76話
まだ、雪に覆われたままの――北の大陸。
ボブロンの屋敷では、大宴会が開かれていた。
広間には、大きな長テーブルが五脚。
その上には、彩り豊かな料理と――なみなみと酒の詰まった樽が、これでもかというほど並べられている。
「ぶっはっはっはー! 飲んでるかぁ!」
ボブロンは、集う仲間たちの間を練り歩きながら――片っ端から酒を注ぎ、肉を頬張らせて回った。
行く先々で、歓声と乾杯の音が沸き起こる。
一通り、会場中の輪を巡り終えると――ボブロンは、正面に据えられた自分の椅子に、どかりと腰を下ろした。
そこは、一段高くなった小上がりだ。会場全体を、余すことなく見渡せる。
各部族の頭目やその幹部たち。そして――ボブロン直属の戦士たち。
合わせて、総勢百名ほど。
ここ数年、あちこちの部族と刃を交え、七の部族を、傘下に併合してきた。
この場にいる者たちの下には、それぞれさらに数十人から百人の戦士が控えている。
総戦力にして――八百と少し、といったところか。
あと、五百。いや――三百でもいい。
だからウルヴヘジンとビョルナングを何としても傘下にいれる。
それだけあれば、南の大陸に乗り込み、その中枢を奪い――すべての富を、根こそぎいただく。
そのはずだったのだが。
――それは、都合のいい誤算だった。
ボブロンは一部の部下を、先んじて南の大陸へと送り込み――ある命令を下していたのだ。
不足分の戦力を、現地で調達せよ、と。
我ながら、無茶な依頼だとは思っていた。
だが、先日――その返事が、届いた。
"手筈は、整えました"――と。
その任を任せたのは――信頼のおける男だ。
ボブロンは、決めた。
「――傾注ッ!!!」
ボブロンが椅子から立ち上がるのと同時に、側近の声が――広間の隅々にまで響き渡った。
「今日は、楽しんでくれたか!?」
「おおおおおおお!!」
全員が、一斉に足を踏み鳴らす。
雪崩のような、地鳴りにも似た音が――広間を支配した。
その反応に、ボブロンは満足げに頷くと――さらに、声を張り上げた。
「イースヴォルド、ウルヴヘジン、ビョルナング、ヨトゥンガルズ、ラーヴンスコル、ヨルムヘジン、ブロズガルム、イーサンヴァルド、スカディフィヨル、エルグヘジンの兄弟たちよ! 俺たちは、常に一緒だ! 食う時も、飲む時も――死ぬ時もな!」
「おおおおおおお!!」
再び、轟音が鳴り響いた。
「皆、噂になってるとは思うが――次の、南への侵攻の話だ」
戦士たちが、互いに顔を見合わせ――ざわめきが、広間に広がっていく。
「当初の予定じゃあ――来年の、初冬だったんだが」
ボブロンは、そこで一度、言葉を切った。
「……嬉しい誤算があってな。今年の、初冬にする」
「おおおおおおお!!」
家全体が、軋みを上げるほどの――歓声と足踏みの音。
その熱狂を、身体いっぱいに浴びながら――ボブロンは、なおも声を張り上げた。
「いいか! 俺たちの祖先はな――南の大陸から、すべてを奪われて、この地へと追いやられたんだ! 今度は――俺たちが、奪う番だ! すべてを、奪い尽くすぞ!! 各部族! 戦支度を怠るなよ!!!」
地を揺るがすほどの雄叫びが、いつまでも――収まる気配を見せない。
その日から、数日にわたって――宴は、続いた。




