74話
テュール祭は、滞りなく進行した。
決勝は――俺と、エイリク。
結果、優勝は、俺のものとなった。
途中で棄権することも、考えてはいたが――ギンの面子を考えると、それはできなかった。
試合が終わるや否や、多くの村人たちが、俺の周りに詰めかけてくる。根掘り葉掘りと、次から次へと質問が飛んできた。
俺は、それに一つひとつ丁寧に答えながら――同時に、ジーンおばあちゃんの祈祷の宣伝にも、抜かりなく注力しておいた。
その甲斐あってか。
その日のうちに、ジーンおばあちゃんの家には、祈祷の依頼が殺到する事態となった。結果、明日からは予約制で、一日十人ずつ請け負うことになったらしい。
――明日からも、また忙しくなるな。
そして、ギン。
あの後しばらくして、無事に目を覚ましたと聞いた。
……けれど、俺は、ちょっと気まずくて、まだ会いに行けていない。
勝者が、敗者に――一体、何と声をかければいいというのか。
◆
祭りが終わり、俺は、そのまま家へと帰った。
すると――居間には、母のサイサと、父のウェールズが。
二人揃って、やけに神妙な面持ちで、きっちりと正座をしていた。
「エル。……そこに、座りなさい」
俺は、その言葉に、大人しく従う。
――ついに、この時が、来たか。
祭りに出て、宣伝までしてしまうと決めた時から――こうなることは、わかっていた。父さんや母さんにも、当然、知られることになる。
「テュール祭、見たぞ」
「う、うん……」
ウェールズが、低く、静かな声でそう切り出した。
「どうして、ママたちに言ってくれなかったの……?」
サイサが、今にも泣き出しそうな顔で、そう続ける。
「そうだ。エル。……どうして、出場することを、言わなかった」
「……ごめんなさい」
俺は、素直に頭を下げた。
けれど――謝罪一つで、二人の溜飲が下がる様子は、まるでない。
……何て説明すればいいんだ。いや、そもそも――どこから、説明すればいい。
いっそのこと、全部話してしまうか。
いや。それをすれば、きっと――もっと二人を、悲しませることになる。
俺が、次の言葉に詰まっていると。
「――出場するって、知ってたら」
サイサが、ぽつりと口を開いた。
「ママ、もっと、もーっと、やりたいことが、たくさんあったのに……!」
――ん?
その言葉に、ウェールズも、うんうんと大きく頷いている。
「垂れ幕だとか、団扇だとか……作って、エルのこと、応援したかったわ……!」
「村を出ている親戚連中も、全員、呼び寄せなきゃいかんかったしな」
「……ちょっと、待って?」
俺は、思わず、二人の顔を見比べた。
「僕が、勝手に試合に出たこと――怒ってるんじゃ、ないの……?」
「怒ってるわよ?」
サイサが、頬を膨らませる。
「私、エルの試合、見られなかったのよ? だから、せめて――応援くらいは、したかったわ」
ウェールズも、うんうんと、深く頷いた。
――俺は、しばし、言葉を失った。
……あれ? これ、俺が想像してた「叱られる展開」と、なんか、違くない……?
結局――次回からは、必ず事前に言うこと。
その約束を取り付けて、その場はお開きとなった。
――この二人って。もしかして、ちょっと、ズレてるのかな。




