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77話

 その日、村の集会所には――村中の代表者たちが、一堂に会していた。


 ジーンさんの息子で村長のゴーン。自警団を束ねるハラルド。各組の長五人。そして、俺たち――ジーンおばあちゃん、じいちゃん、ギン、ラン。


 狭い部屋に、大人たちの熱気と緊張が、ひしめいている。


 これまで、ずっと。

 この日のために、動いてきた。


 身体強化を、村中に広める。

 その裏に隠していた、本当の理由を――ようやく、明かす時が来た。


 村長のゴーンが、咳払いを一つして――場を静める。


「今日は、預言師から大事な話があると聞いている。……じゃあ、母さん」


 促され、ジーンおばあちゃんが、静かに立ち上がった。


 いつもの、飄々とした空気は――どこにもない。

 村の預言師としての顔が、そこにあった。


「単刀直入に言うよ。私は――予知夢を見た。この村が、ヴァイキングに襲われる夢だ」


 場の空気が、一変した。


「な……」


「本当、なのか」


 誰かが、掠れた声で呟く。


「本当だ。……昨年のリンドンのようにね」


 ジーンおばあちゃんがはっきりと言うと、皆ざわざわとする。


「これまで、あんたたちに広めてきたのは"身体強化"と言って戦うための術だったんだよ――遊びでも、健康のためでもない。この日に、備えるためだったんだよ」


 沈黙が、部屋を支配する。


 誰もが、言葉を失っていた。

 そんな中、ジーンおばあちゃんは――淡々と、続ける。


「時期は、そう遠くない。……おそらく、来年の冬。……いや、それも確実じゃない。今年かもしれない」


 すぐそこまで、迫っている。


「そんな……」


「なんで、もっと早く言わなかったんだ!」


 誰かが、声を荒げる。


「言えば、混乱するだけだっただろう。……だが今は違う。最低限の備えはある」


 ジーンおばあちゃんは、一歩も引かず、そう言い切った。


 そして、視線を――俺に向けた。


 ……ここからは、俺の番か。


 俺は、静かに立ち上がる。


「僕から、当日の作戦を、説明します」


 集まった大人たちの視線が、一斉に俺へと集中した。

 大人たちから、子供のくせにと侮るような空気は、まるで感じられなかった。

 テュール祭での優勝がここでも有益に働いているようだ。


 作戦内容を一つひとつ、丁寧に説明していく。


「――この作戦なら勝てます。十分な、勝算があります」


 俺は――続けた。


「ただし」


 空気が、再び張り詰める。


「勝算があるというだけで、犠牲が出ないとは、言えません。今回の作戦で命を落とす人が、出るかもしれない」


 誰も、何も言わなかった。


「そしてこの作戦には、男の人たちだけじゃなく。女性や、子供たちにも、参加してもらう必要があります」


「……なんだと?」


 自警団のハラルドが、眉を吊り上げた。


「女子供を、戦わせるつもりか!」


「はい」


 俺は、目を逸らさずに、はっきりと答えた。


「今のこの村なら女性も、子供も、老人も下手な大人の戦士より、よほど戦えます。……それに、正直に言えば。今回の敵の数が未知数だと言うことを考えると、戦える人手を、一人でも減らすわけにはいきません」


 ハラルドは、何かを言いかけて――結局、口をつぐんだ。

 反論できるだけの材料が、自分にないと、気づいたのだろう。


 しばらくの、重い沈黙。


 それを破ったのは――村長だった。


「……状況は、わかった。だが、これは――村の全員に関わることだ。慎重に決めなければならない」


 村長は、そこで一度、集まった代表者たちを、見回した。


「これより――採決を取る。この村を捨て、他の土地へ逃げるか。それとも――ここに残り、ヴァイキングと戦い、この村を守るか」


 水を打ったような、静けさ。


 誰かが、震える声で口を開いた。


「逃げたって……その先に、安住の地がある保証は、ないだろう」


「ああ。それに――ここは、俺たちが生まれ育った村だ。先祖代々の土地を、みすみす捨てるってのか」


「だが、命には代えられねえ……」


 賛否、様々な声が、飛び交う。


 そんな中。


 俺の父――ウェールズが、静かに手を挙げた。


「私は、戦うぞ」


 あちこちから、驚きの視線が集まる。


「エルが――ずっと、この村のために、考えてきたんだ。その息子の覚悟に、親が応えなくて、何が父親だ」


 その目は落ち着き払っており、はるか昔から覚悟を決めていたような、そんな強さを湛えていた。


 その言葉が、呼び水になった。


「……俺も、戦う」


「私も、賛成だ」


「うちの村を、あんな海賊どもに――好き勝手にさせてたまるか」


 賛同の手が、次々と挙がっていく。


 最後まで、腕を組んで黙り込んでいたハラルドも――やがて、深く息を吐いて手を挙げた。


「……戦う。それしか、ないだろうな」


 村長は、その場の空気を――ゆっくりと、見渡した。


「では――採決を、確定する。この村は」


 一拍、置いて。


「ヴァイキングと、戦う」


 その言葉に、誰からともなく――拍手が、湧き起こった。


 覚悟を決めた者たちの、静かで、力強い拍手。


 ◆


 こうして。


 村の方針は、決まった。


 ――ここから先は、時間との勝負だ。


 村中の人間を、実戦で戦える戦力へと、鍛え上げる。


 翌日から――村を挙げての、大訓練が始まった。


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