」
「いいと思います! あの岩場にも、ほぼほぼ命中するようになりました!」
……それにしても、皆すごいな。
"あの岩場"、なんて軽く言っているが、ここから百五十メートルはある。身体強化を使っていても、かなり精密な投擲でなければ、そう簡単には当たらないはずだ。
「でも……シグネさんたちほどの威力は、出せなくて。お役に立てるか、不安で」
そう言うので、実際に投げてもらった。
確かに――シグネさんたち、主婦チームに比べると、威力はかなり見劣りする。
……まあ、これは、大人のほうが魔力そのものの量が多いのが、原因なんだろうけど。
……とはいえ、本当の標的は、人や船だ。
それを考えれば、十分すぎるくらいだとは思う。だけど――このままじゃ、モチベーションに関わるな。
よし。
だったら、当初から温めていた奥の手を――子供たちに、教えてやろう。
「よし。じゃあ、威力が何倍にもなる方法を、教えるよ」
「本当ですか!?」
それを聞いた瞬間、エランギルンの面々の目が、一斉に輝いた。
「布をさ。こう、使うんだ――」
布の端を石に巻きつけ、もう片方の端を握って振り回す。
簡易的な投石紐――スリングの要領だ。
「本当に、そんなことで威力が何倍も上がるんですか?」
「うん。間違いない。これで、練習してみて。うまくいけば――連射性能では、シグネさんたちに敵わないけど。破壊力なら、多分勝てるはずだよ」
その言葉を聞いた少年たちは、目の色を変えて――すぐさま、練習に打ち込み始めた。
投擲部隊、総勢九十人。
これは――敵からすれば、とんでもない相手になるはずだ。




