73話
瞬きする暇もない、拳と足の応酬。
両者、一歩も引くことはない。
――このままじゃ、まずい。
めまぐるしく変化する戦況の中、俺は、じわじわと焦りを募らせていた。
ギンは、累纏を発動した俺の動きに、ついてくる。いやそれどころか──むしろ、あの身体の異常な硬度に俺は苦しめられている。
攻撃自体は、それなりに当たっているはずだ。なのに――手応えが、ない。
速さやキレでは、俺の累纏がわずかに上回っている。だが、あの硬度による一撃の重さが、累纏の強度そのものを、時折突き破ってくる。
今のところは、速度でどうにか致命傷だけは避けられている。
――だが、一発でも貰えば、それで終わりだ。
死角から放たれたギンの肘打ちが、鼻先を掠める。
――今のは、危なかった。
早く、何とかしないと。
俺は縦横無尽に駆け回り、ギンの不意を突こうと試みる。
だが、ギンもそうやすやすとはいかない。素早く反応し、そのまま反撃まで叩き込んでくる。
人間離れした、神速のエルの動き。それにも、ギンは徐々に慣れつつあった。
――攻撃が、通らない。
一発食らえば、負け。
決して芳しいとは言えない戦況。
――なのに。
楽しい。
俺は、笑っていた。
前世では、物心ついてからのほとんどを、病院のベッドの上で過ごした。勝負事なんて、したことがなかった。
友達と、本気で勝敗を争う。それが、こんなにも楽しいことだったなんて。
――もっと。もっと。
俺は、縦、横、斜め――さまざまな角度から、ギンを苛烈に攻め立てる。
ギンは、素晴らしい対応力でそれを凌ぎ続けているが、その表情は、少しずつ険しさを増していく。
――体力切れか。それとも、ダメージが、通り始めているか。
どちらにせよ――これは、チャンスだ。
――じいちゃんには、使うなって言われてたけど。
男が本気で勝負すると言ったからには、使わないほうが――嘘になる。
――ギンお兄ちゃんなら、大丈夫だよね。
俺は、今出せる最速の動きで、ギンの背後へと回り込んだ。
景色が、置き去りになっていくような感覚。
だが――驚くべきことに、ギンの目だけは、その動きを、しっかりと捉えていた。
――だけど、もう、遅い。
ジーンおばあちゃんとの訓練で、発動速度だけは、散々鍛え上げてきた。だからこそ――この刹那の間に、実行できる。
ギンに向けた指先が、白く光る。
放たれる、雷の弾丸。
――――――――――――――――
ギンは、警戒していた。
エルの、サンダーガン。
あれが放たれてしまえば、避けることは、ほぼ不可能だ。それほどまでに、速く――そして、威力も十分すぎる。
撃たれる前に、避ける。絶対に、それしかない。
師匠から教わったこの身体強化は、魔力の消費が、桁違いに大きい。だから――持久戦になれば、負けは必須。
ギンは――エルの猛攻を凌ぎながら、内心では焦りながら、ある確信があった。
仕留めにかかってくる時は――絶対に、あのサンダーガンが来る。
――そこを、狙う。
そして、その時は来た。
エルが、指先をこちらへ向けた、その瞬間。
ギンは、今ある全エネルギーを注ぎ込んで――倒れ込むようにして、がむしゃらに回避した。
耳のすぐ横を、バチバチッと閃光が駆け抜けていく。
少し遅れて、雷鳴が、その閃光を追いかけていった。
――避けれたぞ! ここだ!
発動後は、多少の隙ができる。それも、知っている。
すぐにエルの元へ――向かう。向かおうと、した。
その時。
ギンが見たのは――変わらず、まっすぐこちらに向けられたままの、指先だった。
――そんな、馬鹿な。
「――チェーンバレット(連射)」
その声が、ギンの耳に届くよりも先に。
雷光が、その全身を、貫いた。




