↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
75/152

75話

 厳しい冬が終わり、春が来た。


 あの、テュール祭の後――しばらく続いた怒涛の忙しさに比べれば、今はまだ、随分と落ち着いたものだ。


 思い出すだけで、胃の辺りが重くなる。


 村の男たち全員に、魔力同調を用いて――身体強化の習得を、施していったのだ。


 来る日も、来る日も。ひたすら、魔力同調。

 発動と維持に関する具体的な指導は、途中からランのお母さんに完全に委託した。あちらには、エクササイズという形で――ノウハウが、ちゃんと蓄積されていたから。


 そんなこんなで、今や――村人のほとんどが、身体強化を習得している。


 寝たきりだった老婆が、また元気に走り回っている。

 主婦が、風に飛ばされた洗濯物を追いかけて、屋根まで軽々と跳び乗っている。

 子供たちが、空中でアクロバティックな戦闘ごっこを繰り広げるのが――もはや、当たり前の光景になっている。


 ……これ、控えめに言っても、頭のおかしい村ができあがったな。


 もちろん、俺たちが立てた作戦通りの結果だ。文句を言う筋合いはない。

 ないんだが――正直、ちょっとやりすぎた感は、否めない。


 スケジュールも、想定よりだいぶ早く仕上がった。おかげで、ヴァイキングの襲来にも――万全の備えができそうだ。


 いいことずくめ、のはずなんだけど。


 さて。俺たちはといえば、相変わらず――魔法と、戦闘訓練の日々である。


 俺は新しく覚えた魔法の練度を、地道に高めている最中だ。


 ランも、扱える魔法をどんどん増やしていて――ついに、回復系の魔法まで、習得してしまった。


 実際に効果を確認させてもらったが……あれは、正直、戦慄した。

 軽い切り傷が、まるで逆再生の映像みたいに、みるみる塞がっていったのだ。


 まだ治せるのは、浅い切り傷程度らしい。だけど、いずれは――失った腕や足だって、生やせるようになると、ジーンおばあちゃんは言っていた。


 とてつもない、能力だ。


 ……もしかして、今この村で一番、失ってはいけないのは――ランなんじゃないだろうか。


 そして――ギン。


 あのテュール祭で見せた、あの異常な身体強化。

 どうやら、やっぱり――じいちゃんとの、秘密の特訓で身につけたものだったらしい。


 なんでも、魔力に「意志」を乗せる技、なんだそうだ。

 根性。気合い。そういう、確固たる意志さえ持てれば――魔力も、その影響を受けるらしい。


 ……にわかには、信じがたい話だ。


 ただし、これには向き不向きがあって、魔法ほど便利なものではないらしい。


 詳しいことは、まだよくわからなかった。今度、じいちゃんに直接、聞いてみよう。


 ――魔力っていうのは、俺が思っているよりも、ずっと奥が深いらしい。



 そしてついに当初、俺たちが立てた作戦の下準備は――もう、大方、完了に近い。


 ここから先は、いよいよ――来るべき日に向けた、具体的な動きの話になる。


 ただ、これについては。

 作戦を立てた、あの日に――みんなで決めていたことがあった。


 村に、ヴァイキング襲撃の予知を見たことを、公表する。


 そのうえで。


 村を出るか。それとも――戦うか。


 村人全員に、その採決を、取ってもらう。


 ……いよいよ、か。


 これまでは、ずっと。真実を隠したまま、事を進めてきた。

 混乱を招かないように。


 でも、それも――ここまでだ。


 身体強化は、ほとんどの村人に行き渡った。

 もう、ただ怯えるだけの民じゃない。戦うための力を、村はすでに手にしている。


 だったら――今度は隠さずに。

 本当のことを、話す。




いつもお読みいただきありがとうございます。


「続きが気になるな」と少しでも思っていただけましたら、


ブックマークや☆での応援をいただけると、執筆の大きな励みになります。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。